夢の販売機
スカイツリー近くの下町に100円を入れると物語をしゃべる自動販売機がありました。
子供がお父さんに100円をおねだりします。
「ねぇ、物語を買って」
お父さんは言います。
「そんなの家で本を読んでやるよぅ」
「お父さんじゃダメだよ。この物語は声がいいんだよ。本物みたいに」
子供は真剣です。
「しかたないな。はい、100円」
お父さんからお金をもらって自動販売機に100円玉を入れました。
それから、よーく選んで「桃太郎」のボタンを押します。
すると桃太郎が三分間語られました。
鬼が出てくるところなど実感がこもっていて、背筋が震えるほどでした。
「すごかったね」
となりに立つお父さんも驚きました。
「ねぇもう一回、100円ちょうだい。お父さん」
子供が次の物語をさいそくします。
「うーん、桃太郎はよかったけれど、ほかに珍しいお話はないの?」
そう聞かれた子供は、並んだボタンをよーく探して、発見しました。
「あった、夢だって!」
「じゃあ100円ね。あっ、落ちた」
お父さんの手から金属音をたてて100円玉が地面に落ちてしまいました。
とっさに100円玉を拾おうとしたお父さん。
自動販売機に頭がぶつかりました。
「あいた!」
するとお父さんが物語をしゃべり始めました。若くてとってもいい声で、お父さんの子供の頃の夢を語ります。
「僕の夢は科学者になることです。たくさんお金を稼いでスポーツカーに乗りたいです。そして可愛いお嫁さんと結婚したいです」
そしたらスイッチが切れて、元のお父さんに戻りました。
「お父さんの夢は叶ったの?」
子供は笑顔でたずねました。
「いや、でもね、今は君がいて、もっと幸せだよ」
お父さんも笑いました。