表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/40

03話「初めての実戦」

「待て! オレが相手になる!!」


「あ? 何だ、お前?」


 ヴィンスの呼びかけで、カゲクラは動きを止めた。


(相手になる? ってことは、この小僧……)


 少年が自分に立ち向かう意味が分からず、事態を理解するのに少し時間がかかっている。


「警官から離れろ!」


「離れなかったら?」


「オレがお前らを倒す」


「ほう」


 ヴィンスはリュックサックからクーロンギアを取り出し、左手を突き出した。そして、念を送り、クーロンギアを浮遊させた。


「騎士がいたのか!」

「良かった!」

「頑張れー!」


 人質達は一縷の望みをかけてヴィンスにエールを送った。すると、カゲクラの舎弟達はヴィンスと人質達を嘲笑った。


「ふははは!」

「お前ら、バカか?」

「こいつのクーロンギアは訓練用だ!」


 たしかにカゲクラのクーロンギアとは異なり、ヴィンスのクーロンギアからは質素な印象を受ける。


 訓練用クーロンギアは数十回から数百回起動すると壊れる、あえてそのように設計されている。


 一方、カゲクラのクーロンギアは武器として使われる正規品であり何度起動しても壊れることはない。正規品のクーロンギアに内在されているエネルギーは1万年経とうとも尽きることはないとも言われている。


 訓練用と正規品には明確な差が存在した。


 人質達も両者のクーロンギアの性能差を感じ取り落胆した。


 しかし、カゲクラは違った。


「正式な騎士じゃないのは残念だが……。まぁ、いいだろう。かかってこいよ! 訓練生!!」


 訓練用のクーロンギアで立ち向かってくるヴィンスを漢と認め、それなりに相手をしてやる気になっていた。


(まさか騎士になる前に初めての実戦を迎えるとはな……。

寝不足だし、準備不足。しかも、相手はダイナソーズの総長。


それでも、やるしかない!)


 改めて覚悟を決め

「いくぞ! 銀行強盗!」

ヴィンスはクーロンギアを操作し、臨戦態勢になった。


 彼のクーロンギアは一体どんな武器になるのか……? 全員が固唾を呑んで注目した。


(さぁて、このガキのクーロンギアは何になる? 

訓練用はだいたい剣、槍、盾だったか……?)


 カゲクラはいくつかの予想を立て、相手の戦い方を予測した。クーロンギアの使い手ならば当たり前のことである。


 しかし、それが命取りになる。

 

「はっ!!!」


 ヴィンスが念じると、クーロンギアは球体のままカゲクラに勢いよく向かっていった。クーロンギアが武器になる気配はない。

 

「なっ⁉︎」


 虚をつかれ、カゲクラの反応は遅れた。そして、ガードに失敗し、頭に重い一撃を喰らった。


 クーロンギアは起動して何かしらの武器となるもの、それは誰もが知る常識だった。その常識により反応が遅れ、カゲクラは想定外の一撃を喰らうことになった。


「よし!!」


 最初の一撃に成功し、ヴィンスは再度の攻撃を仕掛けた。


「ふん!!」


 カゲクラは斧を巧みに操り、二撃目は完璧に防ぎ切った。しかし、球体のまま動き回るクーロンギアに翻弄され、劣勢に追い込まれた。


(このまま畳み掛けてやる!)


 反撃の機会を与えないようにヴィンスは猛攻を仕掛けた。カゲクラは斧を器用に使って防御するが、何発も重い攻撃を喰らってしまっている。


 そして、ヴィンスはクーロンギアで翻弄しつつ、隙があれば接近し拳や蹴りで追加のダメージを与えた。


(こいつ……なぜクーロンギアを起動しない⁉︎ 舐めてんのか⁉︎)


 カゲクラの戸惑いや苛立ちが伝わり、やがてカゲクラの手下達が戦局を理解し始める。


「おい、あれって……」

「総長……?」

「そんな、まさか……」


 それは次第に人質達にも伝わっていく。


「もしかして、あの子が押してる……?」

「すごいぞ」

「このまま勝ってしまうんじゃ……」



「あぁ、そうだ。騎士を寄越してくれ……。

訓練生が戦ってくれてる……。

信じられないが、優勢なのは……」


 警官の一人が目を覚まし、電話で状況を伝えていた。予想に反し、訓練生が善戦している、と。


 実際のところ、善戦どころではない。カゲクラは翻弄され続け、ヴィンスが終始優勢だった。


(いける! いけるぞ! このまま圧倒してやる!!)


 ヴィンスと人質達が淡い希望を抱き始めた、その時、カゲクラの目が怪しく光る。


(クーロンギアを起動しない理由……気にはなるが、もうどうでもいい! 


 舎弟の前で、これ以上、無様な姿を晒す訳にはいかねぇ!!)


 そして、カゲクラの怒号が響き渡った。


「お前らぁ! 伏せろぉ!!!」


 相手を見下して油断し、想定外の攻撃に翻弄された自分の非をカゲクラは素直に認めた。そして、ヴィンスを全力で戦うべき強敵だと認め、必殺技を繰り出すことにした。


「マジですか⁉︎ 総長ォ⁉︎」

「ここでやるんすかぁ⁉︎」

「ひえぇー!」


 強盗達は知っていた、その技が強大で危険であり、周囲にも大きな被害を及ぼすことを――。


 彼らは必殺技の恐怖に震えながら、頭を抱えて床に伏せ防御体勢をとった。人質達は危機が迫ることを理解し、強盗達に倣い頭を抱えて床に伏せた。


「はあぁっ!!!」


 カゲクラは斧を両手で大きく振り上げ、そして、勢いよく振り下ろした。


 激しい衝撃波が生じ、ヴィンスに襲いかかる。


「……っ⁉」


 衝撃波は銀行の壁を砕き、隣のビルの壁すらも切り裂いた。相当な実力の騎士でなければ対処不可能な凄まじい一撃だった。必殺技が完璧に成功し、カゲクラは勝利を確信した。



 実は、この必殺技には弱点がある。


 一つ、視界が悪くなること。衝撃波がホコリなどを巻き上げ、一時的に見通しがきかなくなる。


 二つ、体勢を立て直すのにやや時間がかかる。大技であるため、技を放った後、次の行動までに若干のタイムラグが発生する。


 連発できない技なため、万が一、避けられた場合、相手から手痛い反撃を受ける可能性がある。通常、カゲクラはこれらの弱点を踏まえて技を放つ。


 だが、今回は相手の回避など考慮せずに必殺技を放った。


 小僧が避けられる訳がない、これでケリがつく――。

そう判断したのも無理はない、相手は訓練生なのだから――。


 しかし、相手が悪かった。


 ヴィンスはクーロンギアの肉体強化を脚に集中させ、全力で真横に跳んでいた。ギリギリのところで衝撃波から逃れていたのだ。


(あっぶねぇー! 何だよ、今の⁉︎)


 カゲクラはヴィンスの生存に気づき、目を見開いた。


(あの一撃を避けたのか⁉︎ こいつ、本当に訓練生か⁉︎)


 大技を繰り出したため、カゲクラにほんの少しの隙が生じていた。その隙をヴィンスは見逃さない。


 クーロンギアをカゲクラの足元に忍び込ませて急浮上。防御は間に合わず、カゲクラの顎にクーロンギアがクリーンヒットした。


「か……はっ……」


 その一撃が炸裂すると、カゲクラは小さなうめき声を上げ、倒れ込んだ。そして、彼の手を離れた斧が床に激しく衝突し、轟音がロビーに響き渡った。


(何者だ……? このガキ……)


 巨大な斧は霧のように消えていき、球体に戻ってしまった。斧の消失はカゲクラの敗北を意味していた。


「そんなぁ!!!」

「総長ォォォ!!!」

「うそだぁー!!!」


 リーダーが倒れたことで強盗達は統率が取れなくなった。もはやヴィンスの敵ではない。


「ぐはっ!」

「うっ……」

「ぐへぇ!」


 次々と攻撃を受け、強盗達は倒れていき、最後は呆気なく戦いは終わった。ヴィンスの完勝である。


「うおぉぉ!」

「すげぇぇ!」

「勝ちやがった!」


 最後の強盗が倒れると人質となっていた客達は歓声をあげた。


「ふぅ。なんとか勝てた」


 ヴィンスは激しい戦いから解放され笑顔を見せた。


「……訓練生に敗北し投獄か、情けねぇ。

だが、これでも一応は筋書き通りだな」


 カゲクラが小さく呟いたことに気付く者はいなかった。



 ◇  ◇  ◇

 しばらくして、ニルバー=マクスミリオンがバンク・オブ・アリノンに到着した。その時には強盗達はすでに捕縛されていた。


「これは、一体……?」


ブックマークや評価をして下さると大変励みになります!


お気に召しましたら、ぜひよろしくお願いいたします!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ