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デレデレな兄がうざいです

涼花の話

拓斗に理不尽な言葉をぶつけた涼花はお昼ご飯にするために教室を出た。足早に歩くその美しい姿にすれ違う誰もが振り返る。


 涼花はその視線を一切無視し歩を進める。もとより自分の容姿が優れていることなど知っている。こんな興味本位な……偶に性的な視線を向けてられるなんてもう慣れっこだ。


 涼花が自分が役員を務める生徒会室に向かうための階段がある角を曲がろうとすると一人の男子生徒が涼花を待ってましたとばかりに立っていた。


 それに目を細める。スリッパをさっと見るとどうやら一年上の先輩だ。男子生徒は一般的に見れば所謂イケメンな顔だ。実際去年の文化祭で行われた学内のイケメンコンテストで優勝したのだから客観的に見てもイケメンだろう。


 周りの生徒がざわつき始める。一歩引いたところにいる彼・彼女らには気になる展開なのだろう


 しかしどこかの少女漫画の様に涼花は別に運命を感じなかった。


「君が涼花さんか。初めまして、俺は……」


 そのイケメンが普通の女性なら一発で落とせるであろう爽やかスマイルで名前を名乗ろうとしたが涼花は「待て」と言わんばかりに掌をばっと出し名乗りを止めさせた。


「私は貴方に興味は無いので、名乗らなくて良いですよ」


 そう力也が言った斬撃には程遠いがそれでも刃を感じさせる程冷たい声を出した。

 そのほぼ初対面にもかかわらずあっさりと一刀両断した涼花に男子生徒も流石に思わず口を開いたまま硬直する。

 それをこれ以上何も言う事は無いと解釈し硬直したままの男子生徒を忘れたように横を通り過ぎようとしたが、思い出したように振り返っていたずらっ子のような表情で


「その靴下、校則違反ですよ」


 男子生徒の靴下は真っ赤な赤色だ。この学校では靴下は白か黒が主な色じゃないとダメとなっている。呆けた顔の男子生徒にはもう興味がないと言わんとばかりに踵を返し生徒会室に向かうための階段を上った。上っている最中に今の流れを見ていた他生徒の声が嫌でも入って来る


『学校1のイケメンでも無理とか理想高すぎだろ』


『他に好きな人がいるのかな?』


『キャー!』


 そんな色んな反応を背中に感じつつも歩くのはやめない。恋愛……かつては興味があったものだが今はその意味を見出せなくなった。そして……仮に恋愛できるとしても恐らく自分はしないだろう。それが自らに定めた戒めだ。

 だけれども涼花はその胸を苦しそうに当て


(私にはもう……恋なんてする資格はないわ)


 そのどこか寂しそうな……苦しそうな表情を見たものはいなかった


 ★★★★


 生徒会室に入ると既に先客がいた。奥のこの「龍神学園高等部」の生徒のトップである生徒会長の席だ。

 がっちりとした体格を思わせる頼もしい肩幅と制服越しでも分かる隆起した筋肉、顔は我が兄ながらなぜそうなったと思う程どちらかというと老け顔だ。

 しかしそれが逆に生徒会長としての威厳を醸し出しているのが何とも言えない。

 それを改めて思ったところで口を開けた


「会長、お待たせしました」


 ドアを丁寧に閉めた後そう言った。


「妹よ、俺達だけの時は『兄さん』で構わないのだぞ。いや、寧ろそうしてくれ」


「何を真顔で言っているんですか」


 実際、涼花が会長と言った三月優輝(ゆうき)はどこぞの総帥のように肘を机に付け手を組んで顔の半分を隠して眼光だけは涼花に向けている。その表情は涼花の言う通り真顔だ。

 しかし次の瞬間には至極当然という顔になりダーンッ! と椅子から勢いよく立ち上がり


「だって可愛い妹がなんだか他人行儀みたいじゃないか!」


 無駄に迫力があると思った。涼花は兄を睨みながら


「キモ」


「ぐああっ!」


 本当にダメージを受けたのかと思う程リアルに胸を押さえ背もたれに身体を預ける。大の男がそれをやっているのだから滑稽な光景だ。

 そんな兄を無視し涼花は棚に置いておいた自分の弁当箱と兄の弁当箱を取り出し、会長の椅子にいた優輝も未だに胸を抑えながら役員を囲むための机に隣同士で座る。

 キモと言いながらもなんだかんだ涼花も兄の事をそれなりに好きなのだ。どちらもブラコン…かは怪しいが、シスコンという位には。


「「いただきます」」


 二人は拓斗たちがそうしていたように手を合わせた後に弁当を食べ始める。無言で二人は食べて咀嚼音だけが生徒会室に響く。

 だけれども優輝の方が我慢出来なかったのか涼花が口のものを飲み込んだのを見届けた後、何気なく会話を振る


「どうだ、クラスには慣れたか?」


 と聞いている優輝にも本当は涼花が慣れるどころか逆にクラスメイトを遠ざけているのではないかというのは分かっている。


「ええ、まあ」


 言葉を濁した涼花に優輝は頷く。


「そうだ、中学の時に隣だった……氷火君と言ったかな。今も隣の席なのだろう?」


「……それが?」


 何で兄がその事を知っているのかは詮索しなかった。そもそも生徒会長なのだからその位調べるのは訳ないだろう。


 ついでに言うなら聞いた所で「可愛い妹の隣の野郎共を調べるのは兄として当然だろう!」と完全に私情で調べたことを悪びれもせずに暴露するだけだろうと思っただけだ。


「涼花の隣の席に二年連続いるなんてやるじゃないか!」


 そう豪快に「ワハハ!」と笑う。対する涼花は全く笑っていない。お茶を飲み呆れた表情を兄に見せる


「おお、妹が兄をゴミを見るような眼で見てくる。反抗期? 反抗期なのか?!」


「ウザイ」


「がはっ!」


 本当に吐血したんじゃないかと思う程の勢いで胸を抑える。そんな兄の行動は今に始まった事ではないので涼花は再びお茶を飲む。

 隣では兄が目にもとまらぬ復活を果たしていた。


「しかし、実際もう少し愛想よくしたらいいんじゃないか?」


 いきなり真面目なトーンになる兄に涼花はお茶に映る自分を見ながら言った


「……嫌よ、そんなの私が周りに媚びてるみたいじゃない」


「媚びる媚びないの話ではないんだがなぁ」


 優輝は心配な声で腕を組む。涼花には友達と呼べる友達が少ないと優輝は心配している。だから涼花は昼休みはこの生徒会室でよく昼食を食べている。今日はそれに優輝も付き合った感じだ。


「良いわよ別に……友達なんて結局上辺だけの関係になるしかないんだから」


 冷めまくっている妹を見て兄は見つからないようにため息をついたのだった。

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