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第17話 『俺』の笑顔

 さっきまでのことは夢だったのだろうか

……。

いや、現実だ。

そもそも、自分がロザリーになっていることが現実なのだから。


「はあ……」


 係の者に案内された部屋で、ジュールは大きなため息をついた。

まさかこんな形で自分に会いに来ることになるとは、人生何があるかわからない。

想像の域を超えているだろう。


「ロザリー様。少しお疲れのようですね。お飲み物をいただいてきましょうか?」


「ああ。頼む……」


 クララに返事をする途中で、ジュールは言葉を飲み込んだ。

言葉使いに関して、シヤン王国を出る時にクララから厳しく言われていたことを思い出したからだ。

なるべくお淑やかに? だったか。


「ええ。お願い」


 ジュールが言い直すと、クララは満面の笑顔でうなづきながら飲み物を取りに行った。

それにしても、『俺』になっているロザリーはちゃんと男性のように振る舞っていた。

そこは評価してやる。

問題はあいつだ。フランク。

あいつはどうしていつもああなんだ。

女性を見るとすぐにエスコートしたがる。

油断も隙もあったものじゃないな。

女性側から見ると、なんだか余計にイライラしてきた。

単に、俺があいつのことがあまり好きではないからなのかもしれないが。

しかしまあ、『俺』はフランクともなんだかんだうまくやっているようで安心した。

いや待て、安心していてはダメだ。

なんとかして元の身体を取り戻さなくては……。


「ロザリー様。紅茶をいただいてきました。今、お入れしますね」


 紅茶が入ったポットとティーカップを乗せた銀の盆を持ったクララが、慣れた手つきでお茶の支度をしている。

入れてくれた紅茶の香りを嗅ぐと、懐かしい記憶が蘇ってくる。

これは、ミア王国王宮御用達の茶屋から仕入れている紅茶。

いつも当たり前のように飲んでいた紅茶だ。


「美味しい……」


 しばらく郷愁に浸っていたジュールの元に祭典開始を告げる知らせが届いたのは、それからすぐのことだった。


***


 クッキーとマフィンを連れたマリーが祭典の舞台に上がると、その可愛らしい様子に会場が沸いた。

この『犬の祭典』に出るまでに、マリーは毎日、クッキーとマフィンにいろいろな芸を教えていたのだ。

二匹は、マリーの言う通りに芸を披露している。

来賓席で舞台の様子を観覧している『俺』が、クッキーを見て目をキラキラさせながら今すぐ駆け寄りたいという顔をしているのをジュールは見逃さなかった。

全ての出場者のパフォーマンスが終わり、審査の結果、残念ながらマリーたちは上位三位までに入ることは出来なかったが、観客からの圧倒的な支持により特別賞を受賞することになった。

上位三位のメダルの授与が終わり、次に特別賞であるマリー、クッキー、マフィンにメダルが授与された。

メダルを授与した、この祭典の取りまとめ役である『俺』は、すごく嬉しそうだ。

その時、何かを感じたのかクッキーが「ワン! ワン!」と元気に鳴き、尻尾をブンブンと大きく振りながら『俺』に飛びかかった。


 (いけない!)


 突然のことに会場がざわめき、ジュールもその場に駆け寄ろうとしたが、『俺』はクッキーを抱きしめると一瞬にしてクッキーを大人しくさせた。


「いい子だね! クッキー!」


 クッキーを愛おしそうに撫でながら、笑顔で対応している『俺』に、会場から大きな拍手が起こった。


 (笑顔、か、)


 ジュールは、忘れていた何かを思い出したかのように『俺』から目が離せなかった。


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