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1 これって予知夢?

俺、朝日奈芭空(あさひな ばく)は昔から夢をよく見る方だった。

夢って、将来の夢がどうとか憧れの仕事がどうとかっていう夢みがちってことじゃなくて。1日を終えて眠りについて、朝起きるまでに見る「睡眠中の夢」のことだ。


内容としては海賊になって航海をしたり、未来都市を散策をしたり。

かと思えばテスト前日なのに試験範囲がわかってなくてやみくもに勉強する、なんてありがちな夢も見る。


非現実的なものから、わざわざ夢で見なくてもっていうような、リアルなものまであるなかで、ただ俺の場合、その大体に結構しっかりとしたストーリーがある。

そしていつからか俺は――……予知夢が見られるようになったっぽい。

きっかけとして思い当たることは、まぁ、ある。が、確信はないのでここでは割愛しておく。

大きく言えば、中学の時のある出来事がきっかけかな、と思っている。


最初は些細な違和感だった。でも、何度か繰り返して、あれ? って思うことが増えていった。

今朝だって、そうだ。

俺の家はいつもトーストと目玉焼きと決まっている。高校一年の始業式である今日も、特別な朝食なんて出てこない。365日トーストと目玉焼き。

それが俺んち、朝日奈家。


今朝見た夢は、時間帯は朝。俺が朝ごはんを食べようとしたら、トーストが焦げていた。

トーストを朝食べるなんてのはもううちにとって長年の決まりみたいなもんなんだから、焦がすことまずなんてない。だって、いつも同じスーパーで買った同じメーカーの食パンを、同じトースターの同じモードで(つまり同じ分数、同じW数で)焼いているんだから。夢の中で母さんは「トースターが故障したに違いないわ」って言ったんだ。俺もそうかもねーなんて同意した。そこで、夢から覚めた。


で、こっから現実の話。今朝もまたリアルな質感の夢だったなー、なんて思いながらベッドから降りて、リビングにいって。

「焦げ臭くない?」

真っ先に思った。


でも、「いや、まさかね」と思って、まぁ気にせずいつものようにトースターからトーストがチン! て出てきたのを取って。……と思ったら出てきたのが、焦げたトーストだったわけ。

「なんで?!  トースターが故障したに違いないわ」

って、母親が驚いて一字一句違わずに言うから。まじかーって思ったんだよね。


2024年、春。俺は新しいブレザーの制服に袖を通す。今朝もしょうもない予知夢を見たなーって思いながら。

新しい制服は、気持ちがしゃんとする。気の合う友達を作って、絶対最高の高校生活にするぞ!

もう二度と中学の時のような時間は過ごしたくない。

俺は、そう決意して、わくわくした気持ちで桜並木が有名な通学路を歩いた。


これから始まる新生活への希望を胸に、俺は掲示されたクラス分け表に書かれていた通り、1-Cと書かれた教室に入る。朝日奈芭空、名前順ではこのクラスの三番目だ。1クラスは全員で38人らしい。窓際の席に座る。

新学期や入学時に必ずある、自己紹介の時間って、好きじゃないんだよな。何言っていいか、緊張するから。目立ちすぎもしたくないし、でもなんか気の利いたことは言いたいし。


出席番号順に端の席から座ってる俺たちは、順番に立って、何かしら話してってねーと先生に指示を受けた。俺の前の二人が特技を言ってたから、俺もなにか言わないとなーって気分になった。同調するの、めっちゃ日本人って感じするでしょ。俺、THE日本人な性格だから。

二人が終わって、俺の番になった。よし、ぶちかますぞ。


「えー、朝日奈芭空です。特技は、ちょっと変わってて聞いて欲しいんすけど。予知夢? を見られることでーす」


教室がざわついた。


え? これまずかった?

俺は咄嗟に保守に回る。


「いや、待って、違うかも。予知夢かもなー? くらいの。いや、実際見れないっす。予知夢なんて、全然。俺もよくわかってないんで。多分気のせいっすね、はは」


ざわつきは減るどころか、もっと増してしまった。

いやー、場がまだあったまってなかったか。三番目だもんな。鈴木とか高橋とかだったらいい頃合いだったかもしれないのに、うわ、俺ってば。

終わった。


俺は入学早々、やっちまったらしい。

上條高校は偏差値が中堅の高校で、俺が行ってた中学より10も高い。それなりに受験勉強を頑張って入った学校だってのに。まじかよ。


ヒソヒソ話されたり、あんまり注目を浴びるのは好きじゃない。俺、確実にTHE日本人な性格だから。

もうこの高校生活、絶対、予知夢が見られるなんて言わない。というか、そういう話題も避ける。予知夢の話自体、しない! そうする! 俺は心にそっと決めた。


にしても、新生活早々ぼっち確定かー、こんなんじゃ部活でも友達できねぇだろうなーなんて考えてたら。教室の中央あたりの席から、美少女がやけにこっちを見てくる。多分これは、気のせいじゃない。

まじかーやっちまったなーと思って、自己紹介後はやけくそな気持ちで自己紹介を聞いていたけど、彼女のことは覚えてる。

名前は桜庭唯光(さくらば ゆいひ)。身長は女子にしてはやや高め、アイドルのようにすらっとした手足に顔が小さい凡人離れしたスタイル。髪はセミロングのストレート。おそらく地毛で、髪は濃いダークブラウンだ。


俺が覚えてた理由は、単純だ。桜庭さんはクラス一の、いや俺が始業式中に見た限りでもこの学年で一番の美少女だったから。俺だって、可愛い子はすぐ覚える。ほら、健全な男の子だから。


でも、なんでだ? 本当にずっと見られてる感じがするんだよな。自意識過剰じゃ……ないと思う。


――購買に昼飯買いに行く時も。

――トイレに行く時も。

――教室で一人もしんどいし、屋上にでも行くかーって階段移動する時も。


いや、さすがに気のせいじゃないよな?! 

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