一章
「私、エリオット・ナハトゥーンは、本日婚約者リリアンヌ・グレイシーとの婚約破棄をここに宣言する」
高らかに宣言したのは、この国の第二王子のエリオット・ナハトゥーンだった。
場所は、この場にはもっとも相応しくない、クーケット国で催される最大の夜会である年越しの夜会。
更に言えば、国王であるライドリック・ナハトゥーンが、開会の挨拶をしようとしたところでの割り込みでの宣言である。
「第二王子、エリオットよ。それは、今、この場で言わねばならぬことか?」
王が渋々言葉を発する。
「はい、父上。今この場で・・・」
「本当に、今、この場で発する必要があることか、再度考えよ」
王は、有無を言わさず第二王子を黙らせる。
「さて、皆さん。笑えない愚息の余興に付き合ってもらって申し訳ないと思っている。さて気を取り直して、この年越しの夜会を楽しんでもらえたらと思っている。では、乾杯」
微妙な空気の中、王は、無理矢理開始を宣言した。
不穏な空気を醸し出していたが、時間が経つにつれ参加者も少しずつ和やかな雰囲気となっていった。
ある程度、参加者が楽しんでいるのを見届けると、王は、会場から出て行った。