第12話 犬の散歩と少女
早朝のシヤン王国。
ジュールは、クッキーの朝の散歩のため城の外を歩いていた。
毎日、ロザリーはクッキーを連れて城の近くの公園まで散歩をしていたらしい。
あれからジュールは、医者の診察を受けた際に記憶がないと嘘をつき、医者から記憶喪失との診断を受けることに成功していた。
その際、毎日日課としてやっていたことを続けたほうがいいと医者からのアドバイスを受けていた。
そうすることで、記憶が戻る効果があるかもしれないのだそうだ。
ロザリー付きのメイドのクララは、ジュールに日課としてクッキーの散歩を勧めた。
「ロザリー様。怪我の状態も落ち着きましたし、久しぶりにクッキーと散歩に行かれてはいかがでしょう」
「散歩か。そうだな。気分転換にもなるかもしれない」
相変わらずのジュールの話し方にクララは苦笑いをしたが、記憶喪失なので仕方がないと諦め話を続けた。
「いつもロザリー様は一人でお散歩にお出かけになっていましたが、今は記憶喪失ですし、誰か護衛をお付けしますね」
(剣の一本でもあれば護衛など必要ないのだがな……)
そして今朝、ジュールがクッキーを連れて城の入り口に行くと、そこには可愛らしい茶色のトイプードルを連れた小柄な少女が立っていた。
「ロザリー様、おはようございます」
少女は、ジュールの姿を見るとそう言って深々とお辞儀をする。
「マリーと申します。メイド見習いをしております。今日からロザリー様のお散歩に同行させていただきます。よろしくお願いします」
(この小さい少女が護衛だと?)
「マリー、その犬は君の犬か?」
「あ、はい! マフィンという名前のトイプードルです」
ジュールは、にこにこと嬉しそうに笑って答えるマリーと大人しくその場に座っているマフィンを見つめ小さくため息をついた。
(何かあった場合、逆に俺が守ってやらねば)
「では行こうか、マリー。クッキーとマフィンも出発するぞ」
「はい!」
「バウ!」
「キャン!」
(いけない。つい騎士団団長のような口調に……)
マリーに案内され、ジュールは城の近くの公園に向かったのだった。
***
公園に到着すると、そこには小さなドッグランが併設されていた。
「ロザリー様、ドッグランでクッキーとマフィンを遊ばせましょう!」
マリーは、慣れた手つきでクッキーとマフィンのリードを外すとドッグランに二匹を離した。
二匹は嬉しそうにドッグランを駆け回っている。
「ロザリー様と一緒にお散歩に来れて、クッキーすごく嬉しそうですね! ロザリー様が外出出来なかった間は私がクッキーをお散歩させてもらっていたんですけど、少し寂しそうでした。元気になって良かったです!」
「マリーがクッキーの散歩をしてくれていたんだな。ありがとう」
ジュールがお礼を言うと、マリーは恥ずかしいそうに顔を赤らめた。
その時、ドッグランにクッキーとマフィン以外の犬の鳴き声が響き渡った。
「ワンワン! ワンワン!」
ジュールとマリーが何事かとそちらに目をやると、一匹のドーベルマンがクッキーとマフィンに向かって激しく吠えている。
「いけない! クッキーとマフィンが危ない!」
ジュールは、クッキーとマフィンを助けるためにその場に向かおうとしたが、後ろから聞こえた声にその場に立ち止まった。




