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06話「憧れとの邂逅」

「アビゲイルには近づくな」

 そのメッセージを残して、ある日、突然、友は姿を消した。


 学校で一番の美少女、アビゲイル――。


 彼女が落とした紙を偶然、オレは拾った。

 その紙には同じ学校の生徒達の名前がいくつか並んでいた。


 最初は親友の名前。

 数人の名前が並び、最後に自分の名前……。


 リストの順に次々と生徒が消えていく。

 消える前に残される意味深なメッセージ……。


 彼女の正体を知った時、オレの日常は崩れ去った。

「ふふふ……。あなたは、最期に……どんなメッセージを、残すのかな?」



 ラストメッセージ・リスト――。

 近日公開。



「いいね、いいね〜! ゾクゾクするねぇ」


 ランキング戦が終わりトウ教官が退室した後もヴィンスとユキは室内闘技場に残っていた。ユキは映画の雑誌をパラパラとめくりながら、品定めをしている。


 容姿端麗、眉目秀麗、そういった言葉がユキにはとてもよく似合う。彼女の美しさは際立っており、芸能事務所から何度もスカウトを受けていた。


 そして、いつも他人を思いやり、彼女の笑顔は周囲に明るさをもたらす。


 ユキは男女問わず人気があり、騎士養成機関で憧れの存在として不動の地位を確立していた。


 しかし、そんなユキにも友人達に理解してもらえない一面がある。



「『闇の魔手』『呪われた鏡の秘密』『時計塔の呼び声』かぁ。どれもイイネ〜」


「うっ……。そ、それよりこっちのアクション映画とか……」


「ダメダメ! ホラー映画からしか得られないエネルギーがあるんだよ、ふふふ……」



 ユキは筋金入りのホラー映画愛好家なのだ。


 他の人が恐怖を感じるようなシーンでも、彼女は興奮し、そのリアルな恐怖体験を楽しんでいた。


 そして、その興奮を弟やヴィンスと共有しようとするからタチが悪い。


 それでも、ヴィンスは知恵を絞り、手を尽くして恐怖のイベントを華麗にかわしてきた。


 ただ、ユキが騎士に内定したお祝い、今回の映画鑑賞だけは断りきれなかった。


「う〜ん、1本に絞りきれないなぁ。こうなったら、一気に3本!」


 ユキのこの発言で、ヴィンスは恐怖のどん底に突き落とされた。


(おいおいおい! ホラー映画を一気に3本だと⁉︎)



 あれは、ある夏の日のことだった。


 ヴィンスも段々とホラー映画に慣れ始めていたため、2本連続鑑賞を許可し同行した。


 1本目はなんとか耐えた。だが、2本目の鑑賞中に限界を迎え、ヴィンスは泡を吹いて気絶したのだ。



 あの夏の日の恐怖が蘇り、生命の危機を感じて僅かに震えていた。


(2本でアレだ……。3本なんて、死ぬんじゃ……? 何かないのか? 話題をそらす方法は……!)


 頭脳をフル回転させて作戦を練っていると……。


「こんにちは。少しだけ私の遊びに付き合ってね」


「……っ⁉︎」


 突然、背後から声をかけられた。


 ヴィンスは迫り来る攻撃を察知した。回避のためユキを突き飛ばし、自身は姿勢を低くした。


 回避はギリギリで間に合い、背後に立つ者が放った回し蹴りは空を切った。


「きゃっ! 何⁉︎ 何⁉︎」


 ユキは急に突き飛ばされ何が起きているか理解できずに混乱している。


 姿勢を低くしたままヴィンスが振り返ると、そこにはヘルメットを装着した人物が立っていた。


(接近に気づけなかった。何者だ⁉︎)


 クーロンギアで攻撃を仕掛けると、謎の人物はひらりひらりと鮮やかに回避しつつ上手く距離を取った。


「……何っ⁉︎」


「やはり実際に戦うのが一番だな」


 クーロンギアでの攻撃を続けながら、ヴィンスは接近しヘルメットの人物に蹴りやパンチを繰り出した。正拳、裏拳、手刀、前蹴り、後ろ蹴り、二段蹴り……様々な攻撃を仕掛けたが、どれも軽くいなされてしまう。


(何だ、こいつ⁉︎ 攻撃が全然当たらない)


「よーし、だいたい分かった」


 ヘルメットの人物が黒のクーロンギアを取り出して起動を念じると、一瞬で長柄の武器が出現した。先端は尖っており、斧なども付いている。その複雑な形状の武器の名を彼は知っていた。


「漆黒のハルバード⁉︎ まさか……!」


 長柄の武器でヴィンスのクーロンギアは弾き飛ばされ、尖った刃物の部分を喉元に突きつけられた。


(まさか! この人は……)


 謎の人物は武器を左手だけで構えたまま、器用に右手でヘルメットを取り外した。


「いやー、ごめん、ごめん! どうしてもキミの実力を直接確かめたくってね」


 隠されていた相手の顔が明るみになった。


 光り輝く金髪、美しい銀色の瞳――。


 相手が誰であるかを完全に理解し、ヴィンスは目を大きく見開いた。


「なっ……! なっ……!」


「なぜ、あなたがここにいるのですか?」、そう問おうとしたが、あまりの緊張で言葉を出すことはできない。


「コラーー!!! いきなり襲いかかるってどういう……ん? ニ、ニ、ニルバー=マクスミリオンンンンー⁉︎」


 一方、ユキは相手の正体に気付くのが遅れ、文句をストレートにぶつけてしまっていた。


「大変失礼いたしました!!!」


 慌ててモードを切り替え、深く頭を下げて謝罪した。


「いやいや、悪いのは私の方だから。ごめん、ごめん! いきなり襲いかかって」


 ハルバードを球体に戻し、ニルバーもユキとヴィンスに謝罪した。


「えっと……。ニルバーさん、何をしに来られたんですか?」


 訓練所で騎士を見かけることはあるが、ニルバーのようなトップクラスの騎士が来ることはほとんどない。きっと余程のことがあったに違いないと二人は考えていた。


「訓練生が銀行強盗撃退のお手柄を上げたって聞いたんだ。その実力を知りたくてね」


「!!!」


 ニルバーに注目され、ヴィンスはさらに身を固くした。


「……銀行で何やらかしたの?」


「何もしとらんわ!」

 

 ユキの質問に対し、ヴィンスは激しく否定したが、内心では少し不安になっていた。


(無許可でクーロンギアを使ったのは、やはりまずかったか……?)


 恐る恐るニルバーの様子を窺うとニコニコしており、過失を責めるような様子ではない。ほっと胸をなで下ろし、ヴィンスは気が付いた。


(あれ? ホラー映画から話題が逸れてる。やった!)


 予期せぬ襲撃によっていつの間にか窮地を脱していた。


 その時、ピピピッとユキの携帯電話のアラームが鳴った。「あ!」と小さく呟き、ユキは何かを思い出した様子だった。


「すみません。これから、騎士登用のための手続きがありまして……」


「えー、残念。あなたともお話してみたかったのに」


「私もニルバーさんとお話したかった……」


 本当に残念そうに肩を落として小さな声で呟いたが、瞬時に切り替え、ニルバーに微笑みかけた。


「いつか機会がありましたら、ぜひお話させてください。それでは失礼します」と丁寧に挨拶をしてユキは去っていった。


 ユキが退室してからすぐにヴィンスの携帯電話にメールが届いた。

『ニルバーさんとお話できるとか羨ましすぎ! 映画4本! 絶対!』


(ははは……終わった……)


 逃れられない己の運命をヴィンスは悟ったのだった。



「うんうん、礼儀正しくていい子ね!」


「ソウデスネー」


「うーん、礼儀正しいけど、一癖あるような……。優等生ではない一面があるような……」


(おお、さすがは最強の騎士! ユキの本性をもう見抜いてる)


 ヴィンスはニルバーの観察眼に舌を巻いた。


 そして、ニルバーはヴィンスに対しても実力を測るだけでなく、一挙手一投足をつぶさに観察していた。わずかな時間のやりとりから、ある事実に気が付いた。


(この子、嫉妬が全く感じられない。実力が劣るユキちゃんが騎士に登用される状況なのに……)


 騎士と訓練生は「嫉妬の心」を制御するよう厳しく指導される。


 嫉妬は負の感情の根本にあり、嫉妬から憎悪につながり、憎悪が増すと攻撃性に繋がる。また、嫉妬が別の方向に増せば自己憐憫に繋がることもある。


 騎士として認められた者であっても嫉妬などの負の感情を抑えられないことも多い。


(ユキちゃんや騎士に内定した者達に嫉妬することなく、祝福すらしている。かなりの修練を積んでいるな)



 ニルバーと二人だけで残されてヴィンスはかなり緊張していたが、勇気を出して遠慮がちに話しかけた。


「えっと、オレに何の用でしょうか……?」


「少しだけ時間をもらえないかな? キミの力になりたいんだ」


 ニルバーはヴィンスに優しく微笑みかけた。



 ◇  ◇  ◇

 カツ、カツ……。


 銀行を襲った集団のリーダー、ウルス=カゲクラは手錠もつけず、牢獄を自由に歩き回っていた。


「次は絶対に引き受けんぞ……。こんな面倒なこと。脱獄させるだけだってのに」


 ぶつぶつと文句を言いながら歩き回り、ある独房の前で足を止めた。


「よう、迎えに来たぜ! フェイクセロ=ウガン」


 再び、マスカレードが始まろうとしていた。

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