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5,エントリー&試験

 フロリダから比較的近いオーガスティンという小さな町。そこにブリスチン大学がある。

 この大学は、NASAから比較的近いため、航空宇宙、工学、エンジニアなどの理系に力を入れている大学である。

 その大学に、民間企業が合同し宇宙開発センターが作られ、大学構内が保有する広大な山林や森林を切り開き、情報センターや訓練施設などを建設し、政府指導の元、宇宙開発のプロジェクト『ハンモック計画』を開始した。


 沙織はジェームスの勧めに乗って、ここセントオーガスティンにきた。本日はハンモックプロジェクトの試験のエントリー開始日で、数日間に渡って行う試験の初日でもあった。

 10時受付開始のため、沙織は大学に向かうと、大学に向かう通りには、人が連なって校門に入っていく。

「結構、大量な人。みんなハンモックの応募者かしら?なんかすごい量だわ」

 確かに宇宙事業なら一大プロジェクトになるはず、関係者やスタップなども含めると数千人規模の参加者になるだろう。


 構内に入ると手前から伝統ある校舎が立ち並び、古くから残っている大学であるが、いくつかの棟を過ぎ奥に入ると、途中から全く異なった近代的な建物が現れだす。ハンモックのために作られた校舎&施設である。

 パイロット、情報、制作、製作、整備、広報、他、部署によって建物が分けられていて、エントリーする人々は各自、目的の部署のある所に入っていく。

 奥の大きな校舎前に『パイロット希望』と書かれた立看板があり、沙織はスマホのメールに送られてきた校舎案内の地図と一致しているのを確認し中に入る。



 校舎は、結構大きい建物のだった。

体育館のような講堂になっており、机が並びスタッフがノートパソコンを広げて待っている。受験者たちがその前に立ち、列を作っている。

「願書届を確認して、エントリーを済ませてください」

 アナウンスの案内に従い、沙織も列に並び、スタッフに到着したことを伝え、スマートホンに来たEmailある識別コードを照らし合わせて、パイロット選考試験のエントリーを済ます。

 対面しているスタッフは登録を確認。

「試験は毎日、合否の判定がなされ、2次、3次と進まれますと数日間かかります。ホテルなどの決まってない方は、あちらの紹介所で、ご案内しますが、必要ですか?」

 沙織はもうホテルを確保していることを伝える。

「それでは13時に、奥の建物Eー3館にてガイダンスをしますので、おいでください」

 沙織はスタッフに了解し列を離れると、自分の列の後ろの方に同じパルテノン計画で一緒だった飛行候補生のレイが並んでいるのを見つける。

「久しぶりだな沙織」

「レイも、パイロットにエントリーだよね?」

「当たり前だ。パイロット以外、やる気はない。他に何がある?」

「だよね。負けないぜ。ライバル」

 レイとグー・タッチをして外に出る。





「しかし10時って中途半端な時間と思ったが、宿泊とか諸々すべてのエントリーのために、こんな早くも遅くもない時間の集合にしたのか。もっとゆっくり来ればよかった」

 13時までには時間がある。

校舎を出て構内を散歩すると、休憩できるカフェ&レストラン施設の入り口に集まっている集団を見つける。

 顔馴染みのパルテノンの計画のスタッフたちであった。

「やっぱり沙織は来たな」

「貴方たちも?よろしく」

「沙織。また頼むな」

 嬉しくて笑顔で集まって来るパルテノンの仲間。

「よろしく沙織」

 かつての仲間たちが再会を喜び、握手を求める。

そしてその中に同じパイロット訓練生だったジョンをみつけた。

「なに?ジョン、そのお腹、みっともない」

 沙織は、艶々した顔で太って一回り大きなジョンに言い放つ。

「まあ解散してから4ヶ月。人間も変化する」

 ジョンが笑って言い訳をいい、少し出ている腹を自慢げに叩いてみせる。

「はあー、あの精悍なジョンが、こんなに成るなんて・・・」

 そしてその横をみると、これまた太っている同じパイロット候補生だったフィリップもいた。

「なによ、フィリップも?太ってるじゃない」

「10kgプラス」

「もう豚じゃない」

 そういえば沙織自身も太りかかっていたを思い出したが、しかしあれから4ヶ月。元に戻すために、必死に頑張って来た苦しさを思い出し、二人を怒る。

「何言ってんのよ。まだパルテノンは中止されてないのよ。それに、たった4ヶ月よ。ジェームスからパンフレットもらって知ってたんでしょ?油断してんじゃないわよ」

「おお、勇ましい。・・・と、言うことは沙織は、またパイロットを目指すんだな?」

 フィリップは笑って拍手する。

「勿論、乗るためにきた。あれで止めたらマイケルに悪い。当然ここで宇宙に出る。・・・それでジョン。フィリップ。あんたたちは、どうするわけ?」

「いやこの通り太って無理だよ。僕はサポートに回る。通信か整備に行こうと思う。制作の方にエントリー届けをだした」

 フィリップが、お腹をさすりながら答える。

「デブ。・・・じゃあジョンは?」

「俺も無理だ、この体じゃ。それに・・・結婚したんだ。だからもうパイロットのような危険は・・・すまん」

 うなづく沙織。

「ジョン、結婚おめでとう。お幸せに」

「レイはまだパイロットで参加するって言っていたが・・・」

「さっき会った。パイロットの試験にエントリーしている。・・・でも同じ飛行士養成をしていたジョンとフィリップが整備に移動か。・・・また一緒にできると思ってたのに。ちょっと残念だな」

「パイロットは厳しい訓練だ。そこにレイと沙織が、果敢に目指してくれただけで、こっちは嬉しいよ。・・・あれ?それでエドナは?一緒じゃないのか?」

 見回しながらフィリップに聞かれる。

「サポート管理部署で、エドナは参加するって言ってたけど・・・まだ来てない。寝坊か?」

「エドナらしい」

 と笑う古い友人たち。

ジョンも周りを見回し、

「他にも結構パルテノン組がいるな」

 手を振ると、歩いている昔の仲間も手を振って答えてくれる。

「それで・・・沙織は、なんだか雰囲気が変わったな?」

 ジョンが不思議そうにいう。

「髪切ったの。ポニーテールからショートカットに変えたのよ」

 フィリップもしげしげと沙織を見回す。

「どうりで。なんか凛々しく感じていた」

「凛々しくって言わないで。男じゃないんだから嬉しくない」

「まあパイロットは男女関係なく強くなきゃダメだからな。・・・試験はそっちも13時集合だろ?これから飯食いに行くが一緒にどうだ?」

 とジョンに誘われるが、

「ごめんね。食事は済ませた。もう食事制限が始まっているのよ」

「パイロットは仕方ない」

「じゃあまた会いましょう」

 沙織は、みんなから離れて、大学の敷地内を見るために歩き出す。




 10月の大学は、休んでいるわけではなく運営されており、本を抱えて若い人たちが構内を歩いている。そしてこちらのハンモックの施設にも大学生は参加しているようだ。

 グランドやスポーツ施設を全て改築されて、大学側も共存することで、施設を充実させているのだろう。

 スポーツ施設は、裏山に続く道につながり、フィールドアスレチック場所や水泳施設、なども含めて広大に繋がっているので、なかなかでかい。しかしちゃんと整備されている。ハンモックの恩恵を受けているようだ。

 

 立ち並ぶ新しい建物群。その中で一際目立つ近代的なドームがある。

ハンモックの船体をすっぽり覆している巨大ドームで、沙織が試験のために借りた宿泊するホテルからも、そのキラキラ光るドームが見える。

 ギラギラ光る建物に行くと、ここからは厳重なセキュリティがある。

大きな門と高いフェンスとで仕切られて、入るものを拒絶する。

 しかし今日は宣伝のためか、解放されており、試験にエントリーしている受験者が大勢、見学に中に入っている。なかなかの盛況具合だ。

 当然、沙織も中に入り見学する。


 中に入ると中央に色々な計器や材料に接続されている『宇宙船・ハンモック』の実物が鎮座している。

 沙織は近づき、眺める。

「これがハンモックか、パルテノンより一回り小さいかな」

 それでも地上3階建てのビルの大きさはあり、真新しい船体はキラキラ光って眩しいくらい。

 しかし何か見慣れないものが結構、くっついているのを見つけ、気になる沙織。

「なんだろう?後で確認しよう」

 とスマホで写真を取ろうとすると、現場のスタッフがきて、沙織の撮影を止めさせる。

「すみません。写真はやめてください。プリーズ」

「あ、すみません。止めます。・・・しかしこれはなんだろう?」

 どうしても気になり、もっと近くによってジロジロ見ていると、男性スタッフのひとりが、近寄ってきて、

「何か気になるものがありますか?」

 と聞いてくる。

「これ・・・というか、繋がっているアレなんですけど、配管が下から出て、上にデカい機械に接続されて、また船体の方に戻ってますけど、あのデカいアレは、なんですか?」

 ハンモックの上部に、パイプとコードで繋がっているタンクのような機械を指さす。

「あれは水の浄化システムです。船内に使用された水分や湿度から発生する水滴を集めて向こうに送り、浄化して戻してます」

「あんな巨大なものは必要ですか?」

「ハンモックは近い将来100名ほど居住することになるので、これぐらい大きなものが必要となります。もちろん浄化システムは船内にもありますが、ドッキングの確認の兼ね合いがありますので、巨大なものですから最初から接続しいるんですよ」

「なるほど。他のものドッキングをされている部分もあるのですね」

「ええ、向こうの細い筒のようなパイプですが、あれもドッキングシステムで、船体と船体が直接ドッキングしなくても、パイプで繋いで酸素排出システムで互いに物を送り受け取りできるパイプです。これによって、船体同士のドッキング回数を減らします。まあドッキングは衝突の一種ですからね。破壊などのリスクが伴いますのが、これによって減らせられるのです」

「素晴らしい物ですね。最新技術だ。・・・丁寧な答え、ありがとうございます」

「どういたしまして。他に質問はございますか?沙織井上?」

「え?どうして・・・私の名前しってるの?」

 知らない男に、いきなり名前を呼ばれ驚く沙織。

「申し遅れました。私はハンモック計画・進行総合司令官のフランシス・エリンといいます。・・・今回のバックアップしていただいているパルテノン計画で、そのパイロット候補生だった人の名前とお顔は存じておりますので」

 あらためて沙織、フランシスと名乗る男を見る。

年齢30〜35くらいで長髪の眼鏡をかけたアーチストみたいな風貌したイケメンの男。

 フランシスが微笑み、お辞儀をする。

「総合司令官?一番のボスということ?」

 うなづくフランシス

「現場での総責任者となります」

「その若さで、総責任者なの。凄いわ」

「まあハンモック計画は民間ですから、民間は実力主義ですので能力さえあれば、責任者にもなんでもなれます」

 と、返答をしてくるフランシス。

ちょっと鼻につくな、こいつの言い回し。と思った沙織だった。



「いたいた沙織」

 エドナが来る。肩が出ているワンピース姿で相変わらず、露出度が多めな服装。

「遅いよエドナ。みんな来ているよ」

「何、急いでいるのよ。エントリーぐらいで」

「そうだね。そう言われるとエドナぐらいの時間で丁度いい時間だったかも」

「そうでしょ、大体、NASAのスケジュールじゃないんだから、色々サバ読んでいるに決まっているんだから・・・・」

 と、沙織の隣に若い男がいるので気になり出すエドナ。

「誰?このイケメン」

「ここの総合責任のフランシスさんです」

「え、ここの?ハンモック計画の?」

 フランシス、ニッコリと微笑むと握手する。

「初めまして。フランシス・エリンです」

「すごく、お若い。エリートなのね。素敵」

「すみません。お名前をお聞きかせくださいますか?」

「私、エドナ・テイラー。前はパルテノン計画の・・・」

「はい。衛生管理官ですね」

「なんで知ってるの?」

 驚いて沙織を見るエドナ。

「ハンモックは、パルテノンの情報を、そのまま引き継いでいるんだって」

「スタッフやメンバーは大体、把握してます」

「でも私は裏方だよ。裏方は2000人以上いるはずだよ。いくらなんでも・・・」

「それぐらいなら、大丈夫ですね」

 微笑むフランシス。

「うそー。すごい、天才。信じられない・・・でもなんで沙織と一緒なの?沙織、総責任者と知ってナンパした?」

「私が知るわけないじゃない」

「チャンスね。ここでフランシスを落とせば絶対合格じゃない」

 目の前でズケズケと言い放つエドナ。

「いえ、エドナさん、今日は試験日ですよ。平等なチャンスで、素晴らしい人を見つけるための試験です。実験中に事故とかミスを起こさない人物が必要ですから、厳しく選んでいくつもりです。・・・それではお二人とも、試験を頑張ってください。また会えることをお祈りしています」

 お辞儀をして去るフランシス。

「何、あいつ。・・・あいつの口調が気に入らない。ミスで事故など起こさないように?まるで誰かパルテノンの人間が事故を起こしたようないい草。失礼だわ。許せない」

「そう?私には普通に聞こえたけど・・・よし、あの男を落とそう。目標ができた。なんとしても合格するぞ。モチベーションが上がる。頑張るぞ」

 笑ってるエドナ、ふと沙織を見て、聞く。

「あれ?沙織、髪きった?」

「ええ、ショートカットにした」

「凛々しくなっちゃって」

 沙織の頭を触るエドナ。

「うるさい。凛々しくっていうな」




 13時になり沙織はエントリーEー1館に行くと、2〜300人いるだろうか?すり鉢状の教室の座席に大勢の人が着席している。

 ちょっと圧倒されて、入り口に立ち止まっていると、先に入っていたレイが手を振って呼ぶ。

「どう言うこと?」

 沙織、横に並び、レイの隣に座ると

「パイロットが一番人気だよ。だからこんな沢山、おしよせている。・・・民間は多く集めて、多くで競わせて、残った優秀な人材を取るようだ。人を多く集めることによって、宣伝波及効果も狙っているのだろう。だからこんなに人がエントリーさせている」

「すごい。大量募集の『狭き門』ということか」



 すり鉢の教室の底にある教壇に、先ほどのフランシスが現れる。

「初めまして、総責任者のフランシスです。本日はお集まり頂いてありがとうござます。E mailでお知らせしていますが、簡単にもう一度、パイロット希望コースのブリーフィングをします」

 マイクを持ち、説明を始めるフランシス。

「今回、皆さんがエントリーしている宇宙飛行士は、宇宙という特殊な空間に滞在し活動する人間であります。そのため宇宙環境に対応できるように厳しい訓練を受けてもらい、能力を習得し、技術を得た人間だけが宇宙飛行士になれます。・・・我々ハンモック計画の目ざすものはコロニー製作。過酷な宇宙での作業が続き、それに耐えたながらの作業になります。おのずと肉体や精神、頭脳と応用力などの様々な要求が求めらる仕事なのです。・・・しかし当然、それらを最初から持っている者などはいません。ですからこれから行われるハンモック飛行士の試験は、それを習得できる可能性がある候補生の選別試験になります」


 フランシスが合図をすると、黒板にスライドが映されている。

「まずは宇宙飛行士の採用条件から話します。説明書を読んで貰っていると思うので、簡単に説明します」

 スライドにはその条件が記載されているが、それを読むフランシス。

「こちらの訓練設備に合致が出来る身体上の条件というと、身長158cm以上190cm以下、体重50kg〜95kg。宇宙服を着用して船外活動を行うには165cm以上が必要となります。また、血圧は最高血圧140mmHg以下かつ最低血圧90mmHg以上、両眼とも矯正視力1.0以上、色覚と聴力はどちらも正常であることが求められます。これは医師の診断書を同封してもらったので、ここにいる人は問題ないでしょう。・・・そして他にも、協調性やリーダーシップ、状況把握能力などを持ち、適性が認められた人が条件に入ってきます。お送りした簡単な問題用紙で返答されて、みなさんはそれにも合格して、こちらお越し頂いた方々です。・・・ここにおられる方々、誰にでもチャンスがあります。是非ともみなさんにハンモックのパイロットになっていただきたいと思っています」

 フランシスが頷くと、別の案内人スタッフの女性が現れ、

「これから試験に入ります。荷物は今の座席に置いて、下のこちらにおいでください。ゼッケン番号をお渡ししますので、Emailにお送りしましたエントリーパスをご提示ください。受け取ったのち、スマホも荷物と一緒に置いて、そちらで着替えをしてください(奥の通路から行ける更衣室を手で示し)、そしてここから出て最初にエントリーした建物に行き、身体検査をうけてください」

 動き始める受験生たち。一緒に従うレイと沙織。



 スマホを見せて、向こうのノートパソコンに、ゼッケン番号を登録して、ランニング型ビブスをもらう。

 そこに番号がかいてある。レイが、『201』沙織が『202』。

ゼッケンナンバーが試験受験者のナンバーになっているのだろう。沙織たちの後ろにも100人ぐらいいるので300名は越えていると思われる。

 『持参』と指示があった自前のトレーニングスーツに着替え終え、ビブスをかぶり、最初のエントリーした大きな校舎に行く。


 エントリーをした大きな校舎では、ブースが設けてあり、身長や体重の測定器が設置されているドックになっている。

名前と生年月日をいい、身長を測る沙織。

「お、1センチ伸びた。いまだに伸びている」

 そこで自分で測った身長を前にいるノートパソコンを広げたスタッフに伝える。

 スタッフは打ち込むと接続されたUSBステックを引き抜き、沙織に手渡す。

「これからはこちらのデーターで認識されるようになります」

「なるほどこれが合否の成績表が書き込まれるのか」

 USBのステックを持ち、次は体重計に行く。同じように計測するとUSBに差し書き込んでくれるハンモックのスタッフ。


そして体力測定。

反復運動や垂直とびなど、基本体力データーを収録していく。

そして今度は校庭へと出てとアナウンスで指示される。


「なになに?」

校庭にスタート地点みたいなところが設けられており、そこに集合させられるエントリーの人々。

「こりゃあ走らせられるな」

 レイが準備でストレッチを始める。

「マラソン大会?」

 全員が校庭に集合したのを確認すると、スタップが野外用スピーカーにて説明を始める。

「ここから試験の開始になります。・・・・」

「すごい。何これ?いきなりなの?」

「問答無用のサバイバル開始ってことだね」

 沙織、ちょっと戸惑うが、レイは無表情、想定内ということらしい。

「・・・持久走による体力測定になります。それではスタートします。」

 スタッフはそういうと、向こうに走ってくださいと指示を出す。

スタート位置からグランドに走り出すみんな。


 グランドはロープで仕切られて、進む歩行に矢印が書いた看板がある。

大学の構内をぐるっと外側付近を回るようにジョギング用に道があり、そこを回って元の位置に戻り、計測を行うようだ。

 走りながらレイと沙織は並走して、情報を確認していく。

「ざっと見積もり構内を回ると6キロになるだろうか?途中途中で休憩所があるな」

「まさか、いきなり体力測定とは」

「トレーニングウエア持参で気づくだろ」

「最初の方の人間は、勢いよく走っていったけど、・・・確か、持久走って言ったよね。レイ」

「ああそう言った。これは短距離じゃなく、長く続く」

時間がわからない、周回もわからない。これは『暗黙のテスト』も加わっている。つらいぞと心する沙織。

「走っているだけで内容がわからん。タイムカットだったら敵わん。先にいくぞ」

 とレイが並走をやめ、沙織を置いて速度を上げる。

沙織も行きたい気持ちが湧いたが、

「待て。何も言わず走らせている。これは脱落させることを重視している。何人落とす?半分か?ならば3分の1の中にいればクリアになる。前から100人の中だ」

 沙織もスピード上げて、前が見えると場所に出たところで、まだ混戦になっていない状態で走ってる人を数え、自分が前から100人ぐらいの位置にいることを確認する。

「よしまずはこのまま」

走りながら、『抜くと抜かれる』人の数を確認してペースを作る。走りを持久走に変える。


 一周目、物凄いスピードでゴールしたものがいたが、しかし一周では終わらない。そのまま走らされている。

2周目、3周目と続く。周回遅れも出て、混戦になる。ポツポツと脱落していく奴がいる。それに乗じてスピード上げてゴールを通過する者たちもいるが、まだまだ終わらない。

「無闇にペースを崩して上位に行ってもダメだ。体力を使い果たすだけ。慎重に抜かれる数に気をつけて抜くべきだ」


 レイが前から、速度を緩めて沙織のところにくる。

「どう思う?」

「人数減らし。脱落者排除」

「しかし42,195、フルマラソンするか?」

「やっても2時間ね」

「どこかでカットが入る。きっと時間で切られるぞ。何人落とすかわからないから前の集団にいないとやばいぞ沙織」

「ライバルにやけに親切ね」

「初めての場所は情報収集は欠かせない。沙織との直接対決はまだまだ先だ。それまでは一人より二人での情報が大事なのでね。でもまあこんな順位の所にいては、やばいかな」

 と言って速度を上げて走り去り、レイはトップグループに向かって行く。

「確かに、これは確実に100人以内に居ないと」

 沙織もスピードを上げて、人を抜き、先ほど見かけていたそこそこ早い人物あたりがいるあたりで、多分100人以内というところまで抜いていく。

「結構。このグループ早い。ついて行くのがやっと。・・・いや本当、エドナに特訓されて、体重落としておいて良かった。じゃなかったら、きっと体の重みでこのグループについていけない」


 何周目か分からないが、コースの途中で長いブザーが構内やグランドに流れ、「ストップです」のアナウンスが各所に置かれてたスピーカーから聞こえてくる。

「やはり2時間だ」

 コース途中のスタート視点から離れた場所で聞いた沙織は、もっとスピードを上げる。そして全速力でスタート地点に戻り、マラソンを終えた。

 倒れこむようにゴールした沙織だが、最後に頑張ったために、途中で3人抜くことが出来た。

 荒い息で座り込んでいる沙織に、先着していたレイが飲み物を持って来てくれる。

「どう?」

「やはり半分が、合格ラインだな」

「私の位置は?」

「真ん中あたり・・・いや後ろ・・・」

「嘘ー」

 沙織、あわてて確認作業をしているスタッフの所に行き、USBを渡して結果を確認。

「私は何位?合格なの?」

「合格不合格は言えませんが、順位は73位です」

 ほっとする沙織。レイの方を見ると笑って手を振っている。

「くそー。レイのやつ驚かしやがって」


 20分の休憩後、150人が次の場所に案内される。

次の場所が、森の中。フィールドアスレチックの所に連れて来られる。

登る降るの障害物トレッキングウォーキングである。

「ここでサーキットテストをします」

「えー、また走るの?」

 試験参加者から声が出る。

「宇宙飛行士基礎体力訓練。自然の中に障害物が何個も設置されていて、それを通過して3周のタイムを測ります」

「連続持久走か?」

 レイが聞いてくる。答える沙織。

「いえ、3周って言ってる。タイムアタックだわ」

「まいったな、ここを走る?障害物競技は、しんどいな。」

「レイ、障害物は不得意だものね」

「うるさい」

「私は得意。今度は行かせてもらうわ」




 一周、4キロ。そこに縄登坂、雲梯、垂直板越え、網ツナ潜り、池ジャンプ、平均台渡理、その他を終わらせながら、15〜20分の一周を回る。それを3回繰り返し、ゴールとなる。

持久走の順位の成績順に、2分間隔で5人ずつスタートしていく。

 沙織は一緒にスタートした他の4人を最初の縄登坂で引き離し、ぶっちぎって行き、前の走者と2分のハンデがあるが、2つ目の障害で楽々と前に追いつき、ぶち抜いていく。

沙織は順調に進み、2周目には12組の出発と同時になってしまい混み合いながら抜けて行く。


「レイ。お先」

初めの方に出発したレイをぶち抜き、コースにごった返す試験者たちをうまく抜いていく沙織。

 3周目、ゴール近くの垂直板を乗り越え、網潜りで前にいる体の大きなアジア人女性を抜く。

 そしてゴールをして水分補給で水を飲んでいると、さっきのアジア人が遅れてゴールして、じっと睨んでいる。

「すごい敵意。日本人じゃなさそう。うん、中国人ね。同じアジア圏では、ライバルか。睨んでる。こわー」



 最後の人間が到着して

「シャワーを浴びて、教室にお戻りください」

 アナウンスが流れ、沙織もレイも従う。

荷物をおいた教室に戻ると合格者のナンバーがホワイトボードに表示されていた。

レイ「201」、沙織「202」

確かにある。

見回すと、300人ぐらい居た人間が50人くらいになっている。

「凄い、一日で選別する気?」

「まあ育成で体力のグレードアップは時間掛かるから、もう体力を持っている者から選ぼうっていうことだろう」

 エントリーしている人間から、スタッフに問い合わせがあったようで、番号の表示が変わる。

No1、「231」、No2「034」・・・・

「アレ?フィールドの順位じゃない?」

 沙織、No9「202」とある。

「頑張ったよ私。9位。すごいでしょ。・・・レイは?」

「38位」

「危ないね」

 笑う沙織。

「でも私の上に8人もいるの?すごいわ」

 少し離れた所にいる背が高い中国人に睨まれる。

「あ、彼女、15位。怖い睨んでる。私がライバルなのか」

「沙織。喜んでいるのは今のうちだぞ。まだ17時だ。試験は続くぞ。もしものために体力を温存したんだ」

「えー、まだ今日、あるの?私、さっきので使い果たしてるよ」


「それでは残られた方、下の方にお集まりください」

 とアナウンスが入り、沙織とレイは、人が減った教室の下のすり鉢の教卓近くに集められる。

 スタッフは、エントリー試験者たちを、一人一人、席を離して座らせ、問題用紙を配る。

「もう体力はエンプティー。よかった。筆記で」

 そして3時間という長丁場の筆記試験が始まる。


 テストの内容が多岐にわたり、結構テストが難問。

自然科学や宇宙に関する項目、意外に難しい。それに

「やはり民間だ。ビジネスなんだな。やれ期間や金額だという問題文が出てる」

 テスト内容が、まるで就職問題で使われているSA3のテストのようだ。その上、知能指数のテストも混じっており『同じものを選び出せ』という単純作業の項目もある。

「疲れた体に鞭打ってテストで、この単純作業は辛い。やばい、眠くなってきた」

 体力を使い果たした数人は、寝てしまった者もいる。

「成績第一主義か。わざわざ育てようなんて気がないね。本当、やはり民間はシビアだな」

 沙織、眠い目を擦りながら、テストしてりると、途中で総司令官のフランシスが、様子を見に入ってきた。

 冷たい目で試験をしているエントリーの人間を見回す。

「あいつ、事故を起こしたクルーと見下しやがって。残ってやる。負けないぜ。ハンモックの野郎ども」

 と、眠くなった頬を叩き、試験を続ける沙織だった。


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