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2,葬式・悲しみ

 馬車に乗せられた棺桶が、軍隊楽団の後に続き進んでいく。

馬車は三台。マイケル、リチャード、サミュエルの3人を乗せて、教会から墓地に向かう。


 緑、豊かな芝生の安置場所に馬車が着くと、正装軍服のガーディアンたちが馬車から棺桶を降ろす。

 アメリカ国旗がかけられた棺桶は6人のガーディアンの兵士に担がれ、遺族の待つ芝生の設置場に届けられる。

 アメリカ国旗がかかる棺は並べられて置かれ、そして楽団は曲を変え厳か雰囲気の曲に変わる。


 ガーディアンはゆっくりと棺桶から国旗を外すと、三角形に綺麗に畳み、設置場所で待機して待つ遺族に渡される。

「合衆国大統領、航空宇宙局・・・そして国民の代表として・・・」

 牧師が遺族に優しい言葉をかけるように説法し、そして棺桶を地面の穴に下ろさせて、上から砂をかける。

「・・・すべて受け止めるは容易ではない。しかし認めないと前進はない。・・・・」

 と、牧師は言葉をつづけ、遺族を励ます。


 宇宙局内の事故死。名誉ある国葬である。

アメリカの軍服を着て、遺族の背後に立つ沙織は見つめている。

 宇宙局で今回のプロジェクト総司令官であったジェームスが、沙織の所に来て声をかける。

「沙織、大丈夫か」

「ええ、それよりご両親が・・・・」

 埋められて行く棺桶を父は気丈に堪えて見つめ、慰めの声をかける宇宙局の関係者たちに対応する。しかし国旗を渡されたマイケルの母は、泣き崩れてしまっていた。みんなそんな母に優しく手を添えて、慰めましに声をかけて行く。

 ガーディアンの葬送ラッパ鳴り響き、空砲が発射された。

パーン。パーン。パーン。




 葬儀が終わり、両親にマイケルの部屋を案内する沙織

平屋のバンガロータイプの家で、独身用だが客や遠距離の家族の宿泊用に別ルームが備え付けられている。ベットやトイレが併設されており、二家族住んでもいいように広く作られている。

 ここは元々沙織のバンガローなのだが、いつの間にかその別ルームに、マイケルが泊まり込んで棲みついてしまい、同棲のようになっている。

 沙織、そのマイケルの部屋を両親を案内する。


 部屋に入り、備え付けられたマイケルの荷物を見つめる父、母。

マイケルが大学生時代のアメリカンフットボールのラインバックの頃のユニフォームやペナントや数々のトロフィーの数々が並べてある。

 他に大好きだったアニメが棚に並び、部屋のあちこちにアメリカンコミックのヒーローたちのフィギュアも所狭しと並べられている。

「マイケルは昔からヒーローが好きだったわね」

 部屋に入り、見回す父。キャプテンアメリカの盾がかざられていて、微笑む。

「すべて防御すると言い張って、この盾にはよくボールを投げさせられたな」

 キャプテンアメリカの盾のところどころ凹んだ場所を撫ぜる。

「相変わらず変わらないわね」

 飲み物を持ってきた沙織に母が聞く。

「あの子はどうでした?」

「いい人でした」

 部屋を見回し、

「趣味のものばっかし。あの子は、勉強していたの?」

「成績はいつも一番でしたよ」

「アニメが好きになって宇宙で戦うロボットに夢中だった。それで宇宙に興味を持ったんだ。・・・出来ればその宇宙に行かせたかった。しかしこれでだめになったな」

「マイケルは立派なパイロットでした」

「そう、この犠牲で誰かの安全が生まれるんだ。無駄ではない」

「犠牲とは言わないで。チャレンジして敗れた、だけなのだから」

 母親、棚にある5、6歳の子供ころのアメリカンフットボールのユニホームとヘルメットを被っているマイケルの写真を掴む。

 その写真の中で満面の笑みでマイケルがわらっている。

「そうあの子はいつもチャレンジ。そして敗れて・・・もう・・・いない」

 母が現実に戻って悲しむのを見て、父がとりなす

「・・・仕方ない。国のため命を落とすなら本望というものだ」

 元軍人だったとマイケルに聞いた通り、毅然とした人だ。

「貴方・・・」

「悲しいさ。だがこうなってしまったんだ。受け止めるしかないだろ」

 母、父の手を握る。泣きながら、うなずきあう二人。

そして立ち上がり、去ろうとする両親に

「荷物は、まとまり次第送りますので」

 と沙織がいうと、母は

「全てあげるから好きにして。・・・・もっていると思い出してしまう」

「でも車は?」

「それもあげる。使って。もういいわ。」

「ありがとうございます。」

 頭を下げる沙織

「・・・私ね。貴方とマイケルが結婚して、・・・そして生まれた子供と一緒に公園で遊びたかった・・・でも、もう夢ね」

「全てを沙織さんに託そう。・・・マイケルの分も生きてください」

 沙織、お父さんに言われる。

「はい」

「・・・でも、この写真だけ。貰っていい?」

 一番最近、撮影された家のベランダで何気なく写された、椅子の座ったマイケルの写真を持つ。

「どうぞ」

「ありがとうね」

 母親がドアへ進む。後に続く父。

「スタンドバイ ユー」

「もちろん、そばにいるよ」

 手をつないで出ていくマイケルの父と母。

見送ろうとすると微笑み、手で制す母。

「・・・」

「どうぞ。そのまま。・・・見送らないで」

「‥‥はい」

 沙織、窓から見ていると、父と母は実家から乗ってきたピックアップトラックに乗り、静かに敷地から出ていく。

 見送る沙織。




 フロリダのケープカラベル近く、新しい基地の施設がパルテノン訓練所。

どの空軍基地にも、宿泊所があり、そこにレストランやマーケットやパブが周りにある。空軍基地で働いていた店主のパブ・ブロンコスBARは基地のすぐ近くにあり、家族連れ、独身など息抜きやたまり場と化しているのでみんなも訪れる。

 沙織、マイケルの両親を見送り、パブに入っていくと、同僚のジョン、エドナ、レイ、フィリップなど葬式の参列者が飲んでいる。

「マイケルの家族は?」

 カウンターにいたジョンがバーテンに言って、ビールを注がれたグラスを渡してくれる。年上のジョンが、沙織をいたわるように聞いてくる

「帰ったわ。とっても寂しそうだった」

 沙織の肩を叩く衛生管理局のマリリンモンローと呼ばれている色っぽい女のエドナ。

「もしかしらたお父さんお母さんだったんだからね。なんかやりきれないないな」

「私もそう思った」

 エドナは強きお姉さんタイプ。沙織を抱きしめてくれた。

「でもマイケルと結婚してたわけじゃないんだから、よかったのかも知れないぜ」

 イギリス国からの派遣パイロット候補生のレイが皮肉ぽく言う。

「レイ、そんな言い方ないんじゃない?みんな公認していたんだから、結婚していたも同然よ。それほど絆は強いんだから」

 沙織の代わりに怒るエドナ。

「まあいいじゃないかエドナ」

 フランスから国の派遣で来ている若いパイロット候補生のフィリップが、ビールが注がれている新しいカップをみんなに手渡しして、各自をなだめる。

「まあまあどんな形であれ、仲間が無くなったんだ。悲しみは変わらないから」

 と慰めてまわる。

「ありがとうフィリップ」

 新しいグラスを受け取り微笑む沙織。


「荷物はどうするって?」

「みんないらないって。全部おいていった。思いだすから送らなくて、いいって」

「そうだな。早く忘れるためにはそれがいいもな」

 年かさのあるジョンがいう。

「・・・しかし、なんかあっけないな。…なんか全てあっけない」

「フィリップ、どういうこと?」

「うん。なんだか。はっきりしないというか、なんか引っかかっているような、・・・いないような・・・もやもやした気分」

 エドナの問いかけに言葉に出来ないフィリップ。

「私もそれは思ってる。なんであんな簡単な作業で事故がおきるのか」

 沙織が口にすると、ジョンが冷静に答える。

「どんな小さくても事故は事故だ。こんなことでも事故になり、死者がでるということだよ」

「そういえわれてもな。なんかしっくりこないんだよな」

「フィリップ。それはな多分、遺体が吹っ飛んで、粉微塵。棺桶の中は空で死体がない。だから実感がわかないんだよ」

「やめろレイ。言い過ぎだぞ」

 ジョンが怒り、レイの首筋を掴むと、みんながジョンを止める。

「すまんジョン。言葉が過ぎた、謝るよ。・・・でもな。俺は俺であっけなく感じているんだ。これが今の最先端の宇宙技術なのかよってね」

 確かにみんなの中に何か、憤りに似た何かが心の奥に、何かがある。


「ねえ、このプロジェクト、どうなると思う?

 エドナが聞くと

「事故解明までは、訓練は中断になると思うよ」

 フィリップが答える。

「調査に時間がかかって、再開するとしてもいつになるか。もとに戻すのは膨大な金がかかる。今、国の経済状態からして、直ぐにタッチするのは容易ではない」

 ジョンも同意する。

「一番大事な船体パルテノンが破壊してしまったからね」

「確かにメインポッドが全てぶっ飛んだ。直すのでさえ、半年はかかる」

 何か漫才のように話すジョンとフィリップに

「でも日本の復旧なら2か月で治すわ。」

 沙織がサラッとふざけると

「残念、ここはアメリカです」

 エドナが笑って返す。

「予算が膨れ上がってオーバーしているって言ってから、厳しいと思うぞ

 レイがシビアにいうと

「レイ、イギリスから金持って来いよ」

 ジョンが茶化す。

「今、ポンド安でいくら持ってきても足りません。沙織、日本は?」

「デフレから回復してない。お金ないわ。フィリップ、フランスは、どうなの?」

「フランスは宇宙なんぞにお金をを出しません。寄生するだけです」

と笑って手を振るフィリップ。

「やはり、こりゃどうにも大変だ」

 と、ジョンが、持っていたビールを飲み干す。


 そこに車がつき、入って来る総司令官のジェームス。

入り口近くで、おかわりのジョッキを受け取っていたエドナが、ジョンが迎えビールを渡す。

「待っていたのよジェームス。・・・だが冴えない顔ね。あまりいい話じゃないみたい」

 みんなもジェームスを待っていたので、話をやめてジェームスを見る。

「うん・・・とりあえず、飲み物を飲ませてくれ」

 と、受け取ったビールを半分くらい一気に飲む。

「うーん・・・(みんなを見回し)まあみんな想像通だと思う。パルテノン計画の現時点でのオールストップの命令が出た」

「オー!」

「やはり、的中したか」

「ということは中止?おしまいなの?パルテノンプロジェクト」

 とエドナが聞くと

「現時点で中止とそういうことは言えないが、プロジェクト見直しなる。今回破壊した物が多すぎて、特にパルテノンの損傷が激しすぎる。これを治すとなると膨大な予算が必要になる」

「酸素爆発の船体破裂だものな。半分以上、壊れていた」

 フィリップが思い出すように言うと

「補修で済まないほどの破壊だ。もう一体、作り直さなきゃならないだろう。だから、莫大の費用と期間が必要になる。簡単には再開は難しい」

「その言い方だと、やっぱり中止になるじゃないか」

 レイが言うとジョンが説明する。

「中止とは言わないな。無期延期というやつだろう」

「いやそうもいかない。何もせずに全員雇っておけない。大体の人間は縮小もしくは解雇になるはずだ」

 ジェームスが残りのビールを飲み干し、追加を頼む。

「やっぱり、手っ取り早く解散ということだね」

 レイは落ち着いて、席について食べ物を食べ始める。

「これでまた、停滞する。いつもこうだ。事故が起きると進まない。これじゃ 宇宙には、いつまでたっても人は住めない」

 フィリップは宇宙の未来を嘆く。

「予想していた。まあ仕方ない。ことだ、それに3人という命も失ったしな」

 ジョンも席に座り、落ち着き、みんなに聞く。

「これでここも解散か。次は何の仕事をするんだ?レイ、フィリップ、沙織は国に戻るのか?」

「まだフランスには、宇宙の仕事がない。戻っても仕事はない。アメリカの大学院にでも行って勉強するかも」

 とフィリップが答え、

「レイは?イギリスに戻るのか?」

「俺は、もともとビジネスマンだから、ここ(アメリカで)会社でも立ち上げるかな」

「雇ってくれ。」とフィリップが手を上げるが、

「男はつまらん・・・沙織くるか?」

 と冗談か本当かわからないが聞いてくる。

「考えとくわ。でも今はまだ何も考えらない状態だから」

「すまんな。何分、総責任と言っても委員会の承認が下りないと何もできない立場だからな・・・まあ次の知らせが来るまで何とも言えん・・・しんみりしないで、飲んでくれ。今日はおごるから」

 とジェームスがとりなす。

「ありがとうジェームス」

 みんな酒をおかわりして、各自、席について、話を始める。

沙織もテーブルにつき、静かにみんなの話を聞いているとエドナが来てすわり、

「ほら沙織、落ちこまないで」

「うーん、パルテノンの中止は痛いけど、それより・・・」

「みんな追悼にきている。だけど言わないで陽気に話す。そう笑って送るのがアメリカよ」。

「日本人は、死を黙とうで送るの。葬式に厳かのと、教えられてきたので、みんなようにあっさりできないの。ごねんね」

「わかるけど、かなしいけど、悲しいと言ったら負け。生きている人間は次に向かって生きる。それが残されたもの役目。・・・・それでも彼氏であったマイケルなら、静かになってしまうもの仕方ないか・・・沙織はどうするの?日本に帰るの?」

「私は中止の決定がでるまで待とうと思うけど・・・エドナは?」

「パルテノン計画の再開は読めない。私は宇宙関係をやっている大学と企業に打診しようかと思っている。ここでやってたスキルをふまえて、生命体力の維持とかの専攻先に絞って就職先を探そうかと思ってる」

「エドナは、タフね。早いわ」

「沙織も何か探しに動いたほうがいいよ」

「でもまだ、・・・」

「ほらまた!・・・わかるけど何もしないと、気が紛れない。新しいものにトライするのよ」

 エドナが沙織の頭を撫でる。

「エドナ、ありがとう」

 沙織、微笑む。

「ちなみにどこか行きたいところないの?

「あ、・・・ディズニーランドに行きたい」

「なによ。まだ行ってなかったの?オーランドは聖地よ。ぜひ行くべきよ」

 エドナが笑って沙織の背中を叩く。

笑う沙織。






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