別れは悲しいけれど、新しい出逢いがある
担がれたまま散々暴れた燐だったが、変わらずに歩き続ける男。
そうこうしてる間に燐の方が疲れてしまい、今は大人しく肩に担がれたままになっている。
嫌がらせにこの長い銀髪に枝毛がないか探すが、当然見つからず……。
ついでにお腹の圧迫感も変わらない。
「(それにしても……、薔薇がこんな所まであるとは……)」
顔を上げてキョロキョロと見渡すと、燐がいた部屋だけではなく、長く続く廊下のあちこちにも薔薇があしらわれている。
天井や壁、床や窓といった全てに薔薇を見つける事ができた。
「(薔薇が好きにも程があるやろ。どんだけ薔薇推しやねん!……ただ、薔薇の配置のセンスが抜群にいい……。こんな状況じゃなかったら、喜んで探索するのに。あ、外の薔薇も綺麗やわ。誰かが手入れしてるんやろか?)」
窓から見える景色も一面、色とりどりに咲き誇る薔薇。
薔薇の花に癒されつつ、気になるのは黙々と歩き続けるこの男の事。
先程までの空気が嘘の様に、お互いに口を開こうとしない。
ただただ長い廊下が続いている。
しかし。
「……ちょっと、お兄さん。いい加減、何処に向かってるか教えてくれません?ついでに降ろしてもらえたら有難いんですけど」
そんな空気に耐えれなくなり、先に口を開いたのは燐。
「今からお前には、【花頭】に会ってもらう。そこでお前の処遇が決まる」
意外にもすんなり返事が返ってきた。
「え、降ろしてって部分は無視?まあええけど。……処遇、か。お兄さん、【花頭】ってなんですか?」
つい、癖で突っ込みをいれるが、当然無視される。
「【花頭】とはこの国をまとめ、導き、統べる権力を持つ特別な者達の総称だ。花頭を中心に、この国の全てが廻る」
「者達って事は一人じゃなく、複数人おるって事ですか……」
真剣に耳を傾け、頭に少しでも多くの情報を叩き込む。
「民の声を聞き、この国が未来永劫栄え続ける為に協力し合い、最善の答えを導き出し、先導するのが【花頭】だ」
「(【花頭】ってのが、私でいうところの総理大臣とか王様のイメージやけど……たぶん合ってるはず……)花頭って、大変な役目なんですね」
うんうんと頷く燐。
「確かに花頭は大変な役目だ。だが、同時に誇りでもある。誰でもできる事ではない。それに、いくら花頭が優秀であっても、1人で出来る事は限られている……。その為に【花従】がいる」
「かじゅう?(ジューシーな単語が出てきた……涎が出そう)」
「おい。果汁ではないからな」
空気を読み、口に出さなかったがニュアンスで伝わってしまったようだ。
「果汁ではなく、【花従】だ。花頭1人につき、1人の専属の従者がいる。それが花従。花従は花頭の手となり足となり動く」
「へー……(ようは、何でも係って感じやんな?)」
「あとの話は花頭達から聞け。着いたぞ」
「え、」
漸くお腹の圧迫感から解放されたと喜んだのもつかの間。
目の前の大きな扉に圧倒される。
「(な、な、な、なッッ?!)」
扉の前には兵士のような人物が二人立っている。
男はその内の1人に何か話ているが、そんな事は気にならない。
ここに来るまでに見た何よりも豪華な薔薇の細工。
素人が一見してもその凄さは解る。
思わず口がポカーンと開いたまま、目をパチパチとする燐。
「おい、そのマヌケな顔はやめろ。中に入るぞ」
「ちょっと待って!!心の準備がまだ、「失礼します。件の女をお連れしました」おいいいいい―――!!」
気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返していたのに、さっさと声をかけた男。
「入れ」
ガチャンッ。
許可の言葉の後に鍵の音がした。
二人の兵士が扉を開く。
「(ど、どないしよ?!頭は下げた方がいいんかな……?!無礼者ッッ!!って、いきなりならん?!隣の男は?)」
どうすればいいか解らず、慌てて隣に立っている男を見ると。
「(えええぇぇぇ――――?!そんな畏まった方がいいん?!え、マネした方がいいんかな?!)」
片膝を床につけ、頭を下げて扉が完全に開くまで待っている。
燐がワタワタとしている間にも扉は開いた。
すると。
「遅かったな。待ちくたびれたぞ!」
「うるさい。声がでかい」
「そいつが件の女か……」
「早くこっちにおいでよ♪」
「……」
扉の向こうにいたのはカラフルで顔面偏差値高過ぎる程の5人の男。
更に、その後ろに付き従う様に立っている4人の男。
さっきと同じように口がポカーンと開いたままの燐。
「(ちょっとちょっと…………なにこれどういう事?この人達が【花頭】?!た、確かに複数いるとは聞いてたけど、こんなにおるん?!)」
膝をついていた男はスッと立ち上がり、挙動不審な燐の腕を掴み中に向かって歩き出した。
「おい、行くぞ」
「え、あっ、はい!」
腕を引かれ、部屋の中に向かって歩き出す。
天井が高く、大きなステンドグラスがあり、そこにもまた色とりどりの薔薇があった。
そして、ドーナツを半分に割ったようなテーブルに5人の男が着席している。
テーブルに近づくにつれ、顔がはっきりと見えてきた。
5人、いや、後ろに控えてる4人と、今私の腕を引いているこの男を含めた10人に共通している事。
遠目で見ても思ったが、顔面偏差値が半端なく高い事と、薔薇の飾りを着けている事、着ている服が私の手を引くこの男の服みたいに、やっぱり和服と中華、更に西洋の全てが混ざっている。
「(あぁぁぁぁ……!!イケメンパラダイスや!イケメン過ぎて目に毒や……!あ、あかん、目が!目がぁぁあ!!もうっ……胸が苦しい!)」
密かに胸中で、そう叫ぶ。
表情が変わらなかった事を誰か褒めて欲しい。
「遅くなり、誠に申し訳ありません。」
「君のせいじゃないよ、おかえり。それとご苦労様」
「ありがとうございます」
青い髪の男が灰色の髪の男を労うと、男達が座っている目の前にポツンと置かれている1脚の椅子に座らされ、手を引いていた男は白髪?銀髪?の男の後ろに立った。
「(……き、気まずい空気や……。あと、ジロジロと他人に見られるのがこんなに鬱陶しいとは……自分も気をつけよ。ちゅーか、誰か何か喋って下さいお願いします)」
合計10人に観察され、居心地が非常に悪い。
圧迫面接よりも更に酷い……。
思わずうつむきそうになるが必死で、目の前に座る男達から目を離さない。
すると、赤い髪の男が真剣な表情から一転し、笑顔で話し出した。
「ははっ!!そんなにビクビクしなくても大丈夫だ!俺達はずっと会いたかったんだ、【異界から来たりし花巫女】である君に、ね」
「は?」
マヌケな顔とはまさにこの事。