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第30話 オリジン・オブ・クオーツ


 竜吾とヘンドリクスを乗せるエレベーターは、地下深くまで進み――数分後、ようやく停止した。

 開かれた扉の向こうに続いている、薄暗く長い通路が、この先に待つ存在の「重要性」を物語っている。


「随分と深くまで潜るんだな。……で、俺の後釜ってのはどういう意味だ?」

「文字通り、君に代わって人々のために立ち上がってくれる、半機甲電人の戦士だよ。合衆国出身の、ね」

「合衆国の? 俺が纏めたデータは日本警察にしか渡していないはずだが」

「その日本警察が、実用化と引き換えに合衆国へデータを提供していたのだよ。彼らだけでは、制式採用に至るまでの予算を確保出来なかったようだからね」

「さすが資本主義の最先端、足元見ていやがる」

「そうやって強くなってきた国だよ、ここは」

「違いねぇ。……それで完成したのが、合衆国製の半機甲電人第2号ってわけかい」

「完成はこれからだよ。この件で初陣を飾り、有効性を証明して初めて完成だ。……国連軍製の量産型半機甲電人も、最終調整がまだ済んでおらんことだしな」

「俺のデータを使って、あんたが独自に開発したっていうアレ(・・)かい? よく年内にそこまで進められたな」

「BLOOD-SPECTERを潰した君の『後輩』に連なる計画だからな。予算と人手を割く価値はあると、上も見ているのだよ」


 その実態を耳にした竜吾は、この先に待っているという「後輩」の気配に目を細め――咥えている煙草を上下に揺らしていた。


「……この件についてはすでに、あのCAPTAIN(キャプテン)-BREAD(ブレッド)も動いているが、彼1人では六戦鬼は倒せまい。6機全てが集うた際の脅威は、恐らく君の報告にあった『魔人(ヴァイガイオン)』の上を行くだろう」

あいつ(・・・)が……」

「そう。制式半機甲電人(ハーフ・オートボーグ)が完成するまで、という任期を満了し、武装を解除されたROBOLGER(ロボルガー)-X(クロス)。政務に専念するため、第一線から退いたPALADIN(パラディン)-MARVELOUS(マーベラス)。そして今もなお、現役として戦い続けている『偉大なる三英雄(グレートスリー)』最後の1人」

「……」

「そんな彼を死なせないため、私が新たに編成する特殊精鋭部隊が――GRIT(グリット)-SQUAD(スクワッド)というわけだ。件の異世界問題が関連している案件に限り、『超法規的措置』を許されるヒーローチームだよ」

闘志の群れ(グリット・スクワッド)、ね……」


 そんな彼の様子を見遣りながら、セイクロスト帝国に伝わる「号令」にあやかった部隊名を告げ。辿り着いた鉄扉を開くスイッチへと、静かに手を伸ばす。


「紹介しよう、彼が――」


 そして、厳重に封鎖されていた鉄扉が轟音と共に開かれ。その向こう側の全貌が明らかになった――瞬間。


「ダブルバイセップスッ! ラットスプレッドッ! そして極め付けの……サイドチェストォッ!」


 鉄扉の先に広がる、トレーニング器具ばかりが詰まった一室。その中央で、ひたすらポージングを繰り返す1人の男が、絶えず叫び続ける光景が飛び込んで来た。


「……」


 その「後輩」の姿に、竜吾は思わず咥えていた煙草を落としてしまう。


 小麦色に焼けた筋骨逞しい肉体は、196cmにも及び。1枚の星条旗ビキニパンツだけを履いた、その肉体美への自信に溢れ過ぎた姿は、無機質な部屋の中で一際異彩を放っていた。


 完全な生身――に見せかけた、最新鋭人工筋肉と生来の筋肉、そしてハイパーセラミック製の骨格。体表を覆う装備を纏い半機甲電人(ハーフ・オートボーグ)となる竜吾とは違い、自分の体そのものを鎧とする彼は、戦闘改人(コンバットボーグ)に近い存在でもあるようだ。

 機甲電人に精通している彼でなければ、一目でこの男が生身の人間ではないことには気付けなかっただろう。


 風に靡く形を維持するブロンドヘアーや、白い輝きを放つ歯、愛嬌を感じさせる垂れ目や、人懐っこい印象すら受ける爽やかな笑顔。

 どれをとっても、堅牢な鎧と鉄仮面で全てを覆うROBOLGER(ロボルガー)-X(クロス)とはまるで共通項がなく――彼という飛躍的な科学的進化(ブレイクスルー)の出現に、竜吾はなんとも言えない表情を浮かべる。


「おや? ヘンドリクス准将、もしやその人が例の?」

『早速、マスターの頭の悪さが露呈したようですね』

「うるさいなぁ、クラフ……おほん。お会いできて光栄だよ、ROBOLGER-X! ボクの名前はマクシミリアン、皆からはマックスと呼ばれてる! 君の後輩ってことになるね、これからよろしくッ!」

『クラフと申します。質問、ありますか?』


 加えて。従来の機甲電人に使われるAIとは異なり、人語で流暢に喋ることができる「相棒」がいるらしく。クラフと呼ばれる人工知能の声が、呆れ返った様子で主人(マスター)に悪態をついていた。

 相棒と合体していなければ生身の人間でしかない、というROBOLGER-Xの弱点を克服し、さらに人語を自在に操る高次元のAIを体内に搭載した、次世代の半機甲電人。それが竜吾の前に現れた、「後輩」の姿だったのである。


「――彼がGRIT-SQUADの新たなる筆頭格にして、君の後釜。HABG-02X、QUARTZ(クオーツ)ことマクシミリアン・アンクルパンツ。そして彼の相棒である、クラフだ」


 そんな彼を改めて紹介するヘンドリクスを他所に、竜吾は眼前に並べられた情報を整理しつつ――何度も頷きながら、落としてしまった煙草を拾い。


 とりあえず。


「……おう、まずは服着ろや」

「ハハッ、確かに!」


 見てる方が寒くなりそうだったので、先輩風を吹かせるのだった。


 ◇


 マクシミリアン・アンクルパンツ――通称マックス、30歳。合衆国という故郷と、その自由の国に生きる人々を愛してやまない彼はかつて、ニューヨークを脅かすBLOOD(ブラッド)-SPECTER(スペクター)に、身体一つで立ち向かったことがあった。

 組織の息が掛かった銀行強盗に敢然と立ち向かい、彼は己の命と引き換えに人質を救出したのである。その最期は、英語教師として日本に赴いていた頃の教え子である、篁紗香(たかむらさやか)の心に暗い影を落としていた。


 だが――その極限以上に鍛え抜かれた肉体と強烈な愛国心が、ヘンドリクスの目に留まったのだ。BLOOD-SPECTERを壊滅させたROBOLGER-Xの「引退」を前に、彼は優秀な「後継者」を見つけたのである。


 その精神性を見込んだヘンドリクスによって、遺体ごと国連軍に回収されたマックスは、第2の脳となる参謀「クラフ」と鋼の身体を与えられ、半機甲電人として蘇った。やがてヘンドリクスの誘いに快く応じた彼は、燃ゆる愛国心を武器に、悪と戦う道を選んだのである。


 ――BLOOD-SPECTERを潰し、「自分」の仇を討った火弾竜吾に報いたいがために。

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] クォーツことマックス、まさしくコテコテのアメリカンヒーローって感じですね。 『事故で命を落としてヒーローとして甦った』ってまんま昭和の仮面ライダーじゃないですか。 いいっすねぇ~、こういう…
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