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09話「起動の兆し」

 ニルバーは、ヴィンスとルルアスのやりとりを見て、自身の過去を思い出した。



 ニルバー=マクスミリオンは天涯孤独であった。


 両親は、ニルバーが幼い頃に他界。親代わりだった祖父母も訓練生になった頃にこの世を去った。


 毎晩のように枕を濡らした。


 クーロンギアの扱いには心境が大きく影響するため、ランキング戦は負けが続いた。どうしたらいいのか全く分からない、悩みの中を彷徨う日々が続いた。


 転機となったのは祖父母の一周忌。エヴォルストン大聖堂の礼拝室でニルバーは天使と遭遇した。


 天使は何も語らない。


 ただただ微笑むだけ。


 それでも、いつも見守ってくれていたことをニルバーは理解した。


 この日を境にしてニルバーは変わっていく。


 精進に精進を重ね、やがて騎士となり、マスターとなり、そして最強の騎士と称されるほどに成長してゆく。



 ◇  ◇  ◇

 ルルアスの助言により、ヴィンスの内なる何かが目覚め、これまでに経験したことのない情熱が胸に湧き上がっていた。


――今なら起動できる気がする。試してみたい。


「あ、あの……」


 ここで起動してみてもいいですか、そう問おうとした。


 しかし、クーロンギアはあくまでも兵器。神聖なる空間で起動し、万が一、暴走でもしたら――。


「あ、いや、やっぱり何でもないです……」


 すると、ニルバーが口を開く。


「ねぇ、せっかくだし。今ここで起動してみようよ。ルルちゃん、いいでしょ?」


 軽い口調でそう提案したのだ。


「いや、でも、ここは礼拝室ですし……」


「大丈夫だって!」


 クーロンギアが暴走しても何も問題はない、礼拝室が傷付くことなど有り得ない、ニルバーはそう確信しているかのようだった。


「まぁ、事情が事情ですし。ニルバーがいるなら大丈夫でしょう。ただし、一回だけですよ」


「ありがと! よーし、それじゃ、一回だけやってみよう」


「は、はい」


 ニルバーに促され、ヴィンスは訓練用クーロンギアを取り出した。


 そして、強く念を込めた。


――クーロンギアよ! 起動しろ!!!


 すると、目の前にうっすらと黒い幻影が現れる。


 クーロンギアに起動しろと念を強く込めると、やがて影は鮮明になっていく。幻影は嗤う仮面をつけ、鉤爪を身に付けている。


 次第次第に6年前の記憶が蘇る。


 囚われた人々がウガンと手下達に脅迫されている……。部屋の中で悲鳴が飛び交う……。


 クーロンギアに起動の兆しは見られない。身体が強張り、手先が冷えてゆく。


(今なら起動できると思ったのに……。

オレはアイツの幻影に負け続けるのか……?


これからも、ずっと……。

ずっと……)



「大丈夫。落ち着いて」


 その一言で、夢から覚めたように我に返った。


 肩に優しく手を置かれている。


 そして、ニルバーが微笑みかけていた、まるで天使のように――。


 その温かい微笑みのおかげで固くなっていた心がほぐれ、身体が軽くなったようにヴィンスは感じていた。


「少し息が浅くなってるね。

ゆっくりと、呼吸して」


「は、はい……。

すぅぅー……ふぅぅー……」


 深呼吸を繰り返すと、黒い幻影は薄らいでいく。


 平静を取り戻すと、幻影は風に吹かれた煙のように消え去った。



「よぉし、続けてみよう!」


「はい」


 ニルバーから声援を受け、再びクーロンギアに起動を念じる。


(ダメだ、この構えじゃない。何か別の……)


 棒立ちで起動を念じることに行き詰まりを感じ、別の構え、特別な所作を模索し始めた。



 左手の人差し指を立てて、クーロンギアを指差す。


――違うな。


 左手を伸ばしたままクーロンギアを掴み、右手で左腕を掴む。


――違う、でも惜しい気がする。


 クーロンギアを胸元に引き寄せ、両手で包み込むように握りしめて目を閉じる。


――これだ!



(っ⁉)

(えっ……)

(この構えは……)


 ヴィンスの所作を見て一同は息を吞んだ。



 ニルバー=マクスミリオンは何か問題を抱え込んだ時、礼拝室で祈り、解決のためのインスピレーションを得る。その祈りの所作は彼女独自のものであった。


 クーロンギアを胸元に引き寄せ、両手で包み込むように握りしめて目を閉じて、祈る。



 ヴィンスの構えはニルバーの祈りの所作と瓜二つだった。この偶然の一致に、ニルバーも驚きを隠せなかった。


 しっくりとくる構えに辿り着き、再度、クーロンギアに起動を念じた。いや、祈った――。



――ニルバーさんが、みんながオレに期待を寄せてくれている。


――その期待に応えたい。


――お願いします、どうか……。


 ヴィンスの願いに呼応しクーロンギアは強烈な光を放った。


 そして、ヴィンスの手元を離れ、勢いよく回転し始める。


「うお! 何だ?」


「この光は……」


 予期せぬ発光にキリュウもルルアスも驚きの声をあげた。その光はまるで新たな可能性と希望を象徴しているかのようであった。


「まさか……!」


 そして、ニルバーも驚愕し目を見開いた。



 このまま起動するかに見えたが、クーロンギアの回転は次第に緩やかになった。放たれる光は段々と弱くなり、やがて消えてしまった。


「起動しなかった……」


 今回も不発に終わった。


 しかし、ヴィンスは落ち込んではいない。


「起動しなかったけど、いつもと違いました! なんか、こう、手応えがあって……!」


 興奮を抑えられず曖昧な言葉で説明をしていると、キリュウも興奮した様子で駆け寄った。


「すごい発光だったな!

きっと、あと少しで起動できるぞ!」


「リュウ、ありがとな!


ニルバーさんも本当にありがとうございます!

あなたのおかげですごく前進できました!」


「おめでとう! 

すごかったぞ!」


 祝福の言葉を述べ、一言だけ言い添えた。


「リュウと私以外にもお礼を言うべき人がいるよね?」


「うっ……」


「いるよね?」


「……そうですね」


 ヴィンスはルルアスの方を向き、しっかりと彼の眼を見つめた。


 そして、深く頭を下げる。


「助言をくださり、ありがとうございました」


「いえいえ、今までのアナタの努力が実ったのですよ」


「あ、あの……」


「何ですか?」


「あの……また、相談させてもらっても、よろしいでしょうか?」


 ルルアスは驚いた表情をして一瞬固まったが、「えぇ、もちろんです」とヴィンスからのお願いを快諾した。



 二人のやり取りを見て、キリュウは胸をなでおろした。


(心配させやがって……)


 そして、ニルバーは


(さっきの発光は……。もしかすると、この子は私が考えていた以上に……)


早急にヴィンスの真の実力を見極める必要を感じていた。



 その後、ルルアスが導師となり、4人で祈りを捧げた。

 

 ヴィンスは天に向けて感謝の想いを送る。ニルバー=マクスミリオンと出会わせていただき誠にありがとうございました、と――。


 そして、彼は天使達の祝福の眼差しを感じていた。


 ふと、横目でニルバーを一瞥すると、彼女は通常の祈りとは違う所作を行なっていた。


 クーロンギアを両手で包み込むように握り、目を瞑る。そして、クーロンギアを額にコツンと当てた。


(えっ……?

これって……)


 その所作が気になり、聖堂から出る時にヴィンスはニルバーに尋ねた。


「ニルバーさん、さっきのお祈りのとき……」


「あぁ、おそろいだね!

私はいつもあのポーズでお祈りしてるんだ」


「えっ!

ニルバーさんの祈りと同じポーズで、オレは起動を……」


「ふふふ、クーロンギアは天国に向けてのアンテナだって言ってる研究者もいるんだ。


戦いの中でどうしたらいいか分からなくなったら、クーロンギアをギュッと握りしめてみて。

きっと答えが見つかるから」


「分かりました。

参考にさせてもらいます」



 キリュウは少し離れたところから、ニルバーとヴィンスを見守っていた。そして、自分の心のざわめきに気が付いた。


(いかん、いかん。

嫉妬の炎、滅却すべし、滅却すべし)


 すると、ルルアスがキリュウの傍らに静かに歩み寄った。


「騎士というのは厳しい仕事ですね。

特に、キミのポジションは苦労が絶えないだろう?」


「はて、何のことですか?」


 キリュウがとぼけて問い返すと、ルルアスは柔和な笑みを浮かべた。


「ふふふ、まだまだ余裕がありそうですね」



 ヴィンスは希望に胸を膨らませ、明るい未来を夢見て帰路についた。


――クーロンギアを起動できるようになってみせる。


――必ず騎士になってみせる。


――ニルバーさんのような立派な騎士に……いつか、必ず!


 そう誓ったのだった。

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