利香視点 2
あけましておめでとうございます。
私はバイトの帰り道を歩いていた。
おにぃさんも一緒だ、駅まで送って行ってくれるらしい。昼間だし大丈夫だって一度断ったんだけど、帰り道だからって。本当に大丈夫なんだけどな。普段から千夏ちゃんにもこんな感じなのかなって、ちょっと思った。
「そういえばおにぃさんって、なんでバイト始めたんですかぁ?」
「…………えーと、ちょっと新しいことがしたくなって」
「なんですかぁ、その失恋したJKみたいな理由」
「えっ」
彼の驚く様子に驚いて、思わず足が止まってしまう。
「えっ?…………もしかしてぇ、本当に振られたんですかぁ?」
「…………」
「…………マジですかぁ」
無言で頷くおにぃさんを見て、少し意外に思った。この人は、恋愛にそれほど興味があるようには見えなかったから。興味が湧いた。一体、彼はどんな人を好きになるのか。…………分かってる。私が気になるのは、多分それだけが理由じゃないんだけど。
「…………男として見れないって」
「……………………え。待ってください確認ですけど、それ、千夏ちゃんじゃないですよね?」
「! そんなわけないよね!?」
「ですよね、流石に。………じゃあ、誰ですかぁ?」
こんなに踏み込んでいいのかなと思いつつも、つい好奇心で聞いてしまった。けどおにぃさんはそこは大して気にして無さそうだった。……ちょっと安心する。
「…………部活の後輩」
「へぇ。って、おにぃさん文芸部って言ってましたよね、…………まさか、あの子ですかぁ? それはそれは……また、思い切ったことしましたねぇ」
今だったら、告白の結果は違ったかもしれないと隣を歩く人を盗み見ながら思う。
最近運動でも始めたのか身体は引き締まって、肌も綺麗になってる気がするし、そのせいで、今まで目立ってなかったけど意外なくらいに顔のパーツが整ってたことが分かったりとか。
まぁなんていうか……端的に言えば、最近のおにぃさんはかっこいい。
この人笑ってないとパッと見がかなり怖いから、さっきも私に絡んできたお客さん、一瞬で引いてたし。でもその分、笑った時の人懐っこい笑顔がいいんだけど。って、何でわざわざ心の中でフォローしてるんだ私。
「あ、駅が見えて来た!」
恥ずかしくなったのか、分かりやす過ぎるくらいに話を逸らすおにぃさん。ちょっと可愛い。…………でも、逃がしてあげない。
「にしても、振られちゃったんですかぁ。残念でしたねぇ」
見る目のない人もいるんだなぁ。
「うぐっ…………じゃ、じゃあ、僕はここで! 今日はお疲れ様!」
――――でも、好都合だ。
「――――ねぇ、おにぃさん? これからは利香、でいいですよぉ」
「…………え」
「今日はありがとうございましたぁ。かっこよかったですよぅ」
今の自分の振る舞いがいつもの演技なのか、それとも自分の本当の気持ちなのか分からない。浮足立っている自分を自覚しつつ、私はとっておきの笑顔を浮かべた。




