第40話 衛生兵の優先事項
「うがッ……ぁあぁあッ!」
『ゴボォォオッ!』
同時刻。HEAT-RAIDERと交戦していたBERNARD は、全身を赤熱させた彼の者によるベアハッグに捕われ、その灼熱攻撃に晒されていた。
如何に全身を鋼の鎧で固めている戦闘改人といえど、内側から生身の部分を蒸し焼きにされてはどうにもならない。赤と白を基調とする外骨格には亀裂が走り、露出しているマスクの口元からは、すでに黒煙が噴き始めている。
「……リック、私は……」
『ゴボォォ、ゴォオボォッ!』
「私は……負けられん、お前が生きる未来のためにもッ!」
だが、内側から焼き尽くされながらも。BERNARDは決して諦めず、朦朧とする意識の中で、起死回生の一手を打とうとしていた。
「急激に冷まされた鋼鉄が如何に脆いか、貴様は知っているかッ!?」
『ボォォゴッ……!?』
両腕の手首に搭載された、冷凍ガス噴射器。彼は震えながらもその発射口を、HEAT-RAIDERの両腕に押し当て――至近距離で噴射する。
赤熱していた鉄人の腕部が、本来の鈍色に戻ったのは、その直後であった。
『ゴボォォオゴッ!?』
「CAPTAIN-BREADの故郷には、こんな諺があるそうだ。――肉を切らせて、骨を断つッ!」
急激に冷却され、結晶構造が変化した鋼鉄は非常に脆い。その特性を狙い、BERNARDは両手から伸ばした帯電クローを突き刺し――HEAT-RAIDERの両腕を、粉砕してしまう。
その一撃によってベアハッグから脱出した彼は、再び冷凍ガスを鉄人の全身へと浴びせていき――赤熱していた全身を、元の色に戻してしまうのだった。
『ゴォォオッ……!』
「……ここは戦場だ。誰もが傷付き、倒れ得る。だからこそ、衛生兵たるこの私は……例え何があろうと、倒れるわけにはいかんのだァッ!」
両腕だけでなく、全身を急速に冷やされた鉄人は、もはや死を待つ人形でしかない。そしてBERNARDも、多くの命を奪ってきた彼の者に、容赦することはなかった。
両足の脛に収納されていた可変武器を引き抜き、素早く斧に組み立てた彼は――それを一気に投げ付け、刃を腹部へと沈ませる。
『ゴボォ、オッ……!』
「はぁあぁああぁあッ!」
さらに間合いを詰め、その斧を引き抜きながらHEAT-RAIDERの肩を蹴り、頭上へ跳び上がると。今度は斧からピッケルへと、滞空しながら武器を変形させた。
「BERNARD-BREAKッ!」
そして。最上段から、頭脳部を狙う必殺の一撃。
その威力をピッケルの先端に込めるBERNARDは、勢いよく刃先を鉄人の脳天に沈め――この戦いに、幕を下ろす。
『……ゴッ、ボッ……』
「悪いが、お前に構っている暇はない」
それが、彼の勝利が確定した瞬間だったのだが。当のBERNARD自身は全く余韻に浸る気配もなく、仲間達の戦況へと視線を移していた。
「――要救助者の人命が、私の最優先事項だからな」
彼にとっては自分1人の撃破数など、何の価値もないのだろう。他者の命にのみ目を向けるその背中が、全てを雄弁に語っていた。




