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realise  作者: 絵武出素
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第1話 現実


 「……カ……ミカ……ミカッ! 」


 長い夢を見ていた様に、重い瞼はなかなか開こうとしない。

 そんな状態でも、やけに騒々しいアメリの声はしっかりと耳元に届いてくる。

 轟々と金属が地面を揺らす音がする。


 「ミカッ!……起きるんだ! ミカッ」

 「……アメリ……?」

 「良かった……ミカ! 事情は後で説明する、今はここから逃げるんだ! いいね?! 」

 「あっうん……!」


 半身起き上がって、ようやく自分が一枚岩の上で倒れていた事を認識する。

 「あれ……」ミカはアメリに連れられる最中、何故自分は岩の上にいたんだと記憶を辿るも、最後の記憶はアメリが死んだ所で途切れていた。

 

 「アメリッ! なんなのこれ!? 」

 「説明は後だって言っただろミカ! 」

 「無理だよこんなの! だって……だってッ! 」


 アメリはわざとミカの視線を遮る様に移動していたのだが、小さなアメリの体ではその全てを隠し通すのは無理があった。

 ミカの眼下に広がっていたのは、穏やかに時が流れる日本の光景とは正反対なもので、まだ幼い少女を壊すには十分過ぎた。


 西洋甲冑に身を包む幾千もの兵が、互いの威を示さんとその剣を突き刺し、斬り払い、そして首を掲げる。

 我はここにありと雄叫び、再び殺す。

 美しい輝きを放つ甲冑は赤黒く染まり、宙に吹き上がる飛沫が戦場を包む霧となって覆い被さっていた。

 視線の先の兵は、敵兵を殺したと思えば後ろの敵兵に刺され、死んでしまった。

 一際動きの良い兵もいたが、包囲されて死んだ。


 「……あ……ああ……人が…ッ…! 」

 「……」

 「アメリ……人が……ッ! 」

 「……ミカッ」


 視界を塞ぐほどの涙で何度もミカは転びそうになりながらも走り続ける。

 アメリもまた、止まりそうになるミカを引っ張り続けていく。


 「心を強く持つんだミカッ! まだ君は悪夢の中にいるのさ! ここは現実なんかじゃない! しっかりしてよミカ! 」

 「でも……ッ! アメリッ! 心が痛いよ……ッ夢なのに、心が張り裂けそうだよ!! 」


 涙でクシャクシャになった顔を向けるミカに、アメリは心底この状況を恨んだ、そして哀れんだ。

 魔力の逆流で別世界に転移されるだなんて聞いたことがない。

 本来、世界の理に干渉できるのはアメリを含めた超常的生物のみに許された力であって、それがただの人間を巻き込んでしまうなんて。前例なんてある訳がない。


 「……ミカ。変身するんだ。」


 「……え?」


 それまで止まることの無かったアメリが急に立ち止まった。

 

 「理に干渉できるのは僕達だけだと思っていたけど、君にもその力がある。何で気がつかなかったんだ……ミカ、魔法少女の君が開いた扉だ、もう一度扉を開く事だって可能だよ! 」


 「でも私……、どうやってこの世界に来たのかだってわかんないんだよ!? 変身したってどうにもならないでしょ!? 」

 「やってみないとわからない事だってあるよ! 」

 「無理だってッ! 」


 俯きながら声を張り上げたミカに、アメリは静止する。


 「アメリ……ごめんね。私何の為に魔法少女になったのかわからないの……私の目の前から誰もいなくならない様にって、アメリが来た時言ったんだよ。でもね、どんなにすごい人でも、例えば魔法少女でもね。結局は無力なんだよ、何もできないんだもん……。」


 その場に膝から崩れ落ちるミカの肩は、小刻みに震えていて、溢れ出す感情を押し殺すのに精一杯なのがアメリにもすぐ理解できた。


 「……怖いよ……人が人じゃないみたいでさ。ここから逃げるしかできない魔法少女に、そんな魔法少女になりたかったんじゃないよ……」

 

 「……ミカ。ただ、僕は君の優しさは必ず誰かの役に立つ、世界を変えてくれるって信じてたんだ。だから君を魔法少女に選んだんだよ。……優し過ぎる君は必ず救いたいって、そう言うと思ってた。僕だって君を失うのが怖いんだ。」


 震えるミカの肩にチョコンと座るアメリ。


 「……私、みんなを助けたいの……。目の前で人が死んでいくなんて耐えられないよアメリ……。」


 「できるよミカ。君ならできるよ。傷ついた人を、癒してあげるんだ。勇気は心のプリズムが与えてくれる。」


 「……ワガママ言ってごめんねアメリ。」


 「いいんだミカ。君を選んだのは間違いじゃなかった。今はそう信じられるよ。」


 未だ鳴り止まない怒号と悲痛の叫び声の中、優しい光がミカを包む。

 立ち上がった彼女の右手には、ピンクに輝くハート型のプリズムが出現する。


 「私が救うんだ。この世界を、この人達みんなをッ!……チェンジ・プリズムフォース! 」


 黒い雲が覆う赤い大地を、ミカから溢れ出す白い輝きが照らし出した。

 

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