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第15話 銀と獅子と巨竜と少女


 戦場となった大広場を駆け抜けるヒーロー達と、それを迎え撃つ魔人達の叫びは、絶えずこの帝国に轟いていた。逃げ惑う人々の中には、その死闘に見入ってしまう人もいる。


「ハァ、ハァッ……よ、よし。これより貴様らは、我らがテルスレイド殿下の配下として――」


 そんな人達にも避難を促しながら、ジークロルフさんは自分が連れて来たヒーロー達に、輝矢君の部下になるよう呼び掛けていた。

 ……のだが。誰一人として、彼の話に耳を傾ける人はいない。皆、戦いに集中しているのだから当然といえば当然なのだが。


「ハ、ハァ、ハァッ……ちょ、貴様ら、少しは私の言うことを……ボヘェィ!」


 すると。混戦の中から飛んで来た鋼鉄食屍鬼(スティールグール)の死骸が、ジークロルフさんの顔面にクリーンヒット。

 建物から転げ落ちた彼は広場に墜落し、ピクピクと震えている。なんとか助けに行きたいけど……すでに周りは魔物だらけになっている。


 一方、すでに広場では敵味方入り乱れての大混戦となっていた。鋼鉄食屍鬼達を蹴散らすヒーロー達は、その圧倒的な力と技で戦場に嵐を呼んでいる。


「数だけ揃えりゃ良いってもんじゃないぜ。ザコばかり集めたところで、このシルバーブレードの前じゃなぁッ!」


 白いマフラーをはためかせ、縦横無尽に跳ぶ銀色の仮面剣士。彼はシルバーブレードと呼ばれる艶やかな剣を振るい、次々と悪鬼達を斬り伏せている。

 その鮮やかな剣技は、彼自身が積み重ねて来た実戦経験の豊富さを物語っていた。が、鋼鉄食屍鬼達はその剣さえ凌げば勝てると踏んだのか――武装がない左側面を狙って接近して来る。


「読めてんだよ――ブレイブッ! アタァアックッ!」


 それは、悪手だった。素手ではどうにもならないとタカを括っていた悪鬼達は、淡い「光」を纏う彼の拳打によって吹っ飛ばされてしまう。

 その光景に後ずさる悪鬼達に、さらなる追撃を仕掛けるべく――仮面剣士は地を蹴り空中へ舞い上がると、今度は右脚に「光」を集中させた。


「シルバァアァアッ! ブレエェェイクッ!」


 眩い輝きを宿した、必殺の飛び蹴り。地を割らんとするその破壊力は、鋼鉄食屍鬼の群れを次々と跳ね飛ばして行く。

 やがて地表を削りながら停止した彼は、近くで鉄球(セイクロイザー)を振るっていた輝矢君とも対面していた。その激しい戦い振りに、さすがの「奇跡の聖騎士パラディン・マーベラス」もちょっと目を剥いている。


「君は……!?」

「……俺はシルバースレイヤー。あのジークロルフっておっさんからあんたのことは聞いてるぜ、皇子様! ここは任せて、さっさとあのデカブツに1発かましてやってくれ!」


 輝矢君の行手を塞ぐ鋼鉄食屍鬼の群れを斬り払い、彼は剣の切っ先を魔人(ヴァイガイオン)に向ける。詳しい会話の内容は遠すぎて分からないが、その仕草だけでも意図は伝わって来た。

 ここは任せろと、そう言っているのだ。しかし、そんな彼らを包囲する悪鬼達は数を増す一方であり――魔人のもとに向かおうとする輝矢君の背後へと、一気に飛び掛かってきた。


「輝矢く――!」

「野暮なことしてくれるなよ――シルバァァァアッ! スラッシャアァアァァッ!」


 だが、私が声を上げるよりも、遥かに(はや)く。銀色の仮面剣士が放つ「光」の剣閃が、瞬く間に悪鬼達を薙ぎ払ってしまう。

 そのあまりにも一瞬過ぎる出来事に、私は叫ぶことも忘れ、戦いに見入ってしまっていた。彼は刀身に纏わり付く血を振り払うと、残りの鋼鉄食屍鬼達に再び切っ先を向ける。


「……地獄で詫びろ」


 それは、「地獄行き」が前提の台詞であり。1匹たりとも逃さないという、苛烈な戦意の表れでもあった。


 一方その頃、シルバースレイヤーと名乗る剣士に背中を押され、戦場を突き進んでいた輝矢君は――鋼鉄食屍鬼達を相手に圧倒的な武力を見せ付ける、巨大なドラゴンと合流していた。


「言葉が通じるドラゴンなんて、初めて見たよ……! 力を貸してくれ、トムッ!」

『あぁ。……下がってな、一気に焼き払うッ!』


 輝矢君がトムと呼ぶ、ジャンボジェット級の巨大ドラゴン。彼はその大顎を開き――そこから放つ火炎放射で、鋼鉄食屍鬼達を容易く焼き払っていた。


「よし……道が拓けた!」

『魔人はこの先だ! 行け、テルヤッ!』

「あぁ、ありがとう!」


 その威力に何十という悪鬼が消し飛ばされ、彼らの眼前に広く黒焦げた「道」が顕れる。それを切り開いたドラゴン――トムさんに礼を言いつつ、輝矢君は鉄球を振るいながら前進して行った。


『ポピピッ!』

「その子、バルチャーと違って喋れないのね」

「バルチャーってのは知らねぇが、俺には分かるから良いんだよ」


 その輝矢君を狙う鋼鉄食屍鬼達を、火弾さんと白髪の少女が阻止している。メタリックブルーの装甲を纏い、指先から熱光線(レーザー)を放ちながら戦う火弾さんに、誰かを重ねているのか――少女はどことなく、懐かしむような笑みを浮かべていた。

 彼女は軽やかな身のこなしで跳びながら、火弾さんの背後に迫っていた鬼達を拳1発で沈めて行く。


「……嬢ちゃん、アシスト上手いな」

「似たような人と、嫌ってほど組んでるから」

「へぇ、1度お目に掛かってみたいもんだッ!」


 だが、鋼鉄食屍鬼は無数に沸いてくる上に、ヒーロー達だけでなく民間人まで狙っている。その攻撃を阻止するべく、火弾さんは両肘のジェットを噴かしながら他の場所へと急行して行った。


「バルチャーに比べれば随分とスリムなスーツなのに、大したパワーじゃない。……負けてらんないわ」


 その背中を見届けながら――白髪の少女も黒装束を翻し、次々と鬼の群れを叩き伏せて行く。


 一方、別の戦場では叢鮫さんと、あのライオンの頭を持つ半獣人戦士が共闘していた。文字通りの盾役(タンク)として、鋼鉄食屍鬼達の攻撃を受け続けていた叢鮫さんの眼前を、獅子の剛腕が横切って行く。

 その凄まじい剛力にモノを言わせる、鉄拳の嵐が――叢鮫さんを襲っていた鬼の群れを、纏めて吹き飛ばしていた。


「ヒーローだなんて名乗る気はねぇが……人間を守るってのが、俺の役目だ!」

「奇遇だな、俺もだ。……まだ周囲に大勢の民間人がいる、援護を頼めるか」

「任せな! ――フレイムバレットッ!」


 彼らは会ったばかりだというのに、すでに信頼を深めているのか――剛腕と盾を活かした連携で、次々と鋼鉄食屍鬼達を蹴散らしている。

 半獣人戦士の両腕から放たれる灼熱の炎弾が、迫り来る鬼達を鎧ごと焼き払っていた。


「……けどよ。そういうあんたこそボロボロだが、大丈夫なのか?」

「死に瀕することも、それでも戦うことも……今に始まった事ではない。お前も、そうなのだろう」

「へっ……まぁな!」


 お互いの「眼」に、思うところがあったのだろうか。彼らは視線を交わし合うと、戦意に溢れたオーラを全身に纏いながら――すれ違うように、それぞれの敵へと向かって行った。

 叢鮫さんは、魔人の方へ。半獣人戦士は、民間人を狙う鬼達の方へ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] カ・・・・ッコいいィィィ! みんなカッコいい!! リク君・・・しばらく見ない内にずいぶんたくましくなって・・・なんか嬉しい( ´∀`) 例え初対面でも、同じ『ヒーロー』ならばすぐに仲間…
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