逢魔の斜陽
ガタンゴトン。ガタンゴトン。一定の拍をとりながら電車は車内を揺らす。冷えすぎたクーラーから身を守るように、膝に抱えたかばんを抱きしめる。車窓からは嫌に綺麗な夕日が一日の虚無感を沸き立たせた。
斜陽が窓越しにじりじりと肌を焼いているのを感じたが、動くのも面倒くさく思え、目を閉じた。
いつもは田舎の電車とはいえそれなりに人も居る。それが今日はどうだろう。不思議と周りに人は居らず、向かいに女がひとり座っているだけだった。逆光でよく顔が見えなかったが、なにやら鶯色の着物を着ているらしい。彼女と目が合った。綺麗な人だと思った。ただ、不思議と背にじっとりと汗をかいているのが感ぜれた。
車内が朱色に染まっていき、陰影が色濃く背を伸ばし始めた。私はこの空間を恐ろしく思った。
女が笑った。
「どこへ向かっているのですか」
口が勝手に動いた。
「行く先なんて一つしかないじゃないか」
「本当にそこに行きたいんですか」
顔はますます暗く、表情は見えなかったが目だけがはっきりとわかった。後ろに見える街並みも黒く染まり、どこか偽物な気すらした。
「誰も行きたいから向かっているわけじゃあない。乗ってしまった以上このまま運ばれていくのが楽なんだ。好きにさせてくれ」
「好きなようにしたいのでしたら、途中で降りちゃいましょう」
女は目を細め、楽しそうに言った。
「降りて進んでも、その道は全てハリボテだ。踏めば抜ける。抜けたら後にも先にも行けやしない。そんなのごめんだ」
がたんと電車が揺れる。途端、この電車がどこに向かってるのか分からなくなり、不安になった。
私は絞り出すように呟いた。
「どうすればいい」
女はきょとんとしたように首を傾げてから、口を三日月のように裂いた。
「私と行きましょう。全く別の、この電車の目的地へ」
世界は真っ暗く、女の後ろから射す斜陽の光のみが爛々と光っている。
遠くからなにか呼びかける様な声ががやがやと響いてくる。それがだんだん近づいてくる。耳を塞いでも、すぐ側で何かを言っているように聞こえる。地面がガタガタと揺れる。体温が下がる。
私は必死の思いで目をぎゅっと閉じた。それでも斜陽の赤が目を焼くようだ。
私は何もできない。私はどちらも望んでいない。私はどこへ向かえばいいのだろう。
「こっちへ来ましょう?」
耳の奥から女の声が響いた。
それを最後に揺れが止まった。声も止んだ。
「…です。……駅です。お降りの方は乗車券を前の精算機に」
いつものアナウンスが聞こえる。はっと目を開けると見慣れた車内があった。よく見ると私の降りるべき駅で、急いで扉をくぐった。
外に出ると蒸し暑い空気が体を温め、ひぐらしのうるさい声が響いていた。私が進んでいく先が望まぬものだとしても、少なからず帰る家がある。それだけでも十分なのかもしれない。
久しぶりに書いたので文章力とか絶望的かもですし、物語もまとまっていないように思いました。まぁ、文芸部クオリティみたいな。