お互いを知る為には話をしましょう
「え、と、……何から話せばいいのやら……」
「大丈夫、ゆっくりでいい。君の事を教えてくれ」
どうしよう……。
レアさんがそう言ってくれたのに、緊張しすぎて……。
伝えやなアカン事は山程あるはずやのに、上手く説明出来ずに頭の中でぐるぐると回っている。
私、一度死んでます。そう言ったところで誰がそんな事を信じてくれる?
親しくもない、まして今日初めて会った人達やのに……。
「あの、……っ、」
たくさんの眼が私に向けられている。
心臓がばくばく音を鳴らして、呼吸が浅くなる。
視界が滲んできた……。
「(泣くな!燐っ!!)」
泣きたくなんかないし、泣いた所で何も変わらんって事は私が一番知ってる。
それに……他人の前で泣いてしまったら、自分は弱いって事を認める様で嫌だ。
なんとか泣くのを我慢していれば、急にアランが元気良く話だした。
「んー、いきなり教えてくれ!って言われても、何を?って感じだよね〰️。僕ならそう思うし、なにより自分にとってマズイ内容は隠してしまえる。だから、僕達からお姉さんに聞きたい事を質問しちゃおーよ♪その方がお互いスムーズに話が進むんじゃない?ね、レア?」
にっこりと笑顔でレアに提案する。
一瞬、間が空くも一つ頷いたレア。
燐はポカンと口を開けて呆けていた。
「…そうだな。気がきかなくて悪かった。こちらから質問するから答えてくれるか?勿論、言いたくない事は黙秘してくれて構わない」
「はっ、はい!」
……どういうつもりか知らないけど、アランとレアが助け舟をだしてくれた。
アランは私が困ってたから……、だからわざと自分から提案するという形で。
レアもその提案に乗り、更に言いたくない事は言わなくてもいいと言ってくれた……。
優しい人達……と思ってもいいんかな…?
なんで、なんで見ず知らずの見るからに怪しげな他人にそこまで出来るんやろう?
無理矢理聞き出そうとする事も出来るはずやのに。
そうはせずに私の気持ちを尊重してくれている。
ジィッ、と正面にいるレアの眼を見つめる。
すると、眼を逸らさずに同じように見つめ返すレアを見て、どうしても悪い人には見えない。アランにも同じ様に。
自分に起こった事を話すのは勇気がいる。
だけど、この人達を少しだけ信じたいと思えた。
だから。
「……答えられる事は全て答えます。何でも聞いて下さい」
私は私なりに、誠意を返す!
「ありがとう。さっそくだけど質問していこうか。お前達も、気になる事があれば質問しろ」
レアが花頭を見渡してそう言うと、次々と質問が始まった。
「じゃあ、最初に僕から!お姉さんの名前、年齢、出身地を教えて?」
「神崎燐、年は28です。出身は日本の東京郊外です」
「「「「「ニホンのトーキョーコーガイ……」」」」」
やっぱりわからんよなぁ……。
一斉に首を傾げる花頭達。
「はい、そうです」
「家族構成は?」
頬杖をつきながらあまり興味無さそうに言うガイア。
「父、母、弟の四人家族です」
「君の口調は少し変わっているが、君のところでは皆そうなのか?」
レアが不思議そうに質問する。
「確かに。ここではそういう話し方はしないから目立つな」
エルドも続けた。
周りにいる花頭や花従達も気になっていたのか、どうなんだと言わんばかりに視線を寄越した。
「あー、皆ではないですね。日本の西側がこういう話し方をするんです」
「という事は燐さんも、西側の人間って事でしょうか?」
フランがあってますか?と質問する。
「そうですね。生まれが西です」
「西側という事は東や北、南もあるのか?」
「日本は島国なので……。あ、西側とは言いましたけど、西側全部がこの口調って訳ではなくて。色々と他にもあります。あ、さっき聞かれた出身で東京と言いましたけど、東京は東の土地で話し方は皆さんみたいな話し方のところです」
「西で生まれ、東で育ったという事か」
興味があるのか、エルドが感心したように頷いてる。
「へー…。沢山あるみたいですが、会話としてきちんと成立しているのですか?」
「それはもちろん!!」
「僕はお姉さんの話し方好きだな~♪何か、親しみやすいんだよね~」
「ありがとうございます!」
「ほお……あんた、そんな表情もできるんだな」
「え?」
今まで話し方について特に気にした事はなかったけど、異世界の人間であるアランにそう言われて凄く嬉しくなった。
だけどガイアに言われたそんな表情が気になり、顔に手を当ててみたが、自分ではわからなかった。
「(そんなヒドイ表情してたかな……?)」
さすがに失礼な表情ではないだろうと高をくくる燐。
「さて、本題に入ろう。君はここに来るまでに森にいた事は覚えているか?」
さっきまでの爽やかな笑顔から一転し、真剣な表情で本題を切り出したレア。
ついに来た!!
燐も真剣に答える。
「はい。覚えています」
「ロイからの報告は【突然、森に女が現れた】というものだった。どうやって森にいた?」
「わかりません……」
森にいた事は覚えているが、どうやって来たかわからない。
ざわざわと騒ぎ始めた花従達。
「(当然、不審に思うよなあ……)」
誰しもが当然知ってる事を、“わからない”と言い切るんやから。
周りのざわつきに構わず、レアは燐に質問を続ける。
「森にいる前の事は覚えているのか?」
「はい」
「森にいる前は、“どこ”で“なに”をしていた?」
「わ、たしは……、……」
言葉が詰まる。
言わなければいけないのは自分でもわかっているが、言ってしまうと“現実”だと認めてしまう事になる。
“現実”だと口では言いつつも、今だに頭のどこかで【これはきっと夢の続きなんや】って思ってる。
腹を括れなんて言っても、実際は括れてない。
ただただ怖いから、都合が良いように逃げ回ってるだけ。
「燐さん」
フランに名前を呼ばれ咄嗟に俯いていた顔を上げると。
「言いたくない事は言わなくて大丈夫ですよ」
穏やかに微笑みながら、そう言ってくれた。
「あ、っ……、……私、」
不審やと思ってるはずやのに年下の男の子に気を使われて、年上の自分は一体何をしているのか?
情けない……!!
「(さっき誠意を返すって決めたばっかりやのに!)」
胸の辺りをギュッと握り、深呼吸をして自分を落ち着ける。
……もう大丈夫。
「……森にいる前、私は大規模な事故にあっていました。事故にあって……」
「事故にあって?」
「……私は死にました」
「?!?!」
もう……、後戻りはできへん。