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14,スペシャル訓練が始まる

 ハンモック施設の敷地の中央にピカピカの銀色の光るキラキラドームがある。そこに隣接して建つ黒い建物が、メイン司令室、並びデータールームのある『頭脳』の集まった建物・中央管制センター。

 その逆側には白いホスピタル&精神・肉体管理センターの建物があり、その道を挟んだ向かい側に黄色いビルが3棟建っている。そこが宇宙訓練用機械の置いてある養成運用ビル棟である。

 その一番館、ジム&トレーニングルームの隣に『回転する椅子』という部屋がある。パイロット訓練の初日、沙織たちは、そこに集められた。


「ようこそ、合格者の皆さん。これから半年から1年かけて、一緒に宇宙を目指し、訓練していく講師のブラウンです。」

 パイロット育成責任者のコマンダーのブラウンが、にこやかに微笑み、飛行士候補生である訓練生を前に挨拶する。

「これからいくつものミッションをこなし、体得し宇宙で活躍できる人材を育成します。訓練生が候補生になり、そして宇宙に行ける人材に成長した時、宇宙に上がっていくことになるでしょう。そのために真摯に真剣に訓練を重ねてください。そしてみんなで宇宙に行って、生きようではありませんか。・・・そしてこれが最初の一歩になるのです」

 

 扉をあけるコマンダー・ブラウン。案内されて、初めてその部屋に入る訓練生。

 部屋といっても人間が乗れる体験用の機械が入っているので、かなり大きな部屋になる。まるで倉庫といってもいいくらい大きな部屋で、その部屋の真ん中に、天井から釣り下げられた円形のリングが設置されている。

 部屋の中央のリングは、硬そうな4重になったリングが連結されていて、真ん中の中心部に金属性の軽量な椅子が据えられている。外側を覆う太い天使の輪の中に椅子がある感じだ。

「これは『回転する椅子』という機械です。円形のリングは椅子を動かすようにモーターが設置されており、椅子の周りにあるリングは、前後に動く(ブランコのように動く)ように連結されている。・・・1重目のリングは前後に動くタイプで、次の外周につけられた2重目のリングに連結されているが、2番目は左右に動くリングになっている」

 講師のブラウンが、椅子に乗るための移動式階段に登り、レクチャーを始める。

「・・・さてこれは、電源が入ってないと・・・」

 椅子についているリングを触り、動かないのを見せる。

「ロックされて動かないが、これを外すと・・・・」

 ブラウンの合図を、カメラモニターを見ている隣の制御室のスタッフがスイッチを入れる。

 すると椅子の前のステップがブラウンを乗せたまま動き、スペースができて、リングのロックが外れて、動きだすリング1重めと2重め。

 リングがモーターでリング・1は縦回転モーメント。リング・2は横回転モーメントに、ゆっくりと動いて見せる。


「そしてこの3重目も、中のリングに連結されてはいるが、独自に動く。外側の3重目のリングは、再び前後に動くリングになっていて、一番外側の大きなリングが左右に動く。・・・すべては連結されているのだが、慣性と重力計算で、独自に動くことも可能だ。まさに地球儀を掴んでいるスタンドが、4重に重なっている状態と考えてもらえばわかりやすいだろ」


 ブラウンが、隣の部屋のスタッフに合図を出すと再びリングにロックがかかり、元に戻る。そこに移動式階段を再び椅子に移動させ、人が登れるようになった。

「つまりこの椅子に座った人間は、前後左右に回る3次元の回転を味わう。そこに3、4のリングの回転が加わる。こうなるとどっちの方向に行くか分からない不規則な回転が得られる。このマシンで搭乗者をランダムにあらゆる方向へ回転させることで、『きりもみ状態』を経験させ、失見当識障害をシミュレートする。これは実際の大気圏再突入時に起きる非常事態に対処するためには重要な訓練になる」

 タラップから降りてコマンダーブラウンは、沙織たちの前にくる。

「もう基礎訓練が出来ている君たちには、実際の体験訓練を行なっていくつもりだ。宇宙において経験するだろうということを想定して体験してもらい訓練していく。・・・色々な状態を経験し、自分の中に蓄積し、ライトスタッフになってもらうのだ」

「始まった。モルモット訓練」

 独り言をいうケケに、笑って答えるブラウン。

「そうだ。その通り。しかし何事も体験に勝るのはない。味わったことが全て自分に蓄積し、自分のベースになっていくのだ。・・・・これらは本当に大事なことのだよ。ケケ」

「わかってますよコマンダー・ブラウン。だから余計、楽しみにしてました」

 微笑むブラウン

「それではケケ、座ってもらえるかい?」

 と、ケケにふると、

「回る椅子だろ、なんのことない。プッシュプッシュ」

「いいねケケ。ではトップバッターをまかす。・・・目的としては、回転して『きりもみ状態』になっている椅子に座る自分の状態を、左右についたスティックを使用して舵を切り、元の安定している体勢に戻してもらう訓練だ」

 ケケ、階段を登ると、ヘルメットを渡されて、それを被り椅子に座る。

するとスタッフが登ってきて、椅子につけられている三点式の太いシートベルトでケケの身体を椅子に固定する。 

 そして肘掛けには手や腕をマジックテープで固定され、両足も椅子の足に固定されてしまう。完全にホールドされるケケ。


「ケケ、右手のところにスティックがある。それが前後に舵を切るステックだ」

 ホールドされた肘掛けに、ジョイステックがついているのを確認するケケ。

「それを掴んでもいいし、親指で弾いてもいい。・・・同じように左手にあるのは、それが左右に舵を切るステックになる。右手、左手のスティックで、ドローン操作のように舵を切ってもらい、自分の体勢をコントロールしてくれ」

 嬉しそうに頷くケケ。

「スタンバイ、オッケー?」

「オッケー」

 移動ステップを回転に支障がない位置に外し、ブラウンが安全を確認すると、合図を送る。

 ブザーがなり、機械に電源が入り、始動が始まる。


 最初にリング1と2のロックが外れると少し前後、左右に揺れる。

「ゆりかご、だよね」

 笑っているケケ。

モーターがゆっくりと起動し、前後、左右に回転が始まる。

見ているバルやジンが、軌道を見ながら話す。

「遊園地にあるロックンロールだ」

「ああ、前後に揺れて一回転するやつ」

「まあそんな感じで・・・あれ」

 第一リング、第2リングで前後左右の揺れであったのが、第3が動くと、斜めになって後ろ周りの回転を始める。

「え・・・」

 そして第4が回ると中と逆の右回りに回りだす。


 斜めに回転も加わって、回転している椅子の周り全部が回転し始めて、もう中がどうなっているかわからない状態になっていく。

「え・・・先生これ!揺れじゃない」

「喋るな、ケケ。舌噛むぞ」

 もう、前後左右、全く不規則に回り出す椅子。

「う、うう、ううう、うううう・・・」

「ではケケ、これからは不必要な回転はなくなるが、あとは慣性で回り続けて、回転が止まらない。それは重力センサーが働いているので『きりもみ再現』でモーターは継続している状態を作り続ける。・・・ケケ、それを探知しながら手元にあるジェイスティックを使用して体勢を整えてみせてくれ」

「了解」

 回転しているケケ、手にあるジョイステックで、前後左右のコントロールができるかやってみる。

 ケケが動かすたびに、回転が緩やかになったり早くなったりする。

「ケケ、ステックはブレーキじゃないぞ、噴射と考えて当てるように。船の舵やドローンの舵と一緒だ。当てすぎると逆回転や揺り返しを招くぞ」

 ケケ、右の片方に当てると反動がきて、左回りが逆回転になって右回転に加速していく。

「あれ?加減が全くつかめない。このステックはどのリングに当たっているんだ?」

 ケケの奮闘を見ながら、訓練生に伝えるプラウン。

「スティックの長押しは、気をつけろ。回転に慣れてないと水平方向の三半規管どころか脳みそがやられて、失神するからな」

上下左右、全く止まらず、動き続ける椅子。

「ファック。・・・ポーハ」

 英語はもちろん自国の言葉でも悪態をついて、制御しようとするがうまくいかないケケ。

 右回りに回っているが、中の椅子は左回り。逆さになりながら、右に左に回りだし、ケケはステックでいろいろ試みるが、どうにもならない。

「どっちだ?みんなは何処にいる?・・・そっちか?いやこっちか?」

 で、最後はグルングルン縦回転の地獄車状態に陥るケケ。

「ギブアップ。先生、助けてくれ」

 その言葉で、回転が緩やかになり、止まる椅子。


 椅子はロックして止まったが、ぐったりして頭を下げて動けないケケ。

「無理だよ。無理・・・どうしていいかわからない」

タラップを登ってスタッフに手足を外してもらい、肩を貸して立たせられ、介添してもらい椅子から降りるケケ。部屋の端にあるベンチ型のシートに運ばれて寝かされる。


「次は?」

 沙織が手を上げる。

「沙織はこの訓練は初めてか?」

「きりもみ訓練は何度か、経験があります」

「ああ、あれの4次元版だ。手強いぞ。のってみろ」

 タラップを上り椅子に座ると、ケケ同様、固定される沙織。

「久しぶりだな。きりもみは、結構苦手だったけど、大丈夫か?・・・いやプッシュプッシュ、チャレンジ。とにかく早く習得しなきゃ」


 リングのロックが外されると回り出す椅子。

電源がモーターを駆動し、沙織の椅子も段々と回転が始まり、グルグル不規則に回され始める。


「これを操るには、感覚を椅子に座っている状態にしょうとするとだめだ。頭が上、足が下。これは立っていると同じ状態なので、とても不安定で揺れやすい。だから寝ている状態、もしくは30〜45度椅子を倒した状態で、仰向けに寝た感じの体勢に持っていくと一番安定する。そうすれば自分の状態の状況が掴みやすくなりコントロールができる」

 回されながら説明を聞く沙織。

「そういうことは先に言ってほしい。もう回っちゃっているよ」

 回転がもう予測できない状態になったので

「それじゃ沙織、始めてくれ」

 ブラウンが沙織に開始を告げる。


「うわーもうだめ。開始の合図の前に、もう酔っているわ」

 それでもグルグル回った沙織はステックを使い、回転を緩やかにする。しかしうまく舵が与えられない。

 やはり急に回転が早くなったり、逆回転になったりしている。回ってる回転が複雑すぎて、ステックを当てたところで、どう変化してるか、全く判別できない。

「やっぱり、うまくいかない。回転の規則性がつかめない」

 縦軸の回転を抑えるように右ステックを大胆に当てて舵を切る。グイグイと縦回転が始まる。

「まずは、このステックの操作の働きを把握しなきゃ」

 盛大に押し込み、自分で回転してステックのコントロール加減を掴もうとする。

 ともすると盛大に早い回転になるが、コントロールすることに集中する。

「やばい、これ以上続けると脳みそ破壊する。早くこっちのコントールした運動にしなきゃ」

「大丈夫か沙織。回転が早くなっているぞ」

 周りで見ている訓練生、見ているだけで目が回りそうになっていく。


 盛大に回転を繰り返す椅子に、少しずつ左ステックを操作し、左右の横ゆれ揺れを抑えていく。

「なるほど、1と3は少なからず連動している」

 右手を話して、左手を目一杯、左にきる。

回転しながらも左にグルグル回っていく。

「これは2と4も、連動している。ただリングの大きさが回転のラグになって生じているんだ。・・・早く自分でコントロールしなきゃ」

 右手前で縦回転を前転。左手を左で左周り。強い回転になった。

「おおー、もっと回転が早くなった」

 グルグル回る沙織を見てる訓練生が、驚いて騒ぐ。

「ほー、無理やりねじ伏せる行動に出たか」

 ブラウンが楽しそうに見てる。


 回る沙織。頭から突っ込む前転の回転に持っていく。

左回転に回る横回転をある程度無視して、ほぼ縦回転に対処していく。

 そして自分で確認できたのか、沙織は右ステックを小刻みにし、回転を緩やかにして縦回転を止めに入る。

 頭から突っ込む回転がゆっくりになっていく。

そして縦回転が抑えられ、前後の回転がほぼほぼなくなり、頭と足の振り子運動に変わった。

「お、コントロールしてる」

 周りにも、沙織の顔が見えるようになり、応援を始める訓練生。


 沙織、自分の状態がフラットに寝ている状態に出来ると、あとは横回転がしているのを、左ステックで調節して、回転を抑えるように舵をあてる。

 まだ揺れて、重力センサーと慣性が発生してランダムに前後左右に回転が起きるが、ほぼほぼ制御できている沙織。

 まだ大波に乗っている浮き輪ぐらい揺れているが、椅子が仰向けに座った状態に近くなった沙織を見て、

「オッケー沙織。マシンストップ」

 外側リングから順にストッパーが入り、徐々に最初の状態に戻っていく椅子。

「あー、無理。頭がグルグル回って何処かに飛んでいきそう」

 そしてリングが止まるが、こちらもぐったりして動けない沙織。

移動タラップが椅子前に運ばれ、スタッフが手足を外してくれる。

 なんとか立ち上がる沙織だが、さすがにまだ揺れている目と脳みそ。

 フラフラ状態で一人ではタラップから降りれない沙織。

ケケと同じようにスタップが両脇を抱えて階段を下ろしてくれる。


「このマシンは失見当識障害への対処訓練や、コントロール不能状態の宇宙船をジョイスティック操作で復帰させる訓練ができる貴重なマシンだ。さて・・・・次は誰が挑戦するか?」

「・・・」

 フラフラになって端のベンチでぐったりと座っている沙織やケケを見て、誰も自分から手を挙げて、参加するとは言わない訓練生。

「おいおい、もうビビっているのか?君たちはチキンハートだな」

 笑うブラウン。






 数日間、地獄車の『回転椅子』を訓練すると、次は「宇宙空間においての体勢の作り方。目的は無重力状態に慣れること」の訓練に入った。


 朝早く玄関前に集合させらる沙織たち訓練生。

体を動かし目覚ようとしてる沙織のところにレイが来る。

「朝食は?」

「食べたわ」

「大丈夫かよ?」

「食べないと体がもたないのよ」

「まあそうだが・・・」

 するとスタッフが来て訓練生に伝える。

「今日はバスに乗って空港に行きます。パラボリックフライト、無重力体験をしてもらいます」

 パイロットコマンダー・スミスは楽しそうにみんなをバスに乗せる。

バスで近くにある空港に着くとボーイング727が2機、エンジンがかかって準備しされており、みんなを待っていた。


「航空機は、引き起こし45度から通常飛行を経てエンジンを切り、30度降下するという放物線状の飛行経路を取ることで、重力が軽減された状態を作り出せる。再び引き起こしの通常飛行に移行するまでの25秒間・無重力状態を作り出せる・・・最近は民間で無重力体験とか言うアトラクションが始まっているが、原理は同じだ。今日はみんなも無重力体験してもらう」

 飛行出発前に、スミスが今日の説明をしてくれる。そして4人ずつ分けて、2台の飛行機に搭乗させられる。

 

 飛行機の内部は、貨物飛行機のように、空洞になっているが、室内に仕切りを作り、四角い箱のような形の部屋みたいな空間になっている。その部屋の内装は分厚いクッションのような物がゴムスポンジが貼られており、人間がぶつかっても怪我がないようにされている。

 沙織、ユアン、バル、ジンの4人は、飛行機に乗せられる。

 そんな空間には椅子やシートベルトはない。その代わり安全服のようなベストを着せられ、そのベストに伸縮性の長いベルトが装着されて、いざとなったら、横の壁に安全ベルトで張り付けられているスタッフが引っ張ることが出来るようになっている。

「椅子はありません。地面に縦と横に捕まるようなベルトが張り巡らせてあります。それを掴んで掴むか、座るか、自分で体勢を確保してください、それでは離陸します」

 そして一気に上昇。なかなか激しい上昇で、Gも凄い。地面に這いつくばって床に縦横、張り巡らされたベルトを掴み、飛行機の上昇に耐える訓練生。

 一定の高度まで飛行機が上昇し、墜落の危険のないように洋上に出て訓練が開始される。

「それでは降下します」

 今度は30度という角度で下降していくと、うつ伏せになっているパイロット訓練生の足が周りに浮き上がりだす。

 するといつの間にが置かれた軽いもの(ぬいぐるみ)重いもの(1、2キロのダンベル)などのわかりやすいものが、地面から浮いてくる。

 無重力を認識できるようのするために物を置き、わかりやすくするためだ。

「お、おお、来た、来た」

 バルが声を挙げて喜ぶ。

「はしゃいじゃって。周りとぶつからないようにしてよ」

 そういうユアンの体も浮き上がって喜んでいる。

「そうこの無重力体験。これをするためにパイロットになるのよ」

 喜んでいるみんな。

無重力状態で楽しく転げ回ったり泳いだりして、楽しんでいるみんな。

 ユアンがぬいぐるみを投げて、バルが頭でヘディング。ジンは逆さになって天井を歩く。

 沙織も丸くなってぐるぐる回転してみせる。

「無重力は、何度やっても結構楽しいけど・・・」

 あっというまに20秒がすぎ、

「・・・・21、22、23、24、はい、降下終わり。上昇します」

 すると物やみんなの体がスーッと落ちる。そして45度の上昇に変わる。

周りのスタッフは訓練生のベルトに手をかけて、抑えて転がらないようにする。

 パイロット訓練生は再び地面のベルトに捕まり、急上昇のGに耐えて待つ。

「はい。また降下になります。物や自分の位置に気をつけて」

 飛行機は下降に入り、また無重力状態。

喜ぶみんな。


 しかし喜んでいるのは最初だけ。

次からは無重力状態においての作業確認が開始される。

「それでは、荷物の受け渡しの作業をします」

 壁面に安全ベルトで固定されたスタッフから、無重力状態の沙織に、20キロの砂袋が渡される。

 沙織浮かびながら、それを隣のユアンに渡していく。ユアンもそれを隣のバルに渡す。

 最後のジンの持っているところで、無重力が終わり、持ったまま急上昇されてしまう。

「大丈夫、ジン?・・・まあいい重りになると思う思うけど・・・」

「無理だ。耐えられないぞ沙織。」

 砂袋を離すと、地面のベルトにしがみつくジン。

砂袋は、上昇に合わせて飛行機後方に転がっていく。


 次に無重力になると、次の作業。

袋に入ったハンドボールを出し、隣の人に渡し、隣の人が袋にしまう。という作業をさせられる。

 なかなか、自分の体勢と、隣の体勢とが離れたり近づいたり、回転したりして、思うようにいかない。


 するとボールを受け取ったユアンが、突然、吐く。

朝食で食べ物が、口から吐き出されて、空中に浮かぶ。

それを見てスタッフに言われる。

「朝、お渡ししたビニール袋で、浮遊物を収納してください。無重力が終わる前にお願いします。」

 沙織、ビニール袋を出し、ユアンの吐瀉物をかき集めて入れる。

 そこで無重力終わる。

「あぶない。あぶない。落ちたらびしょびしょになるからね」


 コマンダー・スミスが楽しそうに説明する。

「宇宙飛行士は無重量を経験するために、1回のフライトでこのプロセスを最高60回まで繰り返す。そのため、乗り物酔いによる吐き気を催す場合が多い。・・・朝、渡したビニール袋に汚物を吐き出し、外にビラまかないように」

「先に言ってくれ」

 バルがいうと、

「こんなのは常識だよ。なあ沙織」

 と同調の求めるコマンダー・スミス。

まあまあ、そうですね。と苦虫を噛み締めて、うなづく沙織。


 そしてそのあとは例外なく、次々とみんな吐く。無重力になり、いきなり口から出てしまうのだ。そのたび渡されたビニール袋でキャッチして集める沙織だが、自分も、もよおし、袋でかき集める。

 スタッフもコマンダー・スミスも吐く。そのたび、吐瀉物が入ったビニール袋がスタッフに渡される。


 それでも無重力。飛び散ったゲロは、集めきれず、飛行機や訓練生にくっつき、みんなゲロまみれになる。

「だから嫌なのよ、無重力訓練。楽しいのは最初だけ。終わりは全てゲロの海」

ベタベタになった服を見て嘆く沙織。

 それでも無重力作業訓練は続く。







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