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04話「騎士養成機関」

『クーロンギア――。

それは今までの常識を一変させた、特殊兵器。

使い手の魂に呼応し、数奇なる運命を紡ぎ出していく。


剣、盾、弓……。

キミの意志はどんなカタチになるのかな?

さあ、クーロンギアを体験してみよう!』


 宣伝用プロモーションビデオが騎士養成機関の受付モニターで流れ続けている。クーロンギアの適性がある者を集めるため、騎士連盟レグアは広報にも力を入れ始めていた。



 騎士養成機関、室内闘技場――。


 予定されていた時刻からかなり遅れていたが、ランキング戦の準備は進められ、審判を務めるトウ教官は待機していた。



 騎士を育てるという職業柄、教え子との死別を彼は何度も経験している。


 才能に溢れた天才であっても、お前なら大丈夫だと太鼓判を押した猛者であっても、無惨な結果に終わることもある。



 ヴィンスの相手は四大結社の一つ、ダイナソーズであり、総長カゲクラと激しい戦いを繰り広げている。


 警察から銀行強盗事件の詳細がそのように共有されていた。



 ダイナソーズ総長 カゲクラ――。

 その名を聞き、苦い記憶が蘇る。


 2年ほど前、手塩にかけて育てた教え子がカゲクラと戦い、帰らぬ人となった。


 もしかしたら今回も……そんな考えがどうしても脳裏をよぎる。



「来ませんね」


 席を外していた対戦相手が戻ってきた。対戦相手の名はユキ=スターライト。


 顔立ちは整っており、瞳は深い褐色。茶色の頭髪は肩まで届く長さがあり、髪の先は微かにカールしている。


「相手はあのカゲクラ。もしかして……」


「いや、アイツはきっと帰ってくる。

信じて待とう」


「はい」


 雰囲気が暗くなりかけた時、謝罪を述べながらヴィンスが闘技場に入ってきた。


「遅れてしまってすみませーっ⁉」


「無事だったか⁉」


「大丈夫⁉ 本当に生きてる⁉」


 遅刻を厳しく責められないかとヴィンスは心配していたがそれは杞憂に終わった。それどころか、逆に無事であるかを心配されている。


「な、何ですか、一体……?」


「何って……。お前、あのカゲクラと戦ったんだろ⁉ 警察から聞いたぞ!」


「そうそう、ダイナゾーズ!」


「あぁ、そういうことですか。

たしかに奴は強敵でした。

でもね、このワタクシにかかれば一撃でノックアウトですよ、ふふふ」


 トウ教官とユキは顔を見合わせた。


「めっちゃ強がってます。

楽勝じゃないですよ、絶対!

ギリッギリでギリッギリの勝利ですよ」


 図星を突かれ、ヴィンスはぎくりとした顔をしている。



 ユキが指摘した通り、たしかに危ない場面はあった。


 しかし、たとえベテランの騎士だったとしても相手がカゲクラなら苦戦して当然。無事に逃げ切れるかも怪しい。


 しかし、ヴィンスは傷一つ負うことなく、カゲクラを打ち倒した。


 トウ教官は再認識した、ヴィンスこそ絶対に騎士になるべき逸材であると――。



「楽勝!」「苦戦!」


「はいはい、もうやめろ!」


 ヴィンスとユキの不毛な言い合いが始まり、いつまでも続きそうだったので、トウ教官が終止符を打った。


「何はともあれ、無事で良かった。


 ランキング戦はどうする? 延期でも構わんが」


「今からで大丈夫ですよ、怪我してませんし。

それに、この試合はユキの最後のランキング戦ですからね」


 ユキは騎士に内定しており、今後のランキング戦のメンバーからは外される。何か用事がない限り、ユキが騎士養成機関に来ることもなくなる。


「ユキ、頑張れよ!

オレもすぐに追いつくからな」


「ふふふ、騎士内定のお祝い、楽しみにしてるから!

試合後に詳しいこと決めましょ!」


 ヴィンスは恐怖のイベントを思い出し、顔を引き攣らせた。


「あぁ、例の映画か……。ははは……」


「大丈夫だって! 初心者向けだから!」


 微笑むユキとは対照的に、ヴィンスは気落ちしていた。ユキが好む映画のジャンルはやや偏りがあるのだった。



「よーし、二人とも準備はできてるか?」


 トウ教官の問いかけに二人は頷き、それぞれ持ち場についた。


「ふぅー、最後のランキング戦かぁ……。

待てよ、私が勝てば、カゲクラよりも格上ということに……?」


「いや、それは違う」



 その時、誰もいない室内闘技場の観戦席に微かな足音が響いた。


「さぁて、カゲクラを倒したというキミの力、見せてもらうよ」


 その小さな足音の主は最強の騎士ニルバー=マクスミリオン。銀行強盗事件の処理を警察と次に到着した騎士に任せ、彼女は騎士養成機関へと駆けつけた。


 彼女は見定めなければならなかった、ヴィンスの実力を――。



「始め!!!」


 トウ教官の合図と同時に、ユキは右手を前に突き出した。彼女の念に呼応し、金属製の球体、クーロンギアは浮かび上がり、掌の前で静止した。


「はっ!!!」


 ユキが強く念じるとクーロンギアが回転し淡く光を放ち始めた。球体は消え去り、剣が出現した。カゲクラの斧ほどではないが、荘厳なるオーラを纏っている。


「あの女の子、見覚えが……」


 しばらく考えて、ニルバーは騎士登用についての書類で見た顔だと思い出した。


「そうか、今期トップで登用試験に合格してたな。トップ合格者とお手柄少年……。ふふふ、この戦い、なかなか見ものだな」



 ヴィンスがゆったりと左手を突き出した。すると、クーロンギアが浮かび上がる。


 そして

「はっ!!!」

彼の念に呼応し、クーロンギアは球体のままユキに勢いよく向かっていく。


「起動しない状態で……⁉︎」


 ヴィンスの攻撃を見て、ニルバーは驚嘆した。しかし、同時に納得もした。


 訓練生がダイナソーズの総長、ウルス=カゲクラを倒したと聞き、ニルバーは何かカラクリがあるに違いないと考えていた。


(なるほど、クーロンギアを起動せずに武器として使うのか。

カゲクラは意外と考えて戦うタイプらしいし、この戦法なら不意を突けたんだろうな。

私も初見で対処できたかどうか……)


 ユキとヴィンスの数度のやり取りでニルバーはこの試合の全体像を掴み切った。


 凄まじい剣捌きだ――。

 成績トップなだけはある――。


 ニルバーはユキの実力を高く評価した。


 しかし、ヴィンスの攻撃はそのユキを徐々に追い込んでいた。剣にはダメージが蓄積し続けている。


 ヴィンスとユキは何度も対戦を重ねており、互いに相手の戦法を熟知していた。相手を倒すための最善の策を互いに練ってきたが、ヴィンスがひたすらに攻め続け、ユキは剣でクーロンギアを弾き返して防御するという一方的な展開が続いた。


 二人の実力には圧倒的な開きがあった。


(よし、今だ!)


 ヴィンスはクーロンギアを自分の手元に一旦戻し、ユキに向けてクーロンギアを蹴り飛ばした。


「はあぁー!!!」


 ヴィンスのクーロンギアは蹴りによってパワーが増し、猛烈な勢いでユキに向かっていく。


(来い! 受けて立つ!)


 急激な勢いで迫りくるクーロンギアをユキは的確に防御した。そして、防御した後に接近してカウンターを仕掛ける、それがユキの逆転プランだった。


 しかし、剣は限界を迎え、パキンと音を立てて真っ二つに折れてしまった。


「そんな……!」


 この攻撃で剣を破壊できるはず、ヴィンスはそう予想し接近戦を仕掛ける用意をしていた。


 武器破壊を確認した瞬間、一気に距離を詰め……

「はぁ!!!」

回し蹴りを叩き込んだ。


 蹴りに対してもユキの防御は的確だったが、威力をいなしきれず壁まで吹き飛ばされた。


「うっ……」


 かなりのダメージを受け、ユキは立ち上がれない。そして、砕けた剣は粒子となり、球体の状態に戻った。クーロンギアを再度起動すれば修復された状態の剣が出現し、戦闘を続けることも可能だった。


 しかし

「そこまで!!!」

トウ教官はこれ以上の戦闘継続は危険と判断し、ヴィンスの勝利を宣言した。


「すごいな、あの子。クーロンギアを起動せずに圧勝か。


登用試験トップ合格者ですら、まるで相手になっていない。

実力は訓練生のレベルをはるかに超えているな。


だけど、この戦い方は……」



 ヴィンスの実力を、ニルバーは高く評価した。彼を騎士として今すぐに登用するようマスター達に進言することすら検討していた。


 しかし、戦い方について、どうしても疑問が残る。


「なんでクーロンギアを起動しないで戦うんだ?」


 その点については説明がつかず、納得ができない。


「あれ? あの子、どこかで……。もしかして、あのマスカレードの時の……」


 その時、ニルバーの携帯電話にキリュウからの着信が入り、疑問についての考察は一時中断となった。


「はーい」


『ニルバー、今どこに?』


「騎士養成機関に来てる」


『銀行強盗を撃退したお手柄訓練生が気になりましたか?

それで、ランキング戦を観戦、とか?』


「まあね」


『その訓練生ですが、オレの元同期ですね』


「へぇ。

かなり面白い戦い方をするね、あの子」


『でも、効率が悪すぎる……そう思ったんじゃないですか?』


「アレは、銃を撃つんじゃなくて銃で殴る拳法を極めるようなものでしょ?

一体どれだけの鍛錬を……」


『クーロンギアは起動して武器とすることを想定して造られていますからね。

起動せずに操作して戦うなんて普通は考えません』


「彼がクーロンギアを起動すると、どんな武器になるの?」


『……』


「カゲクラを撃退するほどの実力。

登用試験トップ合格者に圧勝。

それなのに彼は訓練生のまま……。


何か大きな欠点があるんじゃない?

例えば、あえてクーロンギアを起動しないで戦ったんじゃなくて……


クーロンギアを、起動できない


……とか?」


『何もかもお見通しですね。

そうですよ。あいつはクーロンギアを起動できない、クーロンギアを起動できたことがないんです……』



 クーロンギアは使い手の魂に呼応して、数奇なる運命を紡ぎ出していく――――。


 今まさに、ヴィンスの運命が大きく変わろうとしていた。

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