第18話 本題
「ふふふ」
(はっ! いけないいけない。鉄仮面は人前で笑わないものね。久しぶりにクッキーと触れ合えて、嬉しくてつい笑ってしまったわ……)
私は、カシスを連れてくるために自分の部屋に向かっていた。
先程まで行われていた『動物の祭典』。
そこで、なんと『私』がシヤン王国から連れてきたクッキーが特別賞を受賞したのだ。
「あー、クッキー可愛いかったなぁ。もっともふもふしたかった……」
特別賞のメダルをクッキーに授与した時、急にクッキーが喜んで私に飛びかかってきた。
しかし、私がクッキーを抱きしめるとすぐにいつもの落ち着いたクッキーに戻ったのだ。
クッキーも、ジュールの中身が私だってわかったのだろうか。
カシスといい、クッキーといい、動物の感は侮れない。
でも、ちゃんと大切に育ててくれているようで良かった。
まさか芸まで覚えるだなんて……。
「あの少女とトイプードルは初めて見たわ。どちらも可愛い子だったな。早く元の身体に戻って私もクッキーたちと一緒に遊びたいわ」
そんなことをつぶやきながら歩いていると、部屋に到着した。
「カシス〜! おいで〜!」
部屋に入った私がカシスを呼ぶと、「ミャウ」という鳴き声がしてカシスがベッドの下から出てきた。
「カシス、ご主人様に会いに行こう!」
「ニャー!」
私の言葉を理解しているかはわからないが、カシスは散歩に行く時のように部屋の前で座った。
私は、いつものようにカシスにリードをつけ、『私』が待つ来賓用の部屋に向かったのだった。
***
来賓用の部屋に到着すると、私は部屋の前で大きく深呼吸をした。
少し慣れたとはいえ、今度は一対一で顔を見合わせるのだ。
「よし!」
私は自分に気合いを入れると、カシスと一緒に部屋の中に入った。
「失礼いたします」
部屋のソファでは、『私』とクッキーが並んで座っている。
それを見ると、カシスはすぐに『私』の近くに行き足元で何度か鳴いた。
「ミャ〜! ミャ〜!」
すると、『私』は慣れた手つきでカシスを抱き上げた。
「カシス、久しぶりだな。俺がいなくて寂しくないか?」
「ミャウ!」
「そうか。元気そうでなによりだ」
部屋の中には、私と『私』とクッキーとカシスしかいない。
『私』とカシスの久しぶりの触れ合いを見守っていた私は、そろそろ本題に入らなければと『私』に声をかけた。
「あの……ジュール王子……」
顔は自分の顔なのにそう呼ぶのはおかしな気分だが、もうそんなことを言ってはいられない。
「ああ。待たせたな。すまない、ロザリー姫……と、自分に言うのはやっぱり慣れないな」
私とジュールはお互いに顔を見合わせて苦笑いをしたが、そんな空気を一変するように、ジュールは咳払いをしてから話を始めた。
「ゴホン……ロザリー姫、本題に入ろう。俺たちはあの日……ダンスを踊った日に大階段から転落した。そしてそれ以来、俺たちはなぜか入れ替わってしまった」
私は、ジュールの言葉に大きくうなづいた。
ジュールはそれを確認すると、話を続けた。
「こんな信じられないことがあるのかと、まだ疑問に思うこともあるが、これは紛れもない現実だ。俺たちは元の自分になる方法を見つけなくてはならない」
「そんな方法あるの? あるとしても、一つしか思い浮かばないじゃない……」
「ん?」
「わからないの? またあの大階段から一緒に転がり落ちるのよ! それしかないでしょう?」
私の言葉に、ジュールは苦渋の表情を浮かべる。
しばらくの間、部屋の中には不穏な空気だけが漂っていた……。




