15,重力Gの誤差
黄色いビルの2号館に遠心装置がある。中心点を軸に回転して外側に遠心力を与える加重訓練用の遠心過重負荷装置である。
長さ5メートルのアームが回転するため、直径10メートルのスペースが必要な巨大な装置なので建物の奥に設置されている。
そしてアームが高速回転時に強烈な騒音が発生し、それを消音するためにも、建物の奥に設置する必要があった。
そしてもっと防音するために回転装置の周りをコンクリートでしっかりと固め、まるで壺の中に入れ込んだごとくに設置されていた。
機械の室内が閉じた訓練施設になったので、操作室は、その上の階に作られ、訓練状況を直に確認できるようにふき抜けにされていた。
訓練生待機室や見学室も回転する状態を見下ろせる2階の操作室の隣に併設されていた。
ミッションスペシャルクルーの大滝は、訓練生を2階に集め、
「メリーゴーランドにようこそ。くるくる回る回転アトラクションですよ」
と楽しそうに話す。
「いや〜また回転か・・・」
このところ拷問並みに肉体を痛めつける訓練が続いていた訓練生は、大滝とは逆に喜んでいない。
「おいおいこっちは簡単だぞ。回転はするが、ただ座っているだけの耐久訓練だよ。回転翼の端に付けられた椅子に座ってもらい、回転することで遠心力Gを体験してもらうアトラクション如きのものさ」
二階から下を指差して説明する大滝。
「ロケット打ち上げ時には、空に上がる推進力による垂直Gが生まれる。通常の人間が耐え得る重力は4Gから6Gとされていて、その強烈な垂直Gに耐えきれず失神してしまう。・・・失神するのは、血が上がったり下がったりして血流が滞って起こる現象。・・・これはG-LOC状態と言うもので、眼への血流が減少してグレイアウトと呼ばれる色知覚が喪失し、視野狭窄のトンネル・ヴィジョンが生じる。そして失神状態に陥る」
大滝は説明しながら、見学室から廊下と階段を使い、一階の装置機械のところに案内する。
防音の兼ねた厚いドアを開く大滝は、アームが回転する場所に、訓練生を入れる。
「このマシンは回転速度を高めていくことで15Gという強烈な重力状態を生み出せる。ここでみんなに、このマシーンで訓練してしてもらい、9Gまで耐えられる感覚と肉体を得てほしいと考えている。・・・どうだい、見た目はシンプルだろ?」
空中に浮かぶ装置を見る訓練生。
遠心力装置は、回転装置に太い鉄筋で組んだアームが接続されていて、それがシーソーのように伸びており、アームの端に卵形の透明な球体ドームが付いている。そしてその中に椅子が設置されている。
「椅子には計器が接続されていて、肺活量チェック。心電図も装着し、データーが取れるようになっている。装着用のヘルメットには色々な脳波測定機器も接続されていて、瞳孔観察用カメラも装着されていて、試験者の状態を測定しデーター化することもできるようになっている」
大滝、タラップでアームの上に乗り、端の透明ドームの扉を開き、奥の椅子に置いてあるヘルメットを持ち上げて、
「さて誰から行くか?」
と言いながら、大滝は沙織を見ている。
沙織はなんとなく察して
「また私が、一番手ですか?」
笑う大滝。
「いやあ〜、今までの訓練状況を各講師に聞くと、やはり経験者のレイと沙織を最初にやると進行が早いと教えてもらったもんでね」
「まあ、そりゃ経験者だから危険も少ないでしょうし・・・仕方ない、いきますよ」
「頑張って」
レイに言われる沙織。
「レイが先でもいいのよ」
渋々『回転するアーム』に登る沙織。
「まあ、遠慮せずに。どうぞ、どうぞ、お先にどうぞ。手伝うよ」
笑って補佐のためにアームに登ってくるレイ。
アームを歩く沙織、見回しながら、
「この加重装置、結構、古いわよね?」
「大丈夫か?中古で」
レイも確認しながら歩く。
「遠心・・・あ、これパルテノンの奴だよ・ここに傷がある。これ私がつけた傷だ」
アーム(床の部分)に、赤い靴の塗料か何かが、斜めについている。
「ほら、これエナメル靴が擦れて・・・」
見覚えある傷に思い出す沙織。すると、
「はい、そこおしゃべりしていない」
聞き慣れた声が、部屋のスピーカーから流れてくる。
沙織が上を見ると、元パルテノンの飛行士候補生だったフィリップが二階のコントロールルームからマイクで喋っているのが目に入る。
「フィリップ、これの担当?」
「俺はデーター集積係だから、これからみんなのデーターを取るためにきた」
「よろしく頼む」
レイが手を振ると、ハンモック計画ではサポートスタッフになったフィリップが手を振る。
アームの端の遠心装置の席に着く沙織。大滝はヘルメットを渡すと、
「頑張って。でも無理しないように」
と言って去っていく。
「お、これこれ。よく使ったな」
レイは、ヘルメットを被った紗織のベルト締めてあげる。
「みんなよく失神してヨダレ垂らしていたよね。大丈夫?汚くない?」
「いくらなんでも、それは掃除してあるだろ」
そこにスタッフも合流して来て、座った沙織の腕や首筋に、装置を装着していく。
レイ、沙織が被ったヘルメットから送られている脳波診断の数値が二階の壁に表示されるのを見て、頷いている。
スタッフは、そのまま脈拍、心電図、などを取る計器を沙織の体に繋ぎ出すと、それらも壁に表示されて、他のスタッフや訓練生も確認できるようになっていた。
スピーカーから2階のフィリップの声が聞こえてくる。
「今日は初日だ。5Gくらいまでいいか?」
「いや経験値があるので6Gまでは大丈夫だと思う」
沙織が答える。
「6G?」
見学室にいる他の訓練生が驚く。
1Gは9.8m/s2。沙織の体重は58キロ。そこに約58キロの負荷が掛かれば2Gになる。6Gになると348キロが体にかかる。
「フィリップ、まさか、いっぺんに行かないわよね」
「大丈夫だ。2G、3G、4G、5G・・・4回で上げていく。わかっていると思うけど、手元のスイッチを握ってくれ。そのボタンを離したら、限界と判断して回転を止める。」
沙織のセッテングが済んだので離れたレイが、フィリップに聞く。
「これ、どのくらいで、いくつまでいくの?」
「早ければ5日間。長くても10日連続かな。大体7〜9Gぐらいまでの経験ぐらいは、してもらうつもり」
「大変だ。じゃやっぱり今日は、5Gくらいまで行きたいね」
「楽勝よ。ジェットコースター大好き、私は余裕、余裕」
「了解。じゃ頑張って」
二階から見下ろしフィリップが手を振る。
フィリップ、一階の部屋に赤外線センサーを入れる。座っている沙織以外、人がいないことを確認。
順番に沙織につけた計器類を確認。
「ベルト、レッグ装着OK。心電図、脳波、・・・」
フィリップ、人体についた計器のデーターの録画も確認。
スタッフが遠心機器の状態を見る。
「油圧作動。モーター電源、正常。ブレーキ解除。・・・出力開始」
電動でゆっくりと動き出す沙織を乗せたアームが、時計回りに左に回っていく。
フィリップ、沙織を写しているカメラモニターを見る。
周りだした沙織、手で握ったボタンスイッチをカメラ前に出しフィリップに見せる。
「オッケー了解だ」
回転が速くなっていくと、遠心力で沙織の体が、椅子に貼り付けらていく。
前に出した手をお腹の前に組み、回転に耐える格好になる。
操作室のフィリップの隣にいる計測員スタッフが負荷力を確認。
「1、0・・・1.5・・・2、0」
横の計測員が荷重を読み上げる。約58キロ。自分の体と同じ重さが沙織にかかった。
「どうだ?沙織。調子はどうだい?」
「オッケー、なんともない。進めて」
「・・・2、5。・・・3.0」
「3Gホールド。一応は基本荷重に来たけど、行くかい?」
「結構きつい。・・・けど、そのまま、続けて」
「・・・3、5・・・4.0、ホールド」
「とりあえず4G。具合はどうだい?」
「・・・うん。上げてもいい」
「オッケー、・・・4.5・・・・5.0」
フィリップの目の前のイエローランプがつく。
持って押していたボタンを沙織が離したのでランプがついたのだ。
「5G・・・限界か?」
モニターに映った沙織が頭を縦に振る。
「オッケー停止する」
回転スピードが落ち始め、張り付いていた沙織の体から力が抜けていく。
「やはり久しぶりには身体に堪える」
「じゃ交代。次にレイ・・・でいいのか?行けるか?」
操作席の隣に位置する見学席のレイが、微笑んで一階のアームのところに降りていく。
室内の遠心装置が、完全に止まり、ブルーランプがつく。
中に入るレイとスタッフたち。
沙織についた装置を外しながら、レイが沙織に聞く。
「結構、伸びなかったな」
「久々だったのできつい。凄くしんどいわ」
スタッフに連れられ沙織が降りる。
大滝、一階からでて、二階にの見学室に上がった訓練生に伝える。
「これは絶えず鍛えている君たちにとって、基礎体力さえあれば荷重Gは耐えられる。初心者は今日は3Gあたりまで、経験すればいいだろう。・・・焦っていきなり負荷をかけると、部分的に首の筋肉、背骨、に支障が起きたりする。押しつぶされない胸筋を鍛えることが必要で、肋骨や鎖骨が折れないように徐々に慣らすことが大事。・・・目標にしている9Gを数日間のうちに一応は体感してもらうが、首や体を鍛え対応できる身体にするには1ヶ月後に仕上がっていればいい」
沙織、一階の室内から出て、廊下のソファでしばらく休憩する。
それから二階に上がって見ると、ちょうどレイの訓練が始まるところだった。
回り出すアーム、遠心装置でレイの体が回される。
スタッフに読み上げられる荷重
「・・・1、0・・・1、5・・・2、0」
「どうだレイ、気分は?」
「上々だ。これぐらいは余裕だな」
フィリップの声に、うなづくレイ。ここではまだ言葉が発することができる。
「あれ?これ・・・回転早くない?」
回っているレイを見て、ちょっと気になる沙織。その言葉に反応する大滝、沙織に聞く。
「どうした沙織?」
「これで2、0でしょ?それにしては回転が早い気がする」
「・・・2.5・・・3.0」
「そうか?・・・」
大滝、見るがよく分からない。
「どうだ、レイ?いくか?」
フィリップの問いに
「やってくれ」
答えるレイ。
「・・・3.5・・・4.0」
見学窓から下を見ている沙織と大滝、回転速度と数値を見ると
「いや、やっぱり速い気がする・・・体験してる時はわからなかったけど客観的に見ていると回転が速く見える」
と沙織は言い出す。
「・・・・4.5・・・」
「そう言われると・・・」
レイ、5.0でスイッチ離す。ランプがつく。
「今のだと、何回転か分からないけど、レイの体格に対して、5.0G以上の負荷がかかっているじゃないかな?」
回転が止まり、ブザーがなり青ランプ。
次はジンがスタップと共に入っていく。
「次はジンか。身長。体重、体脂肪、・・・」
操作席のフィリップが、ジンの身体データを出し、機械の方に打ち込み、回転数など導き出し、プログラミング始める。
操作ルームに入ってくる沙織。
「フィリップ、いい?」
「お疲れ沙織。久しぶりのGは、どうだった?」
「結構しんどい。ガッツリ効いたわ。・・・それでフィリップ、今のレイなんだけどデーターはどこから取っているの?」
「え?身体測定などで得たデーターで、平均値を打ち込んでやっているけど・・・」
「データー?いや機械か?・・・なんかデーターとの誤差があるように思う。 今のレイ、最後は6Gぐらい行ってるような回転数だった気がする」
「6G?誤差?いくら差が出たとしても、そこまではずれてないだろ」
「でもこれパルテノンのものだよね。慣れてた機械だから思うんだけど、なんか違和感を感じるのよ」
「この機械は組み立てから参加しているから、問題はなかったけどね」
「そう、・・・やはり誤差なのか・・・」
下のスタッフから連絡が入る。
「ジンの準備できました」
「了解。みんな室内から退去してくれ」
フィリップ、ジンに取り付けた機器の数値を確認する。
見学室に戻る沙織。大滝と一緒に見つめる。
下の遠心機械の椅子に座ったジンがゆっくりと回り出す。
それを見ている大滝たち。
負荷の数値が上がっていく。
「・・・・2、0・・・2、5・・・3、0」
「・・・・やっぱりこれ、早く見えるんですけど・・・」
「そうか?人によってデーターが違うから、Gがかかる回転も変わっているぞ」
「うん、そうだけど、ジンの体型からすると、体重は78キロぐらい。すると回転数は・・・やっぱりそれより速いと思う。これならジンには3、5Gくらいの負荷がかかってると思う」
見学席にレイが戻ってくる。
「レイ、ちょっと、見て・・・」
沙織に呼ばれるレイ。
「どうした?何か起きたか?」
「レイ、これちょっとスピードが速いと思わない?」
「うん?・・・えーと・・・あれ?3、0?・・・・そう言われるとそんな気がしてくるが・・・」
沙織に言われて見つめるレイも、ちょっと怪訝な顔になる。
「・・・それになに?この音」
「おと?」
「なにか、音が鳴っている。何の音」
「音?この回転音の音しかしないけど?」
高回転してる翼の機械は、大音響を発している。
「いえ違うわ、高音でシューって言う。今まで聞いたことない音」
「・・・聞こえるか大滝さん?」
「いや俺もわからん。この風切り音と機械音しか聞こえんけどな」
やはり気になる沙織。操作室に入る。
「フィリップ、この音、何の音?」
「音?・・・仕方ないよ。こんだけ回転してんだ、騒音は機械が元気よく回っている証明だよ」
「違うの。この荷重装置が動く音ではなくて、高音で、シューって擦れる音がしている」
「シューって、・・・・全く聞こえない。この騒音の中に、そんな音は存在してない・・・」
フィリップが答える。
「・・・私、昔から音は聞こえるのよね。これは周波数高いやつ。フィリップ。この機械自体に異常は出てないわよね?」
フィリップ、全てのモニターを確認して何も変わることはない。
「大丈夫だ問題ない」
周りの計器を見ているスタッフも聞くが、首を横に振る。
そこにイエローランプがつき、みんな一瞬驚くが、ジンが手を離したランプだった。
「スローダウン。お疲れ様ジン」
ジンが交代で出ると一応、スタッフが中に入り、機械を目視で点検してみる。しかし異物もないし、ガタついたところもない。何も異常はない。と2階のフィリップに伝える。
「どうしたの?」
次に入ってきたユアンが、機械を確認しているスタッフに聞く。
「点検です。・・・異常なしです」
「オッケー、じゃあ次のユアンの準備に入ってください」
フィリップから返事が来て、ユアンを椅子に座らせて、準備を始める。
「ちょっと見学してていい?」
「どうぞ、構わないよ」
沙織と大滝とレイ、操作席のフィリップの横に座り、
「ユアンの体重は何キロ?」
「62キロ」
「2Gで、124キロ。3Gで186キロ」
ユアンの訓練が始まる。
先に受けた沙織たちと同じように、負荷がかけられていく。
「・・・1、0・・・・1.5・・・2、0・・・」
回転しているユアン。段々と荷重が増えていく。
じっと見つめている沙織。大滝も気になって聞く。
「これ、なんG?」
「今、3、0ですね」
フィリップ答える。
「やはり回転が早い気がする。Gがもっとかかっているじゃないかな」
「そんなはずは・・・あ、?」
黄色いランプがつく。
モニターで見るとユアンが失神してるため、スイッチから手が離れ、ランプがついたのである。
「今は?」
スタッフに聞くフィリップ。
「3Gから3、5G、」
「うん・・・3Gで失神か。ちょっと低すぎだな」
「沙織に言われてみていたが、俺も回転が早すぎる気がする。フィリップ、この機械の点検はいつした?」
大滝が聞くと横にいたスタッフが答える。
「二週間です、その時のテスト回転、負荷グラビティでは、外部点検会社に確認してもらってます」
「確かに、自分も同席していて適正数値内で稼働していた」
フィリップが答える。
「・・・どう思うレイは?」
「自分的には、機械の数値を信じるが、・・・・できるだけ客観的に見た目で言わしてもらうと、少し早い気がする。しかし見た目だけなので、あてにはならないね・・・でも不安があるなら。もう一度、検査した方がいいと思う」
「なるほど、体感した沙織、レイの意見に賛成だ。ミスター大滝、今日は一度止めて、確認した方がいいかもしれない」
「同感だ。よろしく頼むフィリップ」
フィリップの連絡で、総責任者のコマンダー・ブラウンと総司令のフランシスがくる。
「遠心力装置で、回転とGの数値の疑問が出た。このまま続けるより、明日、 もしくは明後日、検査に当てたいがどうだ?」
フィリップがあらましを説明。
「それは構わない。了承した。現場判断を優先で進めてくれ」
フランシスが答える。
「そう、こちらは事故が一番怖い」
ブラウンが答える。
「一瞬で、訓練が訓練ではなくなる」
うなずくフィリップ
「オッケーはもらった。スケジュールは、どうします?大滝さん」
「それなら他の訓練をしよう」
そういうとなぜか嬉しそうに微笑む大滝。
加重訓練用の遠心過重負荷装置が中断されて、待っていた訓練生に伝えられる。
「機械が点検になったので、本日は中止。明日から点検することになり、とりあえず遠心力負荷の訓練は延期になった。・・・点検の間の数日間後に再開を始めるが、その間、違うカリキュラムに変える。・・・みなついてきたまえ」
大滝は、訓練生を引き連れて、同じビル内の4階にエレベーターで上がる。
そこは、またまた大きめな訓練施設。大滝、大きい観音開きの扉を開く。
「入りたまえ」
と室内に案内すると、そこには3メートルもあろうかと思われるロボットアームが四隅から伸びて静止している。
「ジャーン。ロボットアームです」
大滝、得意のアーム作業訓練だった。
「このアーム、大きい」
前に試験生の時の時にやったロボットアームより、もっと巨大で頑丈そうなロボットアームが部屋の四隅から中央に伸びている。
「前やったのは、初心者の訓練だ。安全装置も万全、ベアリングもケーブルも全て新品。至れりつくせりのアームだったが、宇宙では、ゴツくて無骨・・・これが本物、ロボットアーム.なのです」
嬉しそうに説明する大滝。
「見ろ。これは6個の関節を持ち、最大5トンぐらいのものを持てるようになっている。アームの先端と中央にカメラがあり、横に隣接している操縦ボックスにある2つのコントローラにて、並進と回転を行う」
部屋の四隅にアームが設置されて、その後ろ横にアームの操縦台がついたコックピットが併設されている。
「前後でも左右でもいいから、二人以上で2台以上のアームを使い、物の受け渡しや建設活動をシュミレートを行える場所である。・・・今回は、この前よりもっと高度になり、アームの先端にもっと小さいアームを取り付け、細かい作業もしていくつもりだ。」
「なんだか、イキイキしてるね大滝さん」
「大滝さんはアーム好きだからね」
ユアンに聞かれて答える沙織。
「宇宙では一番、使うスキルだ。訓練する時間はいくらあってもいい。・・・それで今日は隣のアームに5キロの手提げ袋を掴み、手渡す。ことを重点的にやる」
「急遽変更な訓練なのに準備できてるよこのアーム」
レイが見つめて言うと、隣のバルが、言う
「怖いよ。これから大滝さんの特訓になるんだよね」
対角線上の操縦ボックスへ、ジンとケケに乗り込むようにいい。その横の一台に乗り込む大滝。
ヘルメットを被り、電源を入れる。そしてヘルメットのマイクにて説明を続ける。
「無重力だと重さ関係なくできるのだが、ここではそうは行かないぞ。まあ、コロニーや月、もしくは火星などの少しでも重力がある場所で使用する可能性はあるので地球での訓練も大事な練習と思ってくれ」
ジンもケケも同じようにヘルメットをかぶり、電源を入れる。
「操縦方法は、この前と同じ。目の前のモニターを見て、カメラの位置を確認してくれ。その他の訓練生は奥の扉から出て、見学室に入ってくれ」
沙織たち残った訓練生が室内から出ると、動き出す大滝のアーム。
大滝はアームの近くにある扉を開き、中から上部が扉になっているボックスの台車を引き出してくる。
そして扉を開けて、中から建物建築用のパイプと継ぎ手を出して来て、床に置く。
それが、素早くスムーズで自分の腕ようにな速さだ。
「スゲー、本当にロボットアームだ」
「ジン、ケケ、とにかく腕を伸ばして、自分の届く範囲を確認しなさい」
動き出すジンとケケのアーム。
範囲を確認するとパイプにジンのアームが届き、継ぎ手にケケのアームが届く。
「それじゃ各自、掴んで。接合するよ」
ジンの持ったパイプに、大滝さんが新しいパイプをだし、十時に重ねる。
「じゃ、ケケ、この二つを結合させて」
ケケ、継ぎ手をまずは大滝さんのパイプに乗せて、結合フラップを回して止めるボルト部分を鋏いれ、あとはナットを閉めるだけにし、次はジンのパイプに継ぎ手を・・・・
「おい、ジンもっとこっち。離れてるぞ」
「了解」
持っていくが、揺れて大滝の持つパイプにガツガツぶつかる。
「ジン、揺れてる。合わせて停止しろ」
「わかってるよ」
まだ揺れているパイプ。
「どうだ?こっちのパイプを近づけるか?」
「お願いします大滝さん」
揺れもなく、スーッと動く大滝のアーム。
もうくっついている継ぎ手を掴んでいるケケのアームが揺れる。
「あれ?どこ?カメラから外れて見えない」
「左だよ、左上だケケ」
「あ、あった。ありがとうございます大滝さん」
「あれ、どこ。どこに行きました?」
今度はジンがアームの場所を見失ったようだ。
「ジンは動かなくていい。そのまま止めて」
大滝が、ジンのアームに寄せて押し、みんなに見えやすいところに運んでくれる。
どうやらアーム先端についたカメラは指先しか映してないので空間を把握するのはコツがいるようだ。
3本のアームが揺れ動きながら作業を続けていく。
遠心過重負荷訓練は、しばらくは大滝のロボットアームの訓練になった。
3日目のアーム訓練が終わって、部屋に戻っていた沙織のところへフィリップがくる。
「沙織、点検が終わった。元に戻った」
「ありがとう。どうぞ、入って」
向かい入れる沙織、中に入るフィリップ。
「いいのかい?ありがとう。・・・これはもう公表ページに載せた伝達だが、やはり、遠心負荷装置に誤差があった」
座ったフィリップに飲み物を出す沙織。
「負荷グラビティ検査で、回転数を調べると計器から送られた表示と実際の回転数に違いが出た。・・・機械の不具合でなく、回転数のデジタルカウント数のセンサーの問題で、数値の表示誤差だった。検出のパルス認識エラーがあり、基準の負荷値1Gの数値はゼロだったのだが、回転を始めると検知は5〜10%の未確認が出ていた。つまりはこちらがデーター打ち込み数に比べて、5〜10%の未回転数値が発生してしまい、沙織の指摘通り、我々の方の操作で回転増しが発生してしまったと言うことだ」
「5%プラスでは、気づかないくらいの回転だものね」
「しかしかかるG負荷は、誤差も含めて10%くらい増量されてしまっていたようだ」
「ユアンの失神もそこ?」
「多分、そうだろう。・・・今の所原因は、ここに来て組み立て時に『人体模型』を使った数値と『人体の本物』が乗った時のデーター誤差も回転数を増してしまったことに影響していると思う」
「誤差・・・」
「まあ機械的故障ではなく、センサーの認識ミスだったので、調整で済んだ。あとはこちらの『人体誤差』も修正するので、すぐにまた訓練を開始できる」
「まあ見つかってよかったわね」
「沙織の敏感のおかげだ」
「ランチ、一食、奢りね」
「了解。明日、好きなもの食ってくれ。会計で『フィリップに回して』って言えば全てこっちで持つ。・・・・それと、もう一つの疑問。聞こえた沙織には言っておこうと思って今日は来た」
「?」
「沙織のみに聞こえた高音のノイズは音軸受の緩みだった」
ちょっと真面目な顔になるフィリップ。
「メインではなく、椅子の方の取り付けの軸受を締める部分のネジなのだが、それが緩み、ほんの0、0数ミリだが、下の固定軸受の接地して擦れていたのだ」
「椅子?」
うなづくフィリップ。
「普段は緩んでいるはずのない部分で、機械や訓練には全く問題にならない場所と程度なのだが、ゆるんでいたことは事実だ。・・・確かに今は、問題は起きない場所だが、そのうち緩みが大きくなったら、それが次の緩みを生み・・・・何が起きるかわからないからな」
「よかった見つかって」
「しかし他の音が鳴り響くあの中で、よく沙織は聞き取ったな」
「まあ、あの中では異質の音だし、パルテノンではしてなかった音だから」
「本当にあんなところが緩むなんて、なんか不思議だが、事実は事実だ。まあ 今度はしっかり締めておいたから音はなくなる。安心してくれ」
「ありがとう」
手を差し出す沙織。その手を握り、握手して去るフィリップ。




