12,最終試験
訓練試験開始から3ヶ月が過ぎた。
カリキュラムが終わり、週明けには、合格者が発表になる。
ここまで来る間に、優秀な訓練者が何人も去った。サウジアラビアの男性やアメリカ人の溺れた女性。韓国人の女性やイギリス女性・・・。でもまだ15人も残っている。
ここから何人を合格者として選び、本訓練に入るつもりか判らないが、今日のこの試験が最後の試験になると聞いた。
そしてその試験とはいうのは・・・『面接』という試験である。
「失礼します」
10:00ジャスト。ドアをノックしてパイロットスーツで沙織は部屋に入る。前日に時間を指定され、順番に試験の部屋に入る。
部屋の中にはテーブルが置かれ、そこに試験官達が並んで座る。そこの前に椅子が置かれ、沙織はそれに腰かける。
テーブル正面の中央にいる白髪でメガネをかけた初老の人がメインパイロット指導のコマンダーのブラウンで、その横に総責任者のフランシスが並ぶ。
その両隣には見知らぬビジネスマン達が各自1人ずつ並んで、控えているが、今まで見かけたこともない男性たちなので、多分このプロジェクトに金を出しているスポンサー達の誰かだと思われ、最終確認でもある面接に参加してきたのであろう。
そんな試験官と対峙した。
「まずは名前をお願いします」
柔らかい言い方で、向かい座るコマンダーのブラウンがいう。
「はい。私の名前は沙織・井上。日本人です。専攻は建築一般。主に建設と建材調査が得意分野であります」
と、英語で答えていく沙織。
言語、発音を確認して、うなづく試験官達。
続いて最初の質問として
『宇宙に行きたい理由。宇宙で何がしたいか』を聞かれる。
これは今まで、何十回と聞かれた質問の一つ。動機としては弱いが、自分にとっては胸を張っていえる理由なので述べる。
「自分が幼少期に飛行機乗りの祖父から教えても貰った宇宙の青さ。
それを夢見て、憧れた宇宙。そこに到達したい・・・」
それを述べると嬉しそうにうなづくコマンダーブラウン。
ここいらはプロローグで、段々と個人的な思想の質問になってくる。
「死とは。生きるということは。宗教とは」
「黒人と白人。アジア人と差別」
「日本人のいいところ」
この辺はよくあるの質問なので、自分の気持ちを素直に答えても支障はない。沙織は自分の思う意見を述べる。
「死と生は、止まる。動くということ。宗教とはそれを解釈する場合においての客観的な視点」
「色分けするのは優位に立ちたいと思う人間の本能である。その場合における、目に見える簡単なカテゴリーの分類方法の一つ」
「1onオール。オールオンワンを本気で遂行できる民族。それが日本人」
などなど。
面接は基本30分なので、いい配分でコマンダーのブラウンが質問を聞いてくる。
そしてグラウンの隣にいるスーツの男が聞いてきた。
「何か、沙織が宇宙に行くと、こういい利点はあるというのがあったら教えてください・・・沙織の持つ特典とは?」
「専攻が建築です。前回宇宙事業として参加したパルテノンの時は、これが宇宙ステーションにつながると思い応募しました。その建築後のスペースデブリの衝突破損の強化策を提案して合格したのですが、今回のハンモックではコロニー製作となりますので、コロニー建築中の浮遊デブリ処理の技術を行おうと考えています。故に、ここでは自分のスキルの活動幅がもっと増えると思えるので、自分の可能性に期待しています。
「ありがとうございます。沙織」
その後、逆にいるフランシスの隣に座るビジネスマンも聞いてくる。
「パルテノンとお聞きしましたが、今回は民間です。ストレートに聞きますが、あなたはスポンサーはお持ちですか?」
「いえ特別の支援は受けていません。しかし日本の宇宙事業は、バックアップ体制の支援が得意の国で、ODAでご承知のように、何か事業があれば、それに対して人とお金を集めることに積極的な国です。クラウドファンディングなども活発で、容易に始められるシステムも充実してます」
うなづくビジネスマン。そしてさらに
「この事業が自分にどう影響を与えるか。そして10年後、自分はどうしているか?」
などの『これからの展望』を考えているビジネスマンらしい質問が続く。
だが沙織には、これらも想定内。自分の考えをまとめておいたのを、即答で返すことが出来た。
質問がブラウンに戻る。
「貴方はパルテノンのパイロットでしたよね」
「はい」
「パルテノンは事故で無期停止中ですが、その時の事故は、あなたにとってどのように変化をもたらしましたか?」
「・・・友人が死にました。悲しいことででした。しかしその死んでいった友人との約束です。『突き進め、それが目標だ。みんなで求めている宇宙。いけると信じて、手を伸ばすんだ。そしてなんとしても辿り着け。辿り着いたところに答えがある』いつも彼はそう言っていました。ですから私の目標は、死んだ友人の思いも持って、必ず宇宙いくということに決めてます」
「その人は『答え』と?・・・答え?ですか?・・・漠然としてますね」
「答えというのは『感想』とか、『気持ち』という、自己の納得になります。・・・漠然で、もうしわけないですが、日本人の宗教観に、『念』とか『思い』、『魂』というのがあります。それは思ったり、祈ったり、言葉で発しただけで、存在してしまうと信じています。日本人はそれを大事にします。それを達成し解放させることが、生きてる者の務めと信じているのです」
「ゴースト?」
「ええ、そう取ってもらっても、間違っていないと思います。誰もが持っている自分の意識。それを受け取り大事に成就してあげるのです」
そこで今まで黙っていたフランシスに聞かれる。
「ここまでで試験は終わります。今まで3ヶ月間、一緒に試験を受けてきて、試験者の中で、『この後も自分が一緒に仕事をしたい人』と、『もう二度と自分と仕事をしたくない人』を答えてください」
見つめるフランシス。
「きた。これだ。最後の設問。自分が他人に影響を与える質問。・・・日本でもこの質問が来た。これは周りと同調して事を成し遂げることが好きな日本人にとって一番嫌な質問だ。これだけは慣れない。言ったあと必ず罪悪感が残ってしまう」
と沙織は思いながら、まず『自分が仕事をしてもいい人』を答える。
「レイ・ジョンソン。彼は素晴らしい人間です。まず想像力と分析力にたけ、状況判断、任務執行、どれも一級品です。そしてそこに冷徹な実行力を持ち、命令遂行に迷いがない。文句なく彼、レイ・ジョンソンが宇宙で活動するには、一番でしょう」
質問者フランシスの目を見て答える沙織。そして
「彼をパルテノンの時から長年見てきていいますが、間違いない。彼こそライトスタッフです」
と返す。
「なるほど、彼をあげましたか。・・・では、もう一つの『もう二度とこいつとは嫌だという人』は誰でしょうか?」
顔が曇る沙織。
「さて、困った。仕事をしたくない人。別に誰もいないんだよね。でも設問では名前をあげなくてはならない。誰をあげるか。・・・」
悩み始める沙織。
ドアを開けて、廊下に出てお辞儀をする沙織。
「失礼します」
そして扉を閉める。
これは毎回、『オルゴール人形』と言われて笑われるが、日本人の沙織としては面接終了時に、どうしてもこうしないと気が済まない。終わった気がしないのだ。だから沙織はやることにしている。
「まあ文化の違いだから仕方ないって」
扉から出て、外にいるスタッフに終わったことを伝える沙織。
とにかくこれで全過程終了だ。
とにかく終わったのだ。試験は。
お腹が減ったので、食堂に食事に行く沙織。
メニューを見て、今までブロッコリーと、鶏むね肉ばかりを食べてきたけど、もう今日はもういい。ここ一番の日本食、ラーメンとチャーハンを頼む。
心を癒す日本食。沙織は、心が傷んだ時や落ち込んだ時は必ずラーメンとチャーハンになってしまう。
味はというと、出汁が効いてないので日本の味のようにはいかないが、パックのカツオブシとラー油と黒胡椒、白胡麻をぶちんこんで混ぜ込むと、なんとかイケる感じにはなる。
「終わったんだ。もう好き勝手にラーメンとチャーハンが食える」
ラーメンもチャーハンも中華と言われるが、なぜか日本食というとラーメンとチャーハンが頭に浮かぶ。もう沙織の中では立派に日本食になっている。
沙織が久々に日本食を堪能していると、衛生心理カウンセラーに合格なったエドナがやってくる。
「沙織、どうだった?」
「何とか終わった。しんどかった。こういうコンペティション形式の試験はつらいね。心が休まらない」
「まあ育てるより、選出する方に主眼が行く形式だからね。モルモットの実験結果と同じね」
ラーメンを食いながら、「それそれ!」と指を振る沙織。
「・・・そんでね。優秀な奴らが多かったのよ。私の出来ない事を、いとも簡単にできる奴らばかり。もう自分のポテンシャルの低さに呆れることばかりよ」
と思い出してみる。
「でも試験なんて、テスト成績だけじゃないからね。ラストの面接どうだった?今終わったんでしょ?」
「それは内緒でしょ。・・・でも、あまり感触は良くなかった。『宇宙の仕事で生きてきた人』以外の者が面接官にいて、なんか馴染めなかったんだよね」
「あ、こっちもそう。冷たい質問してくる奴がいるのよ。見たらスーツ姿じゃない。まるでマトリックスのエージェントかと思ったよ」
「それそれ!」
相変わらず、エドナと考えが似てるなと思う沙織だった。
食事を終えて、自分の部屋に戻る沙織。
部屋に着くとバブルヘッドの海賊の首が揺れている。
仮住まいの宿舎であるが、持ってきた自分の服やグッズを見ると気持ちが落ち着くのは確か。
「久々におじいちゃんのこと話したな。・・・思いだすな。よくおじいちゃんが言ってた。『人に問われて言うことは、自分が何をしてきたかじゃなく、何をしたいかである』って酒飲んで笑いながら言ってた」
沙織が宇宙に行きたいと思った原点は、おじちゃんが沙織に話してくれた、たわいもない空の話だったりしたのだ。
沙織の住むの地方では集中豪雨が多い地方で、子供の頃、夏の日に突然、雷雨がやって来て、バケツをひっくり返した夕立と、ピカって光る稲光と雷音に、沙織は怯えて、居間でいつも酒飲んで座っているおじいちゃんの膝の上に逃げ込むことをしていた。
「もうだめだ。このまま、洪水になってみんな死んじゃうんだ」
そういう沙織にいつも笑うおじいちゃん。
「大丈夫さ、すぐ止む。夕立はすぐ消えるから夕立って言うんだ。雨降らしている雲なんてこれぐらいしかないんだぞ」
手で拳を握り、目の前に持ってきて見せてくれて、
「空は大きくて・・・こーんくらいでデカいんだ。」
今度は手を振って、膝の幼い沙織を揺らす。
「沙織、この雲の上には何があるんだ?」
「わかんない」
「そらがある。晴れ渡った空だ。空は続く遠く外国まで繋がっている。だから雲はすぐにどっかいっちゃって無くなちまう。・・・それじゃ沙織、このソラの上には何がある?」
「シド」
「え?シド?」
「ドレミファ。ソラ、シド」
「あははは〜、賢いな沙織は」
おじいちゃんは笑いながら沙織の頭を撫ぜ
「・・・本当の空の上には、宇宙があるんだ。・・・おじちゃんは昔、飛行機乗りだんだ」
するとおじちゃんはいつも宇宙の話をする。飛行機乗りだったおじいちゃんは、空高く上がり、青い宇宙を見た。そのことを沙織を膝の上に乗せたまま話してくれるのだ。
「今、雨降らしている雲の上は晴れていて、何処までも続く空だ。そこをどんどん登って行くと宇宙が出てくる。そこは暗いが、星が無数にあり、どこまでも行ける無限を感じる。・・・行きたい。いつか飛び出したいと思っていた」
「行けばいいのに」
「そうだ。行けばいいんだ。でもな、飛行機って空気がないと飛べないんだ。行こうとしても、エンジンが回らなくて、風が切れなくて浮きあがれなくなってしまう」
登っていく手を水平にして横に動かすおじいちゃん。
「そのうち体は冷えて、飛行機に氷が付き始めて、凍ってしまって、落ちてしまう。それが怖くてやめてしまうんだ」
「おじいちゃん弱虫」
「そうだ弱虫だ。でも弱虫でも宇宙を見て見たいって思ってたんだよ」
「私は弱虫じゃない。じゃあ私が宇宙に行くわ」
「えらいな沙織は、じゃ沙織は宇宙飛行士になるか」「なるわ。絶対」
「そりゃ楽しみだ。」
上機嫌で酒を飲み干すおじいちゃん。
そんなことが原点だろうと思う沙織。
立ち上がり、少々キツめなパイロットスーツを脱ぎ、 風呂に入ってリフレッシュする沙織。
「おじいちゃんの時代は、まだ宇宙にはロシアとアメリカの人が数人、宇宙に上がっただけで、宇宙飛行士への道など何処にもなかった。それが『アポロ』が出来て『チャレンジャー』になって、誰もが目指せる道ができて、今に至る」
風呂から出ると充電していた、やっと自由に使えるようになったスマホを開き、写真を出す沙織。
家族写真の中に、スーパーマンみたいに仁王立ちしている老人のおじいちゃんを見る。
「何度見ても、ウケるなこの写真。・・・おじいちゃんが行けなかった宇宙。それが今は、アメリカだけじゃなく、どの世界の国からも行けるチャンスが、でき、そして女性の私たちや誰でも宇宙飛行士になれる。・・・宇宙に行きたいのはおじいちゃんの夢だ。私はおじいちゃんの夢を果たしてやる。宇宙を見てやる。・・・ぜったーい。 宇宙飛行士に私はなる」
と、1人断言してみるが、何かを真似た言い方した自分が少し恥ずかしい。
「全ては合格することだ。」
と、ベットに転がる沙織。
「終わった。全て終わった。後は結果を待つだけ」
ベッドのキャビネットにあるマイケルとの二人の写真みて、沙織は
「宇宙に行く時はちゃんと連れていくから心配しないで。おじいちゃん、マイケル、2人の思いを持って上がるわ」
と、言うと写真に手を振る。
すると急に眠気が押し寄せてくる。
「意外に疲れてるな私・・・気が緩んで疲れが、ドーッと・・・」
そのままべッドに倒れこんだ状態で眠りに落ちてしまう沙織。




