7,午後の施設案内
「近くで見るとでかい」
メインのキラキラドームの中央に鎮座しているハンモック船体。
午後の見学が開始されて、施設案内で入ったく飛行士訓練試験生が、それを見上げて驚いている。
訓練で使うハンモック船体は、実際の宇宙空間で浮かぶものと同等で作られ、運転席、作業室、ドッキング接合部分や各種生活装置をさえも取り付けた巨大なもの。そのため縦10m横40mぐらいの規模になり、ビル3階建のマンションぐらいのスケールである。
総責任者のフランシスの言葉によると、宇宙で本当に制作されるものは、この数倍の大きさになるだろうと言っていたが、訓練で必要なものはメインシステムと居住地とテスト用のパネルなので、それを組み込んでだだけのコンパクトな形であると思う。
しかしでかい。多分居住に重点を置いているのだろう。そこにこれが大きなプロジェクトであることがうかがわれる。
「これを宇宙に打ち上げるの?」
「まさか」
「これを3回か4回に分けて打ち上げて組み立てるのだ」
「そうよね」
衝撃を受けると、ついつい本心が漏れる。沙織の前の同じ訓練試験者が話し合っている。
「そうか彼らは船体を見つことはないから圧倒されるのもわかる」
沙織は宇宙訓練の経験者だから見慣れていたが、初めてだとこんな感じなんだろう。
見ていて、なんか昔を思い出し楽しい沙織。
「こちらが、動力です。こちらにはロケットエンジンは付いていませんが、ダミーで出力計測器は装着されてます。燃料系の可燃物は、別の建物で管理し、整備・メンテナンスはG館の工作棟で行います」
外周から見て回り、案内されていると、おんなじように見学会をしている整備部署の人たちと遭遇する。 整備部門合格者の50人くらいが、ゾロゾロとスタッフに引率されて説明を受けている。
「宇宙でのエネルギーは太陽電池で賄いますが、こちらには発電所から引いた電源を装着しています。それにより稼働モーター、油圧システム、酸素発生システム、水循環システム、その他の機械類の作動は装着済みなので、ここで実際行われます」
こちらの集団は、整備部門見学者を追い越し、船内横に案内される。
「こちらから入ります」
そこにあるタラップを上り、船内から船外に出るハッチから中に入る。
小さい扉の船外ハッチから、チャンバーである消毒スチームルームを通過して、組み立て作業スペースを過ぎてメインデッキへ。
「すごいな。本物と同じか。訓練用に新品を組み立てるなんて余裕あるな」
「なに感心しているんだ沙織。みろ。・・・これ見覚えあるだろ?」
レイが指差すものを見ると
「あ、これサミュエルが折った通信ステック。溶接しなおして使っていた。あれ?・・・というとこれ、パルテノンの部品」
操縦席の計器類も見たことある配置で、組まれている。
「実際に打ち上げる本物は、現在作成中だろう。ここにあるのはパルテノンのお下がり」
「経費節約なのね。・・・やはり民間だからって金がふんだんにあるわけじゃないか」
見回すとコックピットから周辺機器まで、見慣れたものが並んでいる。
「これなら馴染みがあってやりやすそう」
「そうだな。だったら試験は落ちないな」
「それは嫌味?」
「現実を言ってるまでだ。まあ信頼できる奴が、いたほうがありがたい。落ちるなよ」
「頑張るわ」
相変わらず、クールなレイ。
「しかし派手ね。ジュラルミンでキラキラにしなくてもいいだろうに」
「まあ、ハッタリを利かすために必要なことだろう。・・・でももうダウンサウジングが出来ているものもあるんだな」
確かに通信機や計器モニターの数、自動操縦システムがしめていたスペースなどは色々コンパクトになっている。たった数ヶ月なのにパルテノンより小さくまとめられているというは凄い。
きっと本体は色々な機器が新型で小さくされているのだろう。
キラキラドームから出て、違う建物に行くと、各種作業をシュミレーターするルームがあり、その各部屋を回る。
アーム操作室、減圧ルーム、重力増加装置、暗視活動ルーム、無重力プール、無重力作業シュミレート装置。その他。
そして全員が座学を学ぶための大きなミーティングルームがあり、そこに各講師の先生方が集まっていた。
「それではみなさん、座ってください。先生方を紹介したいと思います。・・・正面中央におられる方が、メインパイロット指導・コマンダーのブラウンさん。今回のパイロット養成カリキュラム全ての決定権を持っています」
ずらっと並んだ講師人の中央にいる白髪でメガネをかけた初老の人が立ち上がる。
「あ。エドナの家で写真を見た。長年スペースシャトルのコマンダーをしていた人」(58歳)
ブラウンさんは、にこやかに笑って挨拶する。
「そしてその横のメインパイロットのスミスさん。(50歳)同じくスペースシャトルのパイロットです」
ブラウンさんが座ると代わりに立ち上がって、みんなを見回し会釈するスミスさん。
見覚えある。
シャトルが宇宙空間から地球の帰還するとき、操縦しているVTR映像を何度も目にしているが、その中で写っているのが一番多いパイロットの人だ。
「続いてミッション・スペシャルクルー。搭乗運用技術者の大滝さん。(43歳)宇宙遊泳やアームロボットの操縦のスペシャリストです」
ブラウンさんの逆となりにいた日に焼けた丸顔の童顔の大滝さんは、立ち上がると、みんなに手を振る。
「あれ、大滝さんだ。大滝さんが参加するんだ」
大滝さんは最長宇宙空間滞在の記録をもつ日本人の第一人者。
沙織は目が合い、お辞儀をする。微笑む大滝さん。
「ペイロードスペシャルクルー。搭乗科学技術者のモニカさん(39歳)科学、実験担当で、主に船内からサポートに従事している。コンピューター、通信、シュミレーターに精通しています。」
大滝さんの隣に座った女性の方が、立ち上がり、みんなの顔を見回す。微笑んでいるが、怖そう。クールビューティーな女性である。
「パイロット訓練生の資料はファイルにあります」
スタッフは手短に訓練生の名前と国籍を言って、紹介する。
「レイ・ジョンソン。出身はイギリス。アルファ・バル。出身はインド。ケケ・パウロ。ブラジル出身。リュウ・ユアン。中国出身・・」
日本人の沙織やその他ドイツ、サウジアラビア・・・と紹介されていく。そして20人の試験生はやはり全体的にアメリカ人が多いことがわかった。
「そしてこの後は宇宙服の着用になります。」
再び、キラキラドームに行き、病院の建物の逆となりに、でかいシャッターの建物に行く。そこが、資材搬入の入り口になっている。
エレベーターで2階に入ると、細々とした実験室が並び、その一つにユニット合成室がある。
入ると、4体の厳つい船外宇宙服が背中を広げ、介護スタンドで立てられて並べられている。なかなか壮観である。
「まず船内活動用簡易宇宙服になります。体に密着した素材で、ストレッチ性もあり、活動しやすくつくられています。これにヘルメットをつけて、突発的な真空には耐えられるようになっています」
「凄い。薄い。なんだろうこの素材。どんな生地で作られているんだ?」
沙織、驚いていると、同じように着用経験者のレイも驚いて、沙織を見る。頷きあう2人。
「そしてこちらが船外活動用・宇宙服になります」
こちらパルテノン同様。ごつい作りで出来ている。
「背中の計器類と酸素ボックスが収納されているハッチを開けて、服に体が接触しないように、足から挿入していきます」
試着用に2体出され、酸素や通信バッテリーを装着され、着用スタンドに移される。
背中から、計器やコードを引っ掛けないように、ブラジルのケケとインドの2人が着る。
支給された服が上下分離しないツナギなのは、この服を着るためなのである。
宇宙服を着て動くケケ。
「すごいな。やはりロボットだ。」
生身の体を機械にねじ込む。そんな感じだ。
関節があり動くが、それ以外は硬い攻殻を身に纏うことになる。
本来は自分のあったものがあつらえられるが、宇宙空間には一定の数しか用意できない。高額であるのと、占有スペースの問題で、そう何体もストックできるわけではなく、何かの不具合が起きて予備を使用する可能性もり、汎用できるように飛行士の身長制限があるのはこのためだ。
あと数人、着用チャンスがあり、目を輝かせて順番を待つ訓練生たち。
「懐かしいな。自分もそうだったわ」
「そうだな。これが着たくて、宇宙飛行士になりたいとも思ったぐらい。憧れの宇宙服だからな」
レイも同じ気持ちだ。
宇宙服から出てくるケケ。
「暑い。蒸し風呂だ。」
「でも黒焦げや氷付けにならないためには仕方ないことね」
中国人のシェンが外すのを手伝う。これも訓練の一環である。
「高温300度、低温250度。それに耐えるのはこれぐらいの設備の服でないとやっていけない。」
イスラエルのジンに言われながら着せられるインドのバル。
磁石で吸い付けられて、背中が閉まり、酸素の圧縮でロックがかかる。
着せられて喜ぶインド。嬉しそうに第一歩を踏み出すと、・・・転ぶ。
笑う、みんな。
「助けて。起きれない」
「それを着たまま起きれるようにならなくてはいけない」
ジンの言われる。
「それは無重量状態だろ。助けてくれ」
「レイ、宇宙服の重さは?」
沙織がレイにきく。
「120キログラム」
「絶対無理だ。起こしてくれ」
「宇宙服は大変だ」
ブラジルのケケに言われ、笑い合うみんな。