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8,訓練開始


 翌日から訓練が始まった。

初日最初の授業は、ロボットアーム操作の講習。ドームのメイン建物の隣の工作作業建物館の一階にアーム操作室があり、訓練生が全員、その教室に集められる。

 沙織たちが中に入ると、部屋には関節を持つ細長い骨格の形状をした、3メートルぐらいある金属製アームが設置されていた。


「すげー、スパイダーマンの敵のドクターオクトパスのようなアームだ」

 誰かが言う。

軽量化されて細く、まるでタカアシガニの足に似た金属の腕。そしてその先端には、4本指が付いていて、挟み掴むことができるようになっている指である。

 そのアームが2台、ドーンと並んで鎮座している。

 集合した20人の訓練試験者を前に、ミッション・スペシャルクルーの搭乗運用技術者である大滝さんが、笑顔で迎える。

「ウエルカム」


 陽に焼けた丸顔の童顔の大滝さんはアームに近づき、説明を始める。

「もうどこかで見たことあると思う。これが宇宙空間で作業するとき使用されるロボットアームです。・・・これは初期の頃のモデルだから小さくて非力であるが、システム自体は最新を組みこんでいるので現在の操作と変わりないので、問題はない。安心してください。・・・実際の宇宙ではこのアームを使い、地球から送られてきた物資の開封や取り出しを行い、出した宇宙空間にて、組み立てなどを行う。つまり宇宙ではこれを使わないと、作業業務ができないということになります」

 まだ電源が入っておらず、ぶら下がっているアームを揺すって説明する大滝講師。

「今まで宇宙空間での船外活動は、危険が伴うため、あまり頻繁に行われてなかったが、これからの宇宙時代では小規模・大規模に関わらず船外活動がメインになり、頻繁に行われると予想される。特に新しいパーツを多く取り付けることになる、このハンモック計画では宇宙空間での作業は重要な要素で、アーム操作を習得してない者は役に立たないだろう。そのためアーム操作のスキルは、必要不可欠。なんとしても修得してほしい」


 大滝講師は、そのまま話を続け、構造の説明と一連の操作方法を説明し終わると、奥の部屋に行き、アームの主電源を入れる。

 こちら側のアームの部屋全体に青いランプがプラスされて、油圧が動く音がしてくる。そしてアームの届く範囲に、目に見える赤外線が張られ、その中に入ると警告音がなるようになった。

 大滝講師、戻ってくると目視で安全確認をし、アームの正面の壁にあるアーム本体の電源を入れる。

 電源が入ると油圧が回りだし、宙に浮いていた指が振動し始めて、動く状態になったことを知らせる。

そして部屋全体に機械のシステムから「アテーション。プリーズ」と英語とロシア語で注意喚起のアナウンスが入ったあと、プログラミングされている正面カメラの前の定位置にアームが移動して止まる。

まるで医者が手術をする前にする「手のひら確認」の所に停止して待機状態になった。


「ここは宇宙じゃないので重力があります。宇宙では、微弱電源を入れた状態で待機しているが、地球では電源を切ってフリーにしている。操作する時は必ず電源を入れて、こういう状態になってから操作に入ります」

 次に大滝講師、みんなを隣のアームの操作をする部屋に案内する。


 アーム室の奥の部屋が操縦室になっていて、衝立に仕切られて指の入る握力装置・操舵トリガーがある運転台が2台ある。

 運転台の前には、モニターが3台並んでいて、真ん中・右側・左側から写された画像を見ながら操縦するようだ。

「ようこそ。オペ室へ」

 次に大滝さんは操縦台の説明する。

「動作確認してから、こちらに来て自分の手を入れるように。先に手を入れていると危険なのでセンサーが働き、停止したままです」

 そして大滝、先ほど説明した通り、トリガーに指を入れ、引き寄せる。

モニターで映っているアームがそれに連動して、ピクピク動く。そして大滝講師は、手と腕を定位置につけて

「スタンバイ、オッケー。アクション」

と声を発し、音声連動システムを発動させてアームを動かす。


 大滝の指の動かしと同じようにフィンガーが動き、腕の位置をセンサーが受け取り、アームが自由に動く。

「オーー」

 見ている訓練試験者が、驚きとも喜びにも似た歓声をあげる。

「・・・と言う具合だ。ちょうど目の前にいる・・・ジン。ジン・クライン。やってみろ」

「えー、私ですか?」

 イスラエル人のジンが聞き返す。

「僕はすぐに実行します。百の理論より、一回の実践。これが僕の考えです」

「でもまだ一度も・・・」

「いいから、隣の部屋の電源のスイッチ入れて、アームを確認。そしてこちらに戻る。オッケー?」

 大滝は隣のアームでジンにやらせる。

 ジンはアーム室に行き、恐る恐るスイッチを入れると、動き出したアームがスタンバイ位置に来たのを確認すると戻ってくる

「確認しました。それで先生、これ・・・」

「見てただろ。指を入れて握ってみろ。親指は下に向けてストッパーの位置を触る。トリガーに入れた他の4本の指で掴んだり、離したりする。手を入れろ。そうだ金属の輪っかのついた引き金に・・・そう、そこに指を入れろ。人差し指から順にだ」

言われて入れるジン。うなづく。

「コールだ。スタンバイオッケー。アクション」

 ジン、自分の目の前にあるマイクに、言われるままコールすると動き出すジンの操作するアーム。

 ジン、モニターに映るアームの指の動きを確認して、興奮してる。

「おー、遠隔手術の医師のようだ」

「面白いだろ?もっと動かせ」

4本指を開いたり閉じたりすると、カタカタ動く指。


 大滝、前後左右に動かし、操作の仕方を見せて、アームの動きを確認させる。それを真似て同じように動かすジン。

「考えるな。もっと自由に」

「はい」

「やり込むことで自分の体の一部になる。・・・それでは、これから操作作業の訓練に入ります。ちょっと手伝ってくれ」

 戸口近くの訓練試験者・数人を引き連れ、大滝は隣のアームの部屋に行き、横にあるドアを開いて、中から台車に乗った1.5メートル四方の箱を2箱、アーム室内に運び入れる。

 そして各アームの作業範囲内に設置する。


「ここのいい所は、操作室と作業室が隣接しているところだ。作業していてモニターだけでなく作業室に回れば目視もできる。・・・モニターで作業していると、3方向からカメラ以外の見えない場所は想像でやるしかない。でも普段から目視で作業しているとイメージできるようになり、感覚が掴めて予測がつくようになる。・・・ちょっとやってみせるぞ」

 大滝、部屋に戻り、アームを動かし台車についた箱を引き寄せ、箱の前面についた取手を掴む。

そしてアームをゆっくりと引くと前側が動き出し、扉になっている前が左に開いていく。


 蓋の開いた中には台座があり、その上に蓋のないワゴンのような皿が設置されていて、皿の中には20センチ程の銀色の金属のオブジェが数点、置かれている。


 大滝はアームを入れて皿の上に幾つかあるうちから、球体のオブジェを掴んで出し、モニター前に持ってくる。

「掴みづらい球体を選んだ。だがこのアームなら簡単に掴める。・・・しかし最初は隣にある多角形体の方が掴みやすいだろ」

 球体を戻して、隣にある6角体、4角体を掴んで見せる。

「どう?わかったかな?隣の部屋からもう一度見て」

 みんなをアーム室に戻し、アームを動かして、目視にて球体をモニター前に持ってくる動作を確認させる。

 アームで掴んでいたオブジェを箱に戻し、最初に開いた蓋をゆっくりと閉じて元に戻す。これで終了。


 アームをスタンバイ位置に戻し、大滝がくる。

「どうだ?わかったか?じゃあジン。やってみて」

 アーム室にあるマイクが、大滝の声を拾い、隣の操縦席のスピーカーに流れ、ジンがアームを始動させる。

 ジンのアームがブルブル震えながら、箱の取っ手に近づく、

「そうそう、その調子。・・・どっちで見学してもいいよ。でもアームに近づきすぎるとアラームがなって止まるから近づきすぎないように」

 そういうと大滝、操縦室に戻る。


 沙織たちも操縦席に行ってみると、緊張のためか汗を吹き出しながら操作するジンを見る。

「早すぎず、ゆっくりすぎず。そうそう。掴んだら端に寄せて、宇宙にはないが地球には重力あるので、指を下に滑り込ませて・・・」

 ジンに教える大滝。

「・・・ではこちらも動かすか。ユアン。こっちの電源入れるところから行こうか」

 操縦室入り口近くにいた中国人ユアンをアーム室に連れていき、大滝、アーム電源を落とし、ユアンに最初から始めさせる。

「はい・・・」

 ユアン、アームの見える正面にあるある電源スイッチを入れる。アームが油圧で動き出す。


 操縦台のモニター越しのアームが動くのが見えた。

 大滝はアドバイスする。

「ロボットアームは、機械が相手だ。何度もトライして、作業回数をこなせば覚えるし上手くなる。・・・ジン。球体はもういい。多面体で。角が少ない方が掴みやすいぞ」


 大滝から変わった中国人のユアン。操縦台につき、操作トリガーを装着して、操作開始。扉を開けて球体に挑む。

「あ、落ちる。・・・あれ?落ちる」

 掴めない球体。

「今は重力があるので、難しい。

それを見越して、掴む場所を考える」

 掴もうとすると滑る。球を追って動かすユアン。

「重心を外すと、落ちるぞ。・・もう少し、握って」

 ユアンのアームがプシューと油圧を逃し、緩んだ指先から滑り逃げる球体。

「握りすぎだな。じゃ・・・ジンは交代して。・・・では沙織。やってみなさい」


 ジンが終えて、電源スイッチを落とすのに付き合い、沙織が変わって電源を入れる。

「電源、油圧、システム、・・・セット、オッケー」

 口ずさんで、確認する沙織。そして沙織、操縦の部屋にいく。

 ユアンにアイドバイスしている大滝が微笑む。

「経験者、見せてくれ」

「よろしくお願いします。」


「スタンバイ、オッケー。アクション」

 発言してシステムを稼働させる沙織。

 指を開き、中指・薬指を曲げて、上に向けて、人差し指と小指のトリガーを狭めて、球体の下にアームの指を滑り込ませる。

 そして曲げた中指と薬指を、球体の上にゆっくりと添えて軽く抑える。

「お。上手い、うまい」

 手首的な関節をちょっと上げて、球体を指の間に滑らし、指の奥まで入れると、中指と薬指を少し開き、球体を挟んで横からも落ちない程度で握る。

 そしてアームの手首を回し、引き寄せて箱から出して、カメラ前に持ってくる。

「ほう、いいね。俺より上手いじゃね?」

 笑っている大滝。

その様子に訓練受験者たちは、褒める人間とクールに見つめる人間に分かれる。


 それから順番に、20人全て経験させると、

「これをできる限り、毎日やってください。簡易シュミレートなら、ここのハンモックHPに、パソコンと連動した仮想アームがあるから、部屋でもキーボード操作で作業練習ができるのでダウンロードして使ってください。・・・それにこの部屋は開放するので、実機アーム本体を、もっと練習したい人は、セキュリティーに2人以上で届を出し、この部屋を開けてもらって練習を可能にしておきますので、どんどん使って動かして訓練してください。・・・それじゃ今日の授業終わり」


 立ち去る訓練生たちの中から沙織が大滝に挨拶に行く。

「お久しぶりです。大滝さん」

「沙織〜。3年ぶりか、パルテノンのアームの講師で行った時以来だな、どうしてた?」

「なんとかやってます。・・・こうしてハンモックの訓練試験の受験生です」

「大変だったなパルテノン。沙織はもう日本に戻るって聞いていたから、ここには来ないと思ってた。・・・どうだ?やはり、宇宙への夢が捨てられないか?」

「まあ、ソラに出てないので、なんとしても行ってみたいと思っています」

「そうだろ。俺もそうさ。機会があれば俺もいくぜ」

「なに言ってるんですか。大滝さんは日本で一番ソラに出てる経験者じゃないですか。もう伝説の人になっているんですよ。それにもう先生じゃないですか。まだ行くんですか?」

「先生しながら、俺は狙っている。もう一度、宇宙にいくんだ。ライバルだな沙織」

 笑う大滝。超ポジティブでおおらか。

なんか宇宙に関わる日本人って、こういう人ばっかりだと、沙織は思う。


「そういえばアームでいうと、事故でいなくなったマイケルは残念だった。惜しい人材を失った。特に彼はキャッチング・アーム技術がうまかった。沙織といい勝負するアームの使い手だったのに」

「それは私が徹底的にレクチャーしましたからね。特訓ですよ、特訓。両手に箸をつかませて、煮豆の箸渡しが出来るまで、毎日毎日やらせましたから」

「そうだな。マイケルと親しかったんだものな。陽気で、フレンドリーで。・・・・惜しいやつを無くしたな」

「はい」


 大滝と楽しげに話しているとこちらを見つめている訓練生に気がつく沙織。

「どうした?」

 ちょっと顔をしかめたのに気がつき、大滝、目線をおうと、沙織を睨むユアンに気がつく。

「ちょっとこちらを、ライバル視しているようで、よく睨まれるんですよ。・・・同じ地域アジア、そして女性だから、合格者基準がダブるようなので・・・」

「いや、それはないな。男女、国籍、構わず選んでくれと、総司令フランシスから言われているが・・・」

「そうなんですか?」

「ヨーロッパ系の人間だが、フランシスは公平だな。『ダメなやつは、ほっとけ。いいやつは伸ばせ』とフランシスから最初に言われている言葉だ」

「なんか冷たそうに見えるんだけど」

「立場上そう見えるだけなんじゃないか。・・・それでシェンが沙織を敵視しているのは、あれは嫉妬だな。結構、アジア人の中で日本人は恨まれる。しょうがねえさ。・・・これら機械がほとんど日本製だ。基本的に日本人文化の利き手・右手操作で作られているから日本人には馴染みがある。直感的に使いやすいんだよ。それをうまく使いこなす、俺らを見て嫉妬するんだ」

 ファイルを重ね、後片付けをしながら大滝が話す。

「俺もよく吊し上げられた。贔屓されているってな。だがそんな物など実際にない。実力の世界なのだ。・・・他の国の文化は、贔屓が当たり前の世界。そんな国で育つと、できるアジア人に納得できないんだ。・・・人種とか肌色とか、そんなもの宇宙いけば、全く関係ないのにな」

 とてもよくわかる沙織だった。

「ただ、日本人がいると日本語が喋れるのはいいね。なんか歌いたくなる」

「歌?」

「ああこればかりは、どうにもならん。日本語を聞くと日本の歌が唄いたくなるんだ。若い時に歌った日本の歌。日本の歌は、日本語独自の言葉の抑揚。これは日本人の魂だからな」

「・・・7つの海で、7つ宝を求めて、7人で行こう。俺たちは海賊、どこでもいける」

「お、アニメのセブンズマーチだな。・・・さあ行こう。勇気と希望を持って・・・」

 共に歌って、笑いあう沙織と大滝だった。



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