第26話 勇者達の帰還 後編
「いやぁ、心配したんだぜ福ちゃん。いきなり連絡が途絶えるんだもん」
「うっせぇ、福ちゃん言うな。ちょっとな……遠い場所で、色々あったんだよ」
「ふぅん? ま、とにかく無事に帰ってきて何よりだよ。今日は奢るぜー、福ちゃんの帰還パーティーだ!」
「ちょっ……やめろバカ! 断りなく! 唐揚げに! レモンを! 掛けるんじゃあないッ!」
共にヒーロー活動を続けている、相棒の「シルバード」さんに祝いの席を設けられて。「魔王装甲マガイダー」こと寿福太郎さんは、ちょっと暑苦しい彼に辟易しつつ、無許可のレモンに苦言を呈していた。
この後彼は、再びこことも違う異世界に旅立ってしまうのだが――それはまた、別の「お話」だ。
「ちょっと雷牙ッ! 一体今まで、どこで何してたわけッ!? わたしが納得できるように説明してご覧なさいッ!」
「ま、待ってくださいシーラさん! いきなり帝国に行ってしまったのは、確かに僕のミスでした! しかしあの時は緊急を要する事態で……!」
「帝国ッ!? ブンドール帝国に1人で乗り込んだっていうのッ!?」
「いや違うんですってば! ……ええと、どこから説明したらいいのか……」
美しいブロンドの髪を靡かせながら、紗香に匹敵するほどの巨峰を揺らして、声を荒げる絶世の美女。そんな「教え子」に手を焼く女子高教師――「宇宙刑事ライガ」こと轟雷牙さんは、彼女の剣幕にタジタジになっていた。
そんな彼らの「痴話喧嘩」を、周囲のクラスメートさん達は、ニヤニヤと笑みを浮かべて見守っていたのだという。
「て、てめぇ……何だってこんなことを!」
「おやおや……あなたも、いいイチモツをお持ちのようで」
赤黒い数珠を鳴らし、狂気を宿した瞳で「対戦相手」を射抜く、「羅刹寺の僧」こと――根切羅刹さん。
彼は今日も、その異形の腕を振るい……いや、うん。私の口からはこれ以上、何も言えそうにない。
「ちょっと、猛君! 一体どこに行ってたのよ、春歌ちゃんも心配してたんだからね!?」
「あはは……すみません、舞先輩。ちょっと異世界召喚されてたものでして」
「い、異世界召喚!?」
「まぁ、信じられないってのも無理ない話だとは思いますけど。正直僕も、実際に『門』を潜るまでは――」
「はぁぁ……いや、うん、そりゃあそんな展開もなくはないだろうけど。よりによって猛君かぁ……。向こうの人達に変な話とかしてないでしょうね? 5時間連続の特撮講座とか」
「――え、僕の心配ってそこ?」
ヒーローや怪人の戦いが、日常となっている世界。そんな故郷に帰ってきた「レヴァイザー」こと天野猛君は、帰って早々に先輩の変身ヒロインさんから、お説教を受けていた。
なまじ戦闘力においては信頼されている分、他の点で周囲から心配されているらしい……。
「結衣っ……心配、したよっ……! 今まで、どこにっ……!」
「あわわ、ごめん真菜ちゃん! いきなり黒くてツルツルのおじさんに頼み込まれて、周りに相談してる時間もなさそうだったからついっ……!」
「結衣様は罪作りですからねぇー。よっ、女泣かせ!」
「ガーネットぉぉお!」
泣き噦る猫耳の女の子を懸命に宥めながら、囃し立てるステッキに怒号を飛ばす「魔法少女」――椎名結衣ちゃん。彼女は大切な友達を守る為に、今日も頑張っている。
ちょっと騒がしいかも知れないけど、それ以上に頼もしいステッキ――「ガーネット」さんと共に。
「まんまと誘き出されたな、バイカーマスク2世・十文字高斗! ここが貴様の墓場だ!」
「はっはっ、貴様らの仕業と知って、誘き出されてやったのさ。このバイカーマスク2世が居る限り、貴様らジャアッカーの野望は遂げさせん!」
「よし……俺達も行くぜ、トカゲ!」
「はい!」
悪の組織「ジャアッカー」の怪人が蔓延る世界に帰ってきた、「バイカーマスク2世」――こと、十文字高人さん。彼はこの日、「時空転移マシン」という罠を張る怪人達との決闘に臨んでいた。
その影で暗躍する、トカゲ型の怪人に待ち受ける数奇な運命を、知る由もなく。
「リーパー! お前、生きてやがったのかぁ! ガァッハッハハハ、心配させやがってぇ!」
「ソコロフ……さては酔ってるな?」
「そりゃあ、あなたが急に行方を眩ましたんだもの。親ロシア派に殺されたんじゃないかって、ずっと悩んでたわ」
「そいつは悪かったな、チェブラーシカ。……なら一つ教えておく。俺達『ストライク・ブラック』の兵士は、任務を果たすまでは絶対に死なない。どんな世界だろうと……どんな戦場だろうと、な」
ヨーロッパのウクライナ東部。その紛争地帯にある基地で、仲間達との再会を果たした黒衣の兵士――「リーパー」さんは、出迎えに駆け付けた彼らの歓待を受けていた。
いつ死に別れるかわからない戦場だからこそ、育まれる絆。それを、確かめ合うかのように。




