婚約の話は円満に白紙化されました(でもなぜか釈然としません)
婚約を円満白紙化を想像して思いついた。
わたくしは、辺境伯……の姪にあたります。この度、中央貴族と辺境貴族らの溝を埋めるために王族と婚約の話が持ち上がりました。
わたくしは、美人で有名でした先代辺境伯に嫁いだおばあさまにそっくりだったそうで、筋肉隆々(骨格含めの意味で使うなら筋骨隆々)で鍛え上げている辺境伯一族……ごほんっ。ええ、言い方を変えるとゴリラと言われている一族の中で数少ないゴリラ体質になりにくい存在で、おばあさまそっくりの美人なら婚約者になるかもしれない王子も中央貴族も納得するだろうと言われての婚約の話だったのですが。
「すまない。君との婚約の話はなかったことにしてほしい」
とりあえずお見合いでもと思って用意された席に着いてすぐにお見合い相手の王子に頭を下げられてなかったことにしてほしいと言われました。
ええ、わたくしも貴族令嬢です。王子に想い人がいるというのはよくある話であるし、お見合いが気に入らないと冷遇されるのも覚悟してきましたよ。その手の話はよく聞きましたし、それでお見合いを断られた辺境伯の一族の実話が涙を誘うものであったし、気絶されるとか悲鳴をあげられるよりはましだという悲しい話もありましたし。
なので、わたくしなら悲鳴も気絶もないだろうと太鼓判を押されてのお見合いだったのですが、まさか会って早々に断られるとは思いませんでしたよ。
『ソリシャは綺麗だからな。大丈夫だろう。……我々には気づかないゴリラの空気を放っていなければ』
辺境伯さまの言葉を思い出してしまう。やはり、ゴリラ一族の中では気付かれなかったゴリラな空気を持っていたのでしょうかとどこからどう見ても普通の令嬢ですよねと近くにある池を覗き込んで確認して、近くに控えていた侍女や従者に視線を送ると皆一斉に頷いて肯定してくれた。
「ああ。すまない。君が悪いわけでもないし、辺境伯一族との婚姻の重要さも理解している」
でも、なかったことにしてほしいというのはどういうわけだろうと首を傾げても仕方ない。だって、他の女性陣は実質居ないようなものだ。わたくし以外と婚姻と言われるつもりなのか。
「だけど、考えてみてもらいたい。辺境伯との婚姻での絆を結ぶのに辺境伯の実弟の娘。つまり、姪なのが納得いかない。辺境伯には娘がいるのに」
「えっと………」
言っていることは正しい。どうせなら姪よりも娘ですわね。だけど、辺境伯令嬢……つまりいとこの顔を思い出して汗をだらだら流してしまう。ああ、淑女の顔が崩れそうだ。
「あの、アリシアは………先代辺境伯にそっくりで、先代辺境伯が女装したらあんな感じだと皆に太鼓判押されるほどの顔立ちで」
「ああ、厳しさと威厳に満ちた顔立ちだったな」
先代辺境伯が女性だったらではない、先代辺境伯が女装だったらと告げている時点でお察しだと思うのに何で顔を赤らめて何かに想いを馳せているのでしょうか。
後、厳しさと威厳さってほぼ同意語ではなく?
「筋肉も女性らしさを宿した付き方をしていますが、体格はいいですよ」
「あの肩幅は立派だった。手も剣肉刺が出来ていたな」
うっとりとしたように言われてかなり引いてしまったのは許してほしい。
「以前、剣技も乗馬も出来なくて涙ぐんでいた時に現れて、『努力は貴方を裏切りません』と告げて頭を撫でてくれた大きな手が忘れられなくて………」
「…………いつ会ったんですか?」
と言うか会ったのか。あのいとこと。いとこがいなくなってもどこからか響く悲鳴で居場所が分かると言われるほどのゴリラのいとこに。
「5年前。王都の祭りで」
ああ、あったわ。辺境伯一族皆で参加した祭りが。確か、辺境伯に褒賞を与えるからと言われて王都など一生行けないだろうしと観光目的にみんなで総出で。
あの時王都のいたるところで悲鳴が上がったな。
「その時からアリシア嬢をお慕いしていて、此度の婚約も自分から名乗り上げたのだ」
「はっ……はあ。そうですか……」
「だが、みえたのは貴方で、正直期待していた分ショックが大きくて……」
「………」
もう何を言えばいいのか分からない。そこから延々と聞かされるいとこがいかに素敵だとかそんな話。
姿絵もこっそり購入しているとまで聞かされて、どんな顔をしていいのか分からなかった。
(貴族令嬢の顔をキープできただろうか)
内心そんなことを考えながらいとこの話を続ける羽目になった。
後日。亡くなった美人で有名だったおばあさまが先代辺境伯のお爺さまにぞっこんで、押しかけ女房だったのに彼女に失恋した輩が先代辺境伯が無理やり攫ったと思い込んでいたという事実も発覚して、中央貴族との溝もそこが原因。だったらしい………。
王子の話を聞いた辺境伯、ご子息(わたくしのいとこ。次期辺境伯)。お父さまらは、
「「「王子もおふくろ(ばーちゃん)の同類かぁ~」」」
と一斉に溜息を吐いていた。
で、いとこのアリシアの意思を確かめたら。
「あの時の泣いていた子供だったのか。ああ、そうなのか」
と嬉しそうに話を聞いていたので脈ありかと判断されてすぐにお見合い相手は交代された。
その後、王子に横恋慕する可愛らしい可憐な貴族令嬢が力で物を言わせて王子を奪ったと噂していたが、また中央貴族と溝が出来ないか不安を抱いたが、そこら辺は次の世代に期待しよう。
王子といとこの関係はラブラブで見ているこっちが胸焼けしそうな勢いだった。
うん。婚約を白紙にして、両者納得だけど、なんか腑に落ちない。そんなジレンマを抱えつつ、今日も凶悪ゴリラのいとこに姫抱っこされている王子を直視しないように目を背けるのであった。
いとこの字を悩んでひらがな
ちなみに辺境伯令嬢のアリシアは、封神演義の雲霄のイメージ