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拓斗死す、デュエルスタンバイ!

昼休み、残り5分ともなれば学食や外のベンチで昼食を食べていた生徒も各自の教室に戻って来る。力也に席を貸していた女子生徒も戻って来たので力也は席を返しお礼を言いつつ拓斗の周りに留まる。

 その拓斗の机にはカードが並べられていた。そのカードゲームはあちこちでCMが流れているのでこの学園でも知れ渡っているものだ。


「やっぱりスキルの構成を考えるとこっちの方が良いんだよな」


 そう大智がカードをデッキ軍の方に置く。だが力也は微妙な顔でそのカードを取り2人に言う


「でもそれは初心者が使うには難しいと思うよ。安くて強いのは否定しないけどさ」


「かと言って余り変化を入れないのはトライアルデッキと何も変わらないからな」


 それに親友3人衆が唸る。

 3人がしているのはトライアルデッキに変化を加え、初心者でもそのカードゲームを楽しめ、尚且つ勝ちやすくするようにするためにトライアルデッキを改造する事だ。

 

拓斗のバイト先の店長から課された宿題、それが3人がしていることだ。厳密には拓斗が請け負ったものなので残りの2人は関係ないのだが2人とも当たり前の様に拓斗に知恵を貸してくれる。拓斗は言葉には出さないがそれが頼もしく感謝している。きっとこの友情は不滅だろうと


「っと、そろそろお嬢様が帰って来るぜ」


 お嬢様というのは学校内での涼花のあだ名だ。容赦のない言動と行動、ただ何かを命令している訳でもないから女王というより我儘で容赦のないお嬢様という方がしっくりくるのだ。

 ただし本人が許可したわけではなく周りが勝手にそう言っているだけだ。

 これを直接本人にも言おうものならその者は勇者として永遠に語り継がれるだろう……精神的な命と引き換えに。


「ああ、そうだな。危なかったぜ」


 拓斗はそう言ってカードを几帳面にも分けてホルダーに収納していく。

 この学校は昼休みに教師が教室にいる事は滅多にない。それ故にこの校則違反でもあるカードゲームを広げていてもバレる可能性は低い。だがもう1人だけ注意しなければならない人物がいる。言うまでもなく涼花だ。

 生徒会室に入った通り涼花は1年生になるのと同時に生徒会書記に名を連らねている。だからこんな校則違反もののカードゲームを広げている所なんて見せたら……想像するだけでも恐ろしい


「でも、実際拓斗はお嬢様の事どう思ってるんだ?」


 甚だ疑問と言った顔で大智が問いかけてる。


「何が?」


「とぼけんなよ、流石に1年隣の席に座っておいて何も感じてないわけないだろう?」


「なんだその俺は全て分かっていると言いたげな顔は。少なくともお前らが思っているような感情は持っていないぞ」


 そう言って拓斗は机の上に置きっぱなしのカードを見ながら少し思案する。だが直ぐに考えを纏める為に腕を組み眼を閉じる。


「そうだな、先ずは何と言っても愛想が悪い」


 拓斗は眼を閉じながらその結論を先に告げた。目の前の親友2人が口を「あ」と言った感じにして固まっているのに気が付かず1人で頷きながら続ける


「頭が良いのは認めるし容姿も俺が出会った人の中では1番輝いて見えたのもまた事実だ。見た時は宝石のような人だなと思ったものだ。いやー、懐かしい」


 本当に懐かしんでいるのか何度も独りでに頷く。親友2人がそーっと席を離れているのにも気が付いていない。


「だが蓋を開けてみれば言葉は剣みたいに鋭く態度は絶対零度、どこかのラブコメのヒロインにいそうだ。しかしラブコメの場合はそういう人程主人公にツンデレになるものだ。それもデレデレの領域に」


 徐々に教室に帰ってきてるクラスメイト、元々いたクラスメイト達が拓斗の席から出来るだけ離れようとしている。厳密には教室の最後方に。


「三月の場合はそんなのが絶対にありえないと思う程の絶対零度を放っている……そうそうこんなふう……に?」


 そこで拓斗は何だか後ろの空間が心なしか冷たくなっていることに気が付いた。そして何を思ったのか咄嗟に頭を机にぶつけない勢いで下げ……その頭があった場所に一陣の風が吹き抜けた。

 その時離れている親友達やクラスメイト達を見て悟った


「ふっ、身勝手の極意を極めている俺には通じない」


 キリっ! という効果音が付きそうなほどの決め顔をした拓斗、ただし背中には尋常じゃない汗が吹き出し始めている。


「そう……では貴方の大事なカード達を人質に取ればその勝手になんとかを破れるかしら?」


 そんな声が聞こえた瞬間拓斗の隣から腕が伸び拓斗の目の前に置いていたデッキを奪い取った。その奪取スピードに拓斗は引き気味の薄ら笑いを浮かべる。


「あのー……涼花さん。返してもらえるんです……よね?」


 拓斗は完全に固まった。カード達を人質に取られ動けない。それでもせめてと思い振り返ったら件の絶対零度、斬撃(物理)を放つ準備を完成させていた。

 即ち拓斗の精神を殺す準備を


「ごめんなさいね? デレデレのラブコメのヒロインじゃなくて」


「はは……はははは」


 引き気味の笑顔のまま時を待った


「我らが勇者に、黙祷!」


「お前の犠牲は消して無駄にはしない!」


 大智と力也がクラスを代表するように言うと皆して手を合わせ眼を閉じた。まだこのクラスが始まって1カ月ほどしか経っていないというのに何という団結力、恐るべし! 


(裏切者おおおーーーーっ!!)


 それが拓斗の遺言だった





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