第3話 カウンター
「私はケイにでてほしいな」
白い目が俺に集まる。
エキシビションマッチは本来、組の中で最強が行うべき事。勿論、これに参加すれば知名度も上がり貧乏生活の脱出も早くなる。それは嬉しいが、俺は運動会初参加。これに出るなどあってはならない筈。
でも、白い目は彼の参戦によって敗北した。
「僕も彼に出てほしいな」
つまり、ガルシアだ。騎士ランク18の彼が薦めると同時に俺のエキシビションマッチ代表が決定した。
その後、帰りの途中でエブリンが受けたクエストの手伝い兼、訓練として、アクセル王国国外、ずっと南に進んだ先の大陸の端。つまり浜辺に来ている。ここで巨大タコを討伐するのが今回のクエストだ。そして、もうすでにそれに対面している。
「絶火斬!」「超加速!」
俺の絶火斬は蒼い炎を刃とし触手を狩りに行く。エブリンは超加速で身体能力を向上させ、ニ本の刃で接近攻撃を行う。
今は優勢。だが、ゴブリンの時もある。
いかにエブリンを援助して、なおかつタコの攻撃をいかに回避するかが重要。幸い変色体ではなおようだから勝ち目はある筈だ。
俺らの攻撃が開始してから間もなくタコの反撃が開始した。だが、今回のエブリンは加速ではなく超加速。加速より速くなる。更に、俺も本気中の本気。触手が上からくれば左右に回避。左からくれば絶火斬で切り落としたいが一撃では無理なので上に回避。右から来ても同じ。前から来たなら左右に回避。そう、残念ながらエブリンの援助は出来ていない。
タコの攻撃が三本の触手を用いて降り注ぐ。しかも、俺とエブリンに同時に。
エブリンは超加速をかけ直し、切る、切る、切る。だが、触手は切れない。厳密には少し切れているが攻撃の速度は緩まない。だが、攻撃の速度ではエブリンの方が上、まだ優勢だ。
一方、俺は劣勢だ。ファイヤースラッシュと絶火斬の猛撃は確実に触手を捉えているのに、さらには確実に命中しているのにまるで堪えないように見える。
まだ余力を残している。直感で思った。もしこれが事実だとするとゴブリンの時の二の舞を演じる事になってしまう。
少しずつ俺の身体は不安に飲まれてゆく。何故こうも強い敵しか依頼が来ないのか。不信感と不安感が俺の剣を止めた。
そんな一瞬だった。触手の一本が俺の腹を叩いた。
「うっ…!!」
五、六メートル吹き飛ばされる。
痛い。物凄く痛い。鋭利な物で突かれた時とは違った痛みだが、それに勝るとも劣らない。この痛みと不安はごちゃ混ぜになり、何の原動力にもならない負の感情が更に動きを止める。
止まれば止まるほどタコは俺の身体を地面に叩きつける。
悪循環だ。
そんな俺の様子を不安に思ったのかエブリンは一瞬、本当に一瞬攻撃の手を緩めた。また俺と同じ状況。
「ギュラーー!!」
そんな奇声上げ残ったニ本の触手をエブリンに向ける。そのうえ、その触手は白く光り輝いている。魔力だ。さっきのは技名だったのかもしれない。
ニ本をエブリンに向ける。これが意味するのは、俺は奴にとって一段落したという事だろう。
触手はエブリンに向かって進行していく。
それは駄目だ。恐怖と罪悪感が、原動力のある負の感情が疼き出す。
俺は剣を握り直してエブリンの元へ走り出す。俺の方を向いていた三本の触手はエブリンの方を向いていた。
今までの傾向から絶火斬ではニ本の触手を同時に潰すのは無理だが、希望が無いこともない。それは奴の顔に絶火斬を当てる事。これで多少怯んだところを俺とエブリンが攻撃する。
俺はエブリンの前に立つ。
「絶火斬」
そう呟く。
狙うはただ一つ。奴の顔。
剣を振った。だが、蒼い炎は引き寄せられるように触手の片方に命中した。一本は大きく失速し、その力を失った。もう一本はまだこちらに向かっている。俺の肩を狙っている。もう回避する時間はない。
どうすれば良いのか。思考は完全にそれに埋め尽くされた。
その直後、見えた。世界が止まって脳が何かを認識した。
ここはどこか。
真っ暗だ。何もないし、何も見えない。
「今から、魔力の玉を打つ。それを跳ね返してみたまえ」
濁った声。凄く低い。男の声だ。
男の声が聞こえた直後、目の前が青く光り丸い玉が飛んでくる。
「カウンター」
俺と思われる人がそう言うと、青い玉は跳ね返りずっと俺から離れていく。
そして、世界は動き始める。
危機的状況は変わった。あの映像が真実なら俺は物を跳ね返す力がある。
「カウンター」
俺は剣を振った。
世界が歪む感触。奴の魔力はその力をただ一点に集約し、全エネルギーは崩壊を始める。崩壊は力を生み出し、力はまた世界の法則を崩さず、空間の流れに逆らわない。
そして、この空間を制す流れは俺の魔力だ。
すべての魔力が集約された力はただ奴に近づいていく。
顔面に直撃した。
爆炎、爆風、爆音。ありとあらゆる爆発が空間を覆い尽くす。
奴の顔は歪んでいた。空間が歪んでいる様に、時間が歪んでいる様に、次元が歪んでいる様に、神々が世界を書き換えている様に、奴の顔は歪んでいた。歪みから世界が溶け出した溶液が流れ出てくる。赤い世界の溶液。
でも戦いは終わらない。
「エブリン!まだ戦えるか」
「うん!」
顔を切っても奴の触手は上下左右に素早く元気に動き回っている。
エブリンは傷の付いた顔に走っていく。ならば、俺は触手狙い。
「超加速」「合技 ファイヤースラッシュ」
ニ人の声が響く。
今回の触手の狙いは俺だけ。
俺は六本の触手が俺の眼前に迫った瞬間を打つ。それぞれのタイミングで前方から、横からありとあらゆる方向から触手は飛んでくる。ジャンプで回避。剣で打ち返す。それを繰り返すうち遂にその時は来た。
六つの方向から触手はくる。少しずつ眼前に迫り来る。まだだ。更に近づく。まだだ。
六本に同時攻撃するわけだ。圧倒的な至近距離でなくてはならない。
来た…!ただ一瞬、剣を振る時間さえ無くなってしまいそうな距離。
「絶火斬!」
爆発音と共に大量の煙が周辺を覆う。
「終わったか」
数秒たち煙もほぼ無い状況になり安堵の声を漏らす。
そこには焦げた触手があり、見上げれば動かない血みどろの顔があった。
「ケイ!大丈夫だったー?」
エブリンが大声で質問する。
「ああ!大丈夫だ」
俺もまた大声で返事をする。
不思議だ。
今、俺にある魔力は七大魔力の火属性最強、絶火とカウンターという事になる。
そして、使える技は絶火の魔力を消費して使うギャザーファイヤー、ファイヤーソード、再炎上、絶火斬、そして合技のファイヤースラッシュ。更に、カウンターの魔力を消費して使うカウンター。
だが、それはおかしい。本来人類は、いや全生物は魔力を一種類しか持つ事が出来ない。
なのに、俺はニつ持っている。