第20話 魔将と鉄人
8m級の巨体を誇る、龍頭の魔人。その黒い影に迫る3人のヒーローを――突如現れた「側近」が阻んでいた。鬼達を生み出していた魔人の影から、不意を突くように飛び出してきた「亜種」を前に、3人は咄嗟に足を止め身構える。
「……ッ!?」
「こいつらは……!」
無数に湧いている鋼鉄食屍鬼達とは違う、たった2体の鬼。だが、今までの悪鬼とは桁違いの気迫と――赤金色の甲冑を纏っている。
どうやら、鋼鉄食屍鬼達の上位種であるらしい。3mもの巨躯と額から伸びる1本の角が、これまでの「雑魚」との違いを見せつけているかのようだ。
「魔人直属の近衛兵……ってとこか。全く、次から次へと……!」
「奴を倒さない限り、眷属達は無限に沸いて来る! 皆が数で押し切られる前に、俺達で奴を仕留めるぞ!」
「無論だ。……そのためにもまず、最後の邪魔者を片付けなくてはな」
だが、そんな連中に時間を割いてはいられない。すでに倒しても倒してもキリがないくらい、大量の鬼達が溢れかえっているのに――これ以上増えられたら、さしものヒーロー達も物量で押し潰されてしまう。
発生源である魔人を倒し、鬼達の増殖を止めないと、勝ち目はない。輝矢君達は魔人のところへ向かうべく、2体の上位種に狙いを定めた。
「――残念。その獲物なら、あたし達が頂くわ」
「なッ――!?」
すると。聞き覚えのある声に、私がハッと顔を上げた瞬間――3人の両脇から、新たに二つの「門」が出現する。
きっと目を覚ましたジークロルフさんが再び、転移魔法を使ったのだろう。しかも、この声……私は、この声を知っている。
「竜吾、ロブ! ……花奈ッ! あたし達も、助太刀させて貰うからねッ!」
そんな私が、想像した通りに。艶やかな茶色のロングヘアを靡かせて――元の世界から来た私の親友が、「門」から飛び出して来た。
「紗香っ!?」
「……ごめんね、花奈。こんな大事な時に、今まで側にいなくて。でも、もう大丈夫だから!」
Jカップという抜群のプロポーションを、白い空手着に隠している彼女の名は――篁紗香。地球で暮らしていた頃、大罪人の娘だった私にも屈託なく接してくれていた、数少ない友人だ。
「あんた達、よくも花奈に酷いことしてくれたわね……異世界だか何だか知らないけど、誰が許したってあたしが絶対許さないッ!」
彼女は豊かな胸を揺らして、近くに迫っていた鋼鉄食屍鬼の首に、鮮やかなハイキックを決めながら――私と火弾さんの方を、交互に見遣っている。どうやら、火弾さんとも知り合いになっていたらしい。
「きゃあっ!? ――このぉッ!」
しかし、空手3段の手練れとはいえ紗香は生身の人間。さすがに一方的とは行かず、反撃の爪に空手着を裂かれ――たわわに揺れる胸を覆う、赤いブラジャーを露わにされてしまった。
それでも彼女は一瞬で恥じらいを捨て、その感情を怒りに変える。怒号と共に放たれた回転蹴りが、悪鬼の下卑た笑みを叩き潰していた。
「……さぁ行くわよ、06! あんたの力も見せてやりなさいッ!」
『グオゴゴガァァッ!』
そんな紗香の背後では――彼女と一緒に「門」を潜って来た鈍色の鉄人が、その全身に仕込んだ銃器全てを一斉に放っている。
「FULLBULLET-CRUSHッ!」
『グゥオオォオォッ!』
紗香の音声入力に応じて――鉄人の胸に搭載されている回転式機関砲の猛火が、火弾さんに迫る上位種を吹っ飛ばしていた。赤金色の甲冑が、瞬く間に蜂の巣になって行く。
『ピポポー!?』
「さ、紗香! なんでお前まで……って言うか、なんでDEVAS-TAKERまで居るんだよ!?」
「いっぺんに訊かないで! ――あたしは刑事の娘だし、この子は元々警察用の機甲電人だったのよ? だったらあたしがマスターを引き継いで当然でしょ、男除けにもうってつけだしね!」
「……ムチャクチャにも程があるぜ。しかも、ABG-06だから『レム』ってか。おいロブ、いつの間にかデカいお仲間が出来ちまったなぁ」
『ピポー!』
その光景に火弾さんは閉口しているようだったが、彼のスーツにいるAIはむしろ大喜びで歓迎しているようだった。紗香に何があったのかは、まだよく分からないけど……彼女が力になってくれて、本当に心強い。
『ガゴォォオッ!』
「竜吾、ロブ! こいつはあたし達が引き受けるから、あんた達はあのデカブツをッ!」
「……全く。跳ねっ返りもここまで極まると、いっそ頼もしく見えちまうぜ。俺達も急ぐぞ、ロブ!」
『ピポパピーッ!』
そうして、紗香と06という機甲電人のコンビが、上位種の1体を圧倒する中で。叢鮫さんは、もう一つの「門」から現れた漆黒の巨漢と、仮面越しに睨み合っている。
2m以上の体躯を持つ、黒と紫紺の強化服を纏う巨漢は――白髪の老人であった。その素顔を露わにした彼は、見下したような表情で叢鮫さんを見据えている。
「……なぜ貴様が生きている、ロイドハイザー」
「私としては、君が健在であることの方が不思議でならんよ……ムラサメ大尉」




