封印されて、千年も世界が経ったが、何をしよう
普段のように過ごし、暮らす。
『日常』というものはどうやって決まる?
人によって日常は違うし、人によって普段というのも違う。
じゃあ、何が『日常』?
俺にとっての日常は――
「――ただ、ここでごろごろしてること、か」
あぁ、めんどくせー……
封印されて何百年、この真っ黒な空間で何が出来るってんだ?
いつもと変わらず封印され続けるしかねぇし。
――そう、思ってたんだがな。
*
「あぁん? どーなってんだこれ?」
「知るか」
目が覚めたら、見知らぬ場所……つーかこの体どうなってんだ?
……封印される前、か? わかんねぇな、あの場所から出られるなんて思ってなかったしな。
んでもって、この獣――あぁ、いや、獣人族か?
こいつは……何の、獣人族だ? 狼、か?
つーか、これ……腕を持ち上げて、手を開いたり閉じたりしてみる。
「……あん?」
「……お腹減ってるだろ、食べるか?」
隣にあったテーブルに料理が置かれて、びっくりして見れば、そいつがそんなことを言いやがる。
とりあえず頷いて食べることにしたが、まぁ、味が良くても全然足りないけど。
「……それで?」
「あぁん?」
「……お前はどうするんだ」
「どーするっつーと?」
「この後の事だ、お前人族じゃねぇだろ、魔族あたりか?」
人族、か……俺は実際魔族だ。
そもそも俺が居た時の種族は『人族、獣人族、魔族、精霊族』だ。
それぞれ、人族が普通の人間。
獣人族が獣の耳と尻尾の生えた人族。
魔族と精霊族は人それぞれ、といった所か。
魔族の代表的なのはやはり竜人族や悪魔族あたりか。
逆に精霊族は森人族、小人族、天使族とかか?
そもそもこうやって種族がいっぱいいる理由はお伽話だと色々な解釈があるんだがな。
精霊と天使族が精霊族を作り、魔王種と悪魔族が魔族を作った。
……というのが教会の教えだが、魔王種自体は人それぞれだし、魔族が悪人ってのも人それぞれだろって思うしな。
「……ん?」
「あ?」
おかしいな、獣人族と人族、そして精霊族は魔族を嫌っていたはずだが……
「おーい?」
「……あんたら獣人族は魔族自体を嫌っていたはずだが……」
「あん? 何百年前だよ、それ」
「流石に知らん」
数百年は経ってるが、あの世界での何年が、この世界で何十年も経ってる可能性もあるしな……にしてもおかしくね? なんで今更あんだけ嫌ってたのにさ……はぁ……
「確か……最低でも六百年ぐらい前か? そんときから変わったんだよ」
「……マジかよ封印され損じゃねーか……」
「まぁ、気にするなよ」
ぽんぽんと何故か俺の頭を撫でる。
とりあえずなんで頭を撫でるんだと睨んでおくが、楽しそうに尻尾が揺れているのが見えて少しイラッとした、だから――
「――俺のご飯になりたいのかよ?」
「っ!?」
ピンッと立った尻尾、真っ赤な顔。
耳元で囁いただけでこんなに意識しちゃう辺りはやっぱり獣人族だな?
「お、おま、お前っ……!」
「あん? 分かってんだろ、獣人族が番から逃げられると思ってんのか?」
「な、なんで分かってっ……っ!」
そもそも獣人族は番以外は基本相手を触らない。
「ほら、俺に委ねろよ?」
「っ、ちょっ」
首筋を噛む。
甘ったるくて凄く良い。
「んっ、ぁ……」
「…………色っぽい」
首についてる血を舐め取れば色っぽい声が聞こえて、つい言ってしまった。
つーかR指定入りそうな声出すなよ。
「っー! お前が噛むからだろっ!」
「顔真っ赤だな、つーか美味いな」
ぺろりと唇についた血を舐め取るとそいつは更に顔を真っ赤にして顔を背ける。
やべぇ、可愛いんだけど?
「……クソエロいんだが……」
「エロいのはお前の声だろ……」
げっそりしたそいつが面白くてくつくつと笑う。
――あぁ、そういえば名前、聞いてなかったな、まぁ良いか。
*
「お前が無駄に俺をからかうからもうすぐ夜じゃねぇか……」
「まぁまぁ、良いじゃないか」
「ったく……吸血鬼族なら食事はいらねぇのかよ?」
「まぁ、確かに血さえあれば吸血鬼族は生きられるがな……」
美味いものを食べる、それの何が悪いんだとじとーっと見る。
全く、美味しいものは美味しい、不味いものは不味い、だろう?
はぁ、と溜め息をついた後どうせなら食べたほうが良い。
具体的には魔力とかそういうのに回されるし、血の代わりとしても回せるんだよな。
……うーん、でもどうせなら……
「お前と食べたいから食べる、じゃ駄目なのか?」
「……恥ずかしいこと言ってないでさっさと食べるぞ」
若干顔が赤いなぁ、やべぇやっぱこいつ可愛い。
さて、ご飯食べて寝て、あぁ、名前、聞いてねぇな。
でも……そうだなぁ……まぁ、良いか。
*
「ん……」
「おーい、起きろ吸血鬼族!」
んー眠い……つーか吸血鬼族を朝っぱらから起こすなよ……クソ眠いし、まだ寝たいんだけど……
「だーかーらー起きろっ! 吸血鬼族っ!」
「んー……?」
……美味そうな、首筋。
美味しそうな、匂い。
だから――
「――からっ、起き、っ!? ん、ぁ……ゃ……ゃ、めろっ!」
――抱き寄せて、ただただ飲む。
そして口を離す、ぺろりと首筋を舐め取った後。
そいつを見て、気づいた。
「ん……? あぁ、悪い、寝ぼけてた」
「っー!! 寝ぼけてた、じゃねぇっ! このアホがっ!」
「何百年と封印されてたから、感覚がまだ戻らないんだよ、仕方ないだろ」
しばらく言い合った後、朝食を食べた後、そういえばとちょっと思った。
このあたりについて一切知らないな。
「なぁ、この辺りっつーか、この国どうなってんだ?」
「ここか、ここは――」
――ここは人族の国『金色』。
他にある国は獣人族の国『赤色』。
そして森人族の国『緑色』、小人族の国『灰色』。
他の精霊族の為の精霊族の国『白色』
で逆に魔王種が魔王をする魔族の国『黒色』
以上六つの国がこの世界の国らしい。
それぞれ王族――王の血を引くものには髪にその証が表れる。
金色の髪を持つ人族、赤色の髪を持つ獣人族。
緑色の髪を持つ森人族、灰色の髪を持つ小人族。
白色の髪を持つ精霊、黒色の髪を持つ魔王種。
とはいえ、森人族は王の血が回りすぎてほぼ全員が緑色の髪と金色の瞳を持っているし、ブランとノワールでは魔王種と精霊、子孫を残せぬ種族が王をしているし。
精霊はまだしも、魔王種は子孫を残せないわけじゃないが。
森人族や小人族、つまりは精霊族は子供ができ難い、そして当然魔族もでき難い。
しかもその中でも魔王種は殆ど生まれない。
生まれるとしても数千年ぐらいに一度、といった所か?
そもそも母体――つまり母親側が耐えられるかと言われれば微妙。
で、俺が気になっていた今何年経っているのか、それは大体千年といった所だろう。
「……はーマジかよ」
「んーまぁ大丈夫だろ」
「んで? 今は何処も戦争はしてねぇってことか」
「まぁ、そうだな……あ? そういえば名前を聞いてないな」
……あ、つい忘れてた。
つーか一日と半日――もう直ぐ昼頃だし――も名前すら知らない相手と過ごしてるって中々凄いな……
「んじゃ、俺の名前はヴィオレ、宜しくな獣人族?」
「それ、やめろ、吸血鬼族――いや、ヴィオレ、俺はヴェルミリオン、ヴェルで良い」
「ふーん? なら、宜しくなヴェル」
――封印されて、千年も世界が経ったが、何をしよう