第0話 無力な姫君と3人の勇者【画像あり】
お姫様になりたい。王子様と結ばれたい。
そんなありふれた夢はきっと、誰もが諦め、忘れていくものなのだと思う。
だが、私に関しては違っていた。現在進行形で実現しつつある、「事実」なのである。
それは本来、手放しで喜ぶべきことなのだろう。しかしこの期に及んで、私は未だにそれを受け入れ切れずにいた。
どうして、私なんかが。私なんかを護るために、彼らが。
「花奈、俺の後ろに! 大丈夫、絶対に俺達が守るからッ!」
そんな私の逡巡を、よそに。
翡翠の鎧に身を固める銀髪の騎士は、鉄球を振るい私を亡き者にせんと迫る悪鬼の群れを、瞬く間に薙ぎ払う。
「案ずるな。俺達の命に換えても、お前には指一本触れさせん」
赤茶色の強化服を纏うサイボーグの拳士は、その鋼の腕と脚で並み居る悪鬼達を打ち払い、彼らを私に近づけさせまいとしている。
「ま、俺は死ぬ気なんてさらさらねぇけどな。嬢ちゃんはそこで見てな、全員漏れなく生き残ってやるからよ!」
そして。青い外骨格で全身を覆う鋼鉄の戦士は、変形した右腕から放つ熱線の火力で、襲い来る敵を根刮ぎ焼き払っていた。
生まれも育ちも能力も、何もかもが違い過ぎる3人の勇者達は。ただひとつ共有している目的のためだけに、この異世界で命を賭け、戦い続けている。
傾国の魔女と謗られ、葬られようとしていた私を、護るために。そんな私のために。その身を呈して傷だらけになりながら、拳を、得物を、振るっているのだ。
「……っ」
それほどまでに命を削り、迫り来る魔物の群勢に抗い続けている彼らに対して。無力な私はただ、か細い指を絡めて祈ることしかできない。
もし私に一緒に戦えるような力があったとしても、あんな勇ましい貌なんて出来なかっただろう。ましてや、ごく普通の人間でしかない私では、何の役にも立てない。
だからこそ。何の取り柄もない、ただの穂波花奈だからこそ、せめて。
泣き喚いてはいけない。恐れてはいけない。背を向けて、逃げ出してはいけない。
例え悪鬼達を率いる巨大な「魔人」が、その紅い眼で私を射抜こうとも。その殺気を真っ向から浴びせられ、全身が竦み上がろうとも。
虚勢を張り、眼だけは気丈なままで。彼らの勝利を信じ、ただ静かに見守り続けるのだ。
必ず彼らは勝つ。勝って私を救ってくれる。それを私が信じなければ、誰が彼らを信じるというのか。
「……うん。信じるよ、輝矢君。私、信じてるから」
「俺達が守る」という、王子様の言葉。その宣言に命を預け、戦いの推移を見つめる私の前では――彼らの苛烈な一撃が火を噴き、悪鬼達を纏めて吹き飛ばしていた。
そう。彼らなら、彼なら。
何があっても絶対、最後には勝ってくれる。だから私も、その瞬間を最後まで見届けるんだ。
絡めた指を震わせながら、なけなしの勇気を振り絞り、そんな決意を辛うじて固めた瞬間。
「行くぞ皆ッ! GRIT-SQUAD――ASSAULTッ!」
彼らはついに、「魔人」との最後の対決を果たそうとしていた――。