第14話 グリット・スクワッド
「ブレイカーズの次は異世界……ね。もう何が来たって驚く気がしねぇぜ。もちろん、負ける気もな」
一振りの剣を腰に携え、戦場に顕現した銀色の戦士。白銀の仮面と鎧で全てを覆い隠し、純白のマフラーを靡かせる彼は――その全身から迸る「気迫」で、凄まじい存在感を放っている。
「まさか、次元まで超える転移魔法が実在するなんてね……。スパイクが聞いたら、なんて言うかしら」
漆黒の装束を纏い、純白の髪を靡かせる1人の少女。その可憐な外見に反して、彼女の佇まいは戦乙女のように凛々しい。
「……こいつは驚いたぜ、『鍵』の力もなしに空間転移をやってのけるとはな。聞いてた通り、如何にもな連中が雁首揃えてやがる」
ライオンの獣頭に、筋骨逞しい裸の上半身。下半身に真紅のパンタロンとシューズを身につけた、異形のヒーロー。その獰猛な眼差しが、魔人達を真っ直ぐに射抜いている。
「アイスラーさんから事情は聞かせて貰った。……宇宙刑事として、君達を放っておくことはできない」
黄金色の装甲強化服で全身を固める、凛とした佇まいの青年。その手には、日本刀を彷彿させる細身の剣が握り締められていた。
「……ここ、嫌な感じがたくさん……!」
褐色の肌と黄金色の髪――そして、2mを優に超える巨躯を持つ、大柄な女性。堅牢な筋肉の鎧で全身を固めている彼女は、面積の少ない毛皮を身に付けているだけなのだが――その姿は色気というよりはむしろ、筋肉が際立つような力強さを感じさせる。
「異世界召喚に鬼の群れ……か、いい『取材』になりそうだねぇ。雷光鬼・蔵王丸――推参」
斜に構えながら、印を組んだ右手を指すように伸ばして、名乗りを上げる――異形の「鬼」。深い緑色の身体と1本角を持つ彼は、革の胸当てや肩当てを身に付けていた。
「魔人に食屍鬼……なるほどなぁ、確かに『魔砲少女』にはうってつけの領分ってわけだ」
王道な「魔法少女」を彷彿させる衣装を着込んだ、1人の美少女。戦場の風に靡く桃色の長髪や、その可憐な容貌――とは裏腹に、彼女の眼には歴戦の色が滲んでいる。
「……物見遊山、っていう空気じゃあないな。けど、退屈はしなさそうだ」
栗色の髪としなやかな手足を持つ、青い甚兵衛を着た少年。左耳にインカムを付けた彼の肩に乗っている、おかっぱ頭の女の子を模した人形達は――彼の元を離れると、ひとりでに動き始めていた。
「事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったもんだ。……この俺が、異世界召喚とはね」
「悪魔」と「騎士」を想起させる、甲冑状の強化服を纏った青年。黒を基調とする彼のスーツの節々には、赤いラインが窺える。
「――日本警視庁所属、特攻装警第7号機『グラウザー』。現時刻を持って2次武装装甲システムの装着に成功、同時刻より2次武装装甲の運用による戦闘行動を開始する」
白銀と青をベース色とする、鋭角的な外骨格を身に付けた青年。彼の両肩にそびえる大型のショルダープロテクターアーマーには、金色の桜型エンブレムが煌めいていた。
「ジークロルフさんから、お話は聞きました。……僕も、全力を尽くします!」
金色の装甲で構成された鎧を纏う、12歳程の少年。彼の頭部にはバイザー付きのヘルメットが装着されており、その背中には天使のような純白の翼が広がっていた。
『随分と狭い戦場だな。……また街が壊れる前に、とっととカタを付けるとするか』
ジャンボジェット機に匹敵する程の巨体を誇る、異世界のドラゴン。圧倒的な体躯を持つ彼は人語を発しながら、鋼鉄食屍鬼達を悠然と見下ろしている。
「どんな世界であろうと、私は今に命を賭けるだけだ。――バイカー・ファイト!」
飛蝗を模した仮面を被り、緑のスーツを身に纏う青年。その赤い拳を構えながら、彼は勇ましく見栄を切っていた。
「異世界だろうがどこだろうが、今日よりマシな明日にしてみせるさ。……それが俺達、『ストライク・ブラック』の兵士だからな」
21世紀のVRゴーグルを彷彿させる装備と、黒尽くめの戦闘服で全身を覆い隠した謎の兵士。彼は拡張マガジンを装着したハンドガンを構え、鋼鉄食屍鬼達に狙いを定めている。
「召喚されて早々、復活した魔人に魔物の群れ……か。まさに『初っ端からクライマックス』って感じだね」
青いマスクとスーツを纏う、ヒーロー然とした風貌の小柄な少年。その素顔を隠している緑のバイザーからは、金色の髪が僅かに覗いていた。
「おおっ、これはまた賑やかな戦況ですねぇ! 結衣様、これは魔法少女としてビッグになるチャンスですよっ!」
「ガーネット、うるさい! ていうか、そんなこと言ってる場合じゃないでしょっ!」
桜色のグラデーションを伴う白い髪をツーサイドアップに纏め、深い緑色を湛えた瞳を持つ幼い少女。紅いスカートを身に付けた彼女の腿には、紫のガーターベルトが備わっていた。
そのか細い手に握られているステッキは喋れるらしく、何やらはしゃぎ立てている。
「これはこれは……救い甲斐のある魂の群れですね。『羅刹寺』の僧として、務めを果たすとしましょうか」
狂気を宿す眼差しに、つるりとしたスキンヘッドを持つ猫背の男性。異様に長い両腕と湾曲した爪を持つ彼は、薄い水色の着物を纏い、その首に赤黒い数珠を掛けている。
「あの人達は……」
私や輝矢君達がいた、2121年の地球とも――この世界とも違う「異世界」。そこにある無数の「可能性」から、彼らはやって来た。
――魔人を倒すために、輝矢君のために。ジークロルフさんが、連れて来てくれたのだ。
「ジークロルフ……!」
「殿下……後のことは」
「……わかってる。任せてくれ!」
その想いを受け取り、輝矢君は鉄球を振り上げ己を奮い立たせている。そんな彼の背を目にして、この世界に来たばかりのヒーロー達は――示し合わせたかのように、同時に身構えていた。
すでに事情は聞き及んでいるらしい。いきなり戦場に放り込まれたようなものなのに――彼らは全員、誰一人として揺らいではいなかった。
「……来てくれて、ありがとう。力を貸してくれ、皆ッ!」
その勇姿に希望を見出し、輝矢君は感謝の声を上げる。だが、彼らの眼差しは敵方にのみ向けられていた。
礼なら奴らを倒してからだ、と言わんばかりに。
「異世界人が何人群がろうと、魔人に敵うはずがない! ヴァイガイオン、そしてその眷属共よ! ルクファード・セイクロストが命じる――奴らを駆逐せよッ!」
対するは、ルクファード陛下が操る魔人と――その傘下に付く鋼鉄食屍鬼。彼らの軍勢と、輝矢君を筆頭とする闘志の群れが、暫し睨み合う。
「GRIT-SQUAD――ASSAULTッ!」
そして――セイクロスト帝国に伝わる「開戦」の合図を、輝矢君が叫んだ時。
雄叫びと共に、総力戦の火蓋が切って落とされた。怒号、絶叫、轟音。その全てが天を衝き、この黄昏の空の下に――激突する。




