2 「わたし、信じるから。ちゃんと教えて?」
友達もいない俺は屋上で昼飯も早く食い終わって、そのまま仰向けに寝転んで、ふて寝した。
そこで夢を見た。
やけに美しい世界だった。
夕暮れ時で、茜色の空が大きく見えていて。舞台は東京だと思うけど、どこか寂しい感じ。
俺は空をぼんやり眺めながら、何か重大な決断をしようとしている。
そんな時、隣にいた桜庭唯光が俺に声をかけてくる。
「わたし、信じるから。ちゃんと教えて?」
そして、唯光の顔が俺に近付いて――。
さすがに現実離れした夢だ。ただ、なぜか夢の中で俺に不思議と驚きはなくて。夢の中の俺は、素直に嬉しくて胸が暖かい気持ちになっていた。
けど、夢でこんな即席に男の欲望を叶えるようなものを見るなんて、人間として悲しくなりそうだから、俺は彼女と唇が触れる前に、この夢を終えることにした。
「どんな夢みてたの?」
「……ん?」
寝ぼけ眼を擦りながら声の方を見上げると、桜庭唯光が俺の顔を覗き込んでいた。
「うわっ?!」
さっきまでの夢の内容がありありと思い出されて、途端に罪悪感が押し寄せる。
「えっ、桜庭さん? なんでここに?」
「芭空君に、聞きたいことがあって」
俺に、聞きたいこと? ってか、芭空君て。俺の名前覚えてるのかよ。いきなり下の呼び方!? まぁ、中学の時も変わってる名前だからってばくばく呼ばれてたから、いいけど。てかてか、やっぱり俺のこと見てたの気のせいじゃなかったんだ? さて、どこから先に聞こうか。
「さっき、ずっとついてきてましたよね?」
「あっ、うぐ。わかってたの……?」
「いやいや、さすがに。で、聞きたいことってなんですか?」
俺は、なるべく落ち着いた感じで聞いてみる。
「わたし、非科学的なことも、この世には全然あるって信じてるの。だから、聞かせてほしくって」
「え……」
これ、さっきの夢の内容と、同じじゃないか。ちょっとセリフは違ったけど。ってことは、やっぱり俺が見たのは予知夢だよな?
「芭空君、本当に予知夢が見られるの? だったら、お友達になりたいんだけど」
いやいや、もうそういう相手を選ぶ予知夢の話をするのは、なしにしたじゃないかって? 誰だそんなこと言ったやつは。俺、こんな可愛い子に聞かれて、嘘つくとか無理だから。俺、健全な男の子だから。
「……はい。俺、予知夢見られます」
多分見られる、とか見られるっぽい、じゃなくて。見られるって断言した。
だって嘘じゃない。実際に俺はこの時、俺は確かに予知夢を見られるんだって確信したんだ。