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02話「ダイナソーズ総長 カゲクラ」

 銀行で気をつけないといけないことの二つ目、それは銀行強盗である。



 突然の騒乱が銀行を包み込んだ。


 強盗達は慌てた客と行員を脅し、静かな銀行内で恐怖を掻き立てていた。誰もが強盗を恐れて両手を挙げ、恐怖のあまり泣いている者もいた。


 強盗の一人が窓口に駆け寄り、窓口の銀行員にカバンを容赦なく投げつけた。


「この袋にありったけの金を詰め込めぇ!!!」


 ヴィンスは他の客と同じように大人しく指示に従いつつ、強盗達の様子をつぶさに観察した。もちろん怪しまれないように細心の注意を払っている。そして、彼らの行動に若干の違和感を覚えた。


 同行していた女性が怯え切り小さく震え始めた。ヴィンスは見かねて女性を安心させようと小さな声で話しかける。


「安心してください。いざとなったらオレがクーロンギアでなんとかしますから」


「クーロンギアって……。あなた、騎士だったの。若いのに立派ね」


「任せてくださいよ、あははは……」


 たしかに、ヴィンスは訓練用のクーロンギアを持つことを許可されている。しかし、正式な騎士ではなく、あくまでも「見習い」であった。


 訓練は受けているが、実戦は未経験。しかも、訓練以外でのクーロンギアの使用許可は出ていない。



 ◇  ◇  ◇

 ところ変わって、高速道路。


 制限ギリギリの速度で黒いバイクが疾走していた。ただ一直線に走るだけで何故か人々の目を惹き、対向車線の運転手達の視線を釘付けにしていた。


(私もまだまだだな。

さっきのは一歩間違えば大事故だった)


 バイクを運転する女性の名はニルバー=マクスミリオン。この国で最強と評される騎士である。


 先ほどの事故未遂は完全にヴィンスに非があった。立ち止まるべきところで飛び出したのは彼の方なのだ。


 しかし、ニルバーは自分にも落ち度があったと認めていた。市民を守る騎士として対応が不十分であったと。


(エンジンの調子が良くて浮かれていた。

「予言」について考え込んでた。

「勘」も働かなかった……)


 鍛え直すことを誓ったところで、ニルバーの携帯電話に着信が入った。画面に「リュウ」と表示されている。15歳の相棒、キリュウ=スケールズからの電話である。


 ニルバーはハンズフリー機能を使って通話を開始した。


「はーい、何?」


『ニルバー、今どこに?』


「えっと……ちょっとコンビニに……」


『はぁ〜、ニルバーがそう言う時はだいたいツーリングなんですよ』


「あははは……」


 なんとか誤魔化そうとしたが、軽薄なウソは優秀な相棒に一瞬で見破られてしまった。


『もうちょっとマジメに探してもらえますか?』


「いやー、面目ない」


『手が空いてるならバンク・オブ・アリノンに行ってください。銀行強盗です』


「えー、どうせ、またチンピラでしょ?

きっと私より警察の方が早いよ」


 1週間前、宝石店で強盗が発生した。犯人がクーロンギアを使用していると連絡がありニルバーは急行した。しかし、実際はクーロンギアを使えると法螺を吹いたチンピラの集まりで、警察でも十分に対処できる事件だった。


 犯罪が起きれば初動では警察が対処する。しかし、犯人がクーロンギアの使い手だった場合、騎士に要請がかかる。


 クーロンギアに対抗できるのはクーロンギアだけ、だからである。


『多分、警察の手に負えません。

例の「王国」が絡んでる可能性があります』


「例のキングダムか。分かった、すぐに行く」


『……無理は、しないでくださいね』


「大丈夫だって」


 キリュウとの通話を終えた後、ある考えがニルバーの脳裏をよぎった。


(もしかして……予言が示しているのは、この銀行強盗か?)



 ◇  ◇  ◇

 その時、銀行では強盗が再び天井に向けて発砲していた。人質たちは恐怖で凍りつき、銀行のロビーは緊張に包まれる。


「遅い! 遅い! 遅いっ!!!」


 強盗は銀行側に対して、とにかく早く金を準備しろと強要した。


 しかし、強盗がカバンを渡してから1、2分しか経っていない。実際のところ、かなり無理のある要求だった。


(動きは「プロ」。

なのに、要求は「素人以下」。


 物理的に不可能な無茶ぶりだ。こいつら、何がしたいんだ……?)


 ヴィンスは強盗の真の狙い、目的について考えを巡らせた。しかし、手がかりはなく、皆目見当もつかない。


「警察や騎士が来るまでの時間稼ぎしてんじゃねーだろーな!」


「ひっ。全力で……対応しております。

もう少しだけ……お待ちください……」


 支店長と思われる人物が銀行強盗に胸倉を掴まれて脅迫されつつも、なんとか冷静に対応していた。しかし、これ以上ないというほどに青ざめていた。


 すると、強盗の一人が冷徹に告げた。



「見せしめが必要だな」



 この犯罪が自分には関係ないかのような、無責任で無関心な冷たさが彼の口調から滲み出ていた。


「さすがです! 総長ォ!!」

「見せしめ! いいっすねぇ!」

「ひゃっほぉう! 見せしめぇ!!!」


 総長と呼ばれる男の言葉によって強盗達が勢いづく一方で、人質達の顔からは血の気が引いていった。


 総長は気だるげにゆっくりと人質達を見回す。


「ん〜。そうだな。そこのご婦人にしようか」


 そして、ヴィンスと共にいた女性に狙いを定めた。


 総長の言葉に、女性は驚きと恐怖の表情を隠せなかった。


 銃を向けられて女性が身を固くした瞬間、ヴィンスは決意をした。強盗達に立ち向かうと――。


(こうなったら、オレが……! ん……?)


 しかし、何かに気を取られて動きを止める。


 総長は女性やヴィンス、人質の様子を全く気にしておらず、無慈悲に言い放つ。


「悪いな。こっちにも事情があるんだ」


 銀行のロビーに銃声が鳴り響いた。


 人質や銀行員、その場にいた全員が女性の死を覚悟した。だが、女性は無傷だった。


 総長が女性を撃つ直前、何者かが先に総長を狙撃していたのだ。


 腹部に銃弾が直撃し、総長は横転。そのはずみでヘルメットが外れ、カラッコロッと音を立てて床を転がった。


 すると、女性のすぐ後ろから男性が立ち上がる。その手には拳銃が握られていた。


「残念だったな。銀行強盗!」


 続いて4名の男達が立ち上がった。全員、強盗達に向けて銃を構えている。


「警察だ! お前たち、もう逃げられないぞ!」


 立ち上がった警官の一人は銃を構えつつ電話で話をしている。おそらく本部に応援要請をしているのだろう。



 普段から警察はバンク・オブ・アリノンを重点的にマークしており、毎日、私服で巡回していた。銀行強盗が起きたのはちょうどその巡回時間だった。


「警察?」

「助かった」

「警察がいてくれたんだ」


 人質は安堵し、ピリピリとした空気が和らいだ。


 ヴィンスは女性を守るためにクーロンギアで抵抗するつもりでいた。


 しかし、非常事態とはいえ、許可なくクーロンギアを使えば他の訓練生達や教官に迷惑をかける可能性はある。警察に任せて大人しくしていよう、そう考え直した。



 すると、その和らいだ空気を切り裂くように、どこからともなく笑い声が聞こえてきた。


 銃で撃たれて致命傷を負ったはずの総長は笑いながら立ち上がる。


「くくく、残念だったな〜。警察官」


 銃撃による傷はどこにもなく、総長は無傷だった。


(コイツ、まさか! まずいな)


 ヴィンスは誰よりも早く状況を理解した。いかに危険な状況であるかを。


「馬鹿な! 弾は確実に当たったのに」


 撃った相手が無傷だった、そんなことは信じられないと警官は驚愕し困惑した。そして、ある可能性に気が付く。


「そうか! お前、クーロンギアを……」


「くくく、そういうことだ。

銃だけで済む仕事かと思っていたが、面白くなってきた」


 総長が右手を前に突き出すと、キラキラと輝く粒子がどこからともなく出現し掌の前に集まり始める。やがて粒子は集結して金属製の球体が姿を現した。


「特別に見せてやろう、勇敢なる警察の諸君に敬意を表し……。


はぁ!!!」


 総長の念に金属製の球体、クーロンギアが呼応し、起動を始めた。


 球体は勢いよく回転しながら、再び粒子となり、形を変えて集結し、巨大な斧となる。それがただ巨大なだけの斧ではないことは、クーロンギアを扱えない人質達も感じ取っていた。斧はこの世の物とは思えない、異質な輝きを放っている。


「イエーイ!」

「出たー! 総長のクーロンギア!!!」

「はははぁ! これでお前ら終わりだー!」


 総長がクーロンギアを起動したことで、強盗達の士気はさらに上がり、思わず歓声をあげた。


「巨大な斧のクーロンギア⁉︎

まさか、お前、ダイナソーズの……ウルス=カゲクラか……」


「へぇ、知ってくれてるとは、光栄だね」


 銀行強盗の正体が明らかになり、ヴィンスも大きな衝撃を受けていた。


(おいおいおい、ダイナソーズかよ。


四大結社の一つがなんでこんな銀行強盗を……⁉︎)



 バイカーギャング、ダイナソーズ――。


 バイカーギャングとは、その名の通り、バイク乗りの暴走族を意味する。だが、彼らの所業は単なる暴走族に収まらない。


 武器輸送、火器取引、資金洗浄、誘拐、脅迫、強盗、殺人、あらゆる違法な行為を生業とするのだ。


 そして、警官の前に立ちはだかるこの男こそダイナソーズ総長、ウルス=カゲクラ――。


 騎士五人以上の救援を要請せよ、それが警官達に伝えられていたカゲクラへの対応措置である。この事件はもはや警官だけで対処できるものではない。



 カゲクラは斧を豪快に一振りした後、斧の柄を優しく撫でた。


「お前らにこの斧を使うまでもないな。

「肉体強化」だけで十分だ。


覚悟しろよ、警官共!」


「……っ! う、撃て! 撃てぇ!」


 警官達が一斉に射撃するのとほぼ同時に、カゲクラは天井に向けて斧を放り投げた。


 斧はクルクルと回りながら天井スレスレまで上昇する。そして、そのまま回転しながら落下していき床に突き刺さった。


 斧が投げられて落下する、そのわずかな時間に勝負はついた――。



 ◇  ◇  ◇

「……っ! う、撃て! 撃てぇ!」


 カゲクラが天井に向けて斧を放り投げるのとほぼ同時に、警官達は一斉に射撃した。


 頭部、喉元、腹部、放たれた銃弾はあらゆる急所へと向かっていく。しかし、一発たりとも当たることはない。


 カゲクラは人間離れした素早い動きで銃弾全てを避け続けた。


――的確に急所を狙ってくるな。全員、腕はいいようだ。



 クーロンギアと「契約」を交わし、使い手となった者はクーロンギアから漏れ出す粒子により肉体が強化される。個人差があるものの、常人離れした能力を得ることになる。


 粒子が身体を包み、銃弾からもその身は守られる。透明で、重さがなく、頑丈な「鎧」を着ているようなものだ。


 そして、その「鎧」によって身体能力は飛躍的に向上する。銃弾を避けることすら可能になる。



 斧はクルクルと回りながら天井スレスレまで上昇していく。


 カゲクラは斧の様子を気にしながらも、銃弾を避け続ける。そして、警官の背後に回り込み、殴り飛ばした。その衝撃で警官は壁まで吹き飛ばされ、呻き声を上げて意識を失う。


――クーロンギアに対しては何もかも無意味。打撃も斬撃も、銃撃であろうとも意味はない。


 クーロンギアによる強化は攻撃力、防御力だけにとどまらない。思考の速度、思考の敏捷性も大幅に向上する。そして、ごく稀に超能力の類を取得する者も存在する。


 銃弾が放たれ迫り来るまでの時間はカゲクラにとって十分過ぎる時間だった。斧の位置を確認し、警官全員を観察し、手下達を守ることを考えて行動する余裕まである。


 警官が一人、また一人と殴られていき、全員が倒された。


 そして、斧は回転しながら落下していき、床に突き刺さった。


 斧が投げられて落下するまでのわずかな時間に勝負はついた。


「くくく、少しは楽しめたぞ、警官共。


だが、残念だったな。

クーロンギアに対抗できるのは、クーロンギアだけだ」



 カゲクラの身体能力に圧倒され、人質達はしばらくの間、声を出すことすらできなかった。


(強い、強過ぎる。


コイツ、教官達より上かもしれない……)


 そして、ヴィンスも相当な衝撃を受けていた。


「さすがです! 総長ォ!!!」

「イエェーイ!!!」

「マジ最高っす!!!」


 カゲクラは斧を床から抜き、無慈悲に告げた。


「警官の処刑を始める。連れてこい!」



(もう、許可がないとか様子見とか言っていられない……)



 強盗の一人が最初に発砲した警官をカゲクラの前に連れ出した。


「相手が悪かったな」


 カゲクラはそう言うと、斧を大きく振りかぶる。



(オレがやるしかない!!)


 ヴィンスは立ち上がった、警官と人質を救うために――。


「待て! オレが相手になる!!」

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