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人生において、諦めて次に進む事も大切だ

チュンッ、チュッチュン。

窓際で、二匹の鳥が気持ち良さそうに鳴いている。

「……ん、……」

もぞもぞと体を動かす。

明るい光が部屋に射し込み、燐を照らしている。

「(何やろ?体がフワフワに包まれているような……暖かくて気持ちいい。それに何や、いい香りがする……。ず――っとこのまま、目が醒めやんでもええわぁ~♪って気持ちやわ。…………ん?フワフワ??ちょっと待って……。私、昨日どこで寝た……?人生初の野宿したんやんな?!え、焚き火は?!なんでフワフワやねんッッ?!?!)」

ガバッ!!飛び起きて辺りをキョロキョロと見渡す燐。

「……此処はどこ?森で寝てたはずやのに……。え、何このきらびやかな空間は?しかもこのベッドだいぶ高いヤツやろ……。寝てる時は気にならんかったけと、目が覚めた今やったら、フワフワ過ぎて逆に落ち着かんわ……」

手でポフポフと布団を叩く燐。

もう一度よぉぉく、自分のいる場所を確認する。

「……」

何と説明すればいいのやら。私の知ってる和洋中が、完全にMIXされた部屋やな……。

中華っぽい色の配色、和風な畳があって、更に洋風な真っ白なフワフワベッド。

いろんな事が気になりつつも、一番気になるのは……。

「――部屋の至るところに、薔薇ありすぎちゃう?見た感じやと生花っぽいけど。しかも大きさもバラバラや……あ、薔薇だけに?……って、ちゃうわ!!アホ全開過ぎて自分やのに恥ずかしいわ!!もう、余計な事言わんとこ…………」


色とりどりの薔薇が、部屋の随所に飾られてある。

よく見ると家具等の装飾も、薔薇をあしらわれている。

もう眠る前から色んな事が起こり過ぎて、脳の処理が追いつかない……。

ベッドの上で、頭を抱える燐。

「あぁ、もうっっ!!次から次へと!頭良くないんやからっ、悩ませやんといて欲しいわ!!!!」

「……目が覚めたのか」


燐が、があぁぁぁぁ!と唸っていると、静かに扉が開き、灰色の髪の男が室内に入ってきた。

入ってくる気配に全く気づかず、驚き、目をぱちくりとしている燐に、男は近づく。

燐がいるベッドの横に立った男は、ただ黙って燐を見下ろす。

「(チャイナ服と和服が混ざったような格好……、なんやアニメとかゲームに出てきそうな服やな。……それにしても目を引くのは、綺麗な長い灰色の髪と灰色の瞳……。男の人に失礼かもしれんけど、めっちゃ綺麗やわ。なんやろ……何かわからんけど、色々と負けた気分やわ……!!)」

女として色々と情けない気持ちになりながらも、サラリと流れる癖のない灰色の髪と真っ直ぐに見下ろす切れ長い瞳に、見とれてしまっていると。

「おい?聞こえているか?」

腕を組み、男は眉を寄せ再度尋ねる。

はっ!!と我に返り、燐は矢継ぎ早に男に問いかけた。

「……だ、れですか?――っあ、あと、此処はどこですか?!私、事故にあったはずなんやけど、目が覚めたら森におって!ずっと森から抜け出そうと思って、めっちゃ歩いて!!でもっ、昨日の夜は森にいたはずやのに、また目が覚めたら此処におって!此処は一体どこなんですかッ?!今の時間は?!日付は?!っ私、家に帰りたいんです!!!!教えて下さい!!お願いします!!」

ベッドの上で正座をし、頭を下げた。

捲し立てるように、次から次に言葉が飛び出る。

見知らぬ人とはいえ、人に会えたからか。

少しホッとしたが、直ぐにまた焦る気持ちが顔を出す。

~っ早く、早く家に帰りたいッッ!!

燐は眉をハの字にし、少し潤んだ目で男の答えをジッと待っている。

真っ直ぐに燐を見下ろしていた男は、ため息を一つ吐いてから答えた。


「此処は咲き乱れる華と華精達と共に生きる国、華厳。そして今は、春の月だ。時間は昼を過ぎたばかり。昨日の昼過ぎぐらいに、国の近くにある大きな森の中で、何もなかったはずの場所に一瞬にして現れたお前を〝偶然〟見つけた。……悪いが、しばらく様子を見させてもらった。だが夜になり、あのまま野宿だと野生の動物達に襲われると判断し、此処に連れて来た」

「は……?か、せい?火星??地球外に出た?私……?華厳?一瞬?え?様子を見てた?なんでっ?!ちゅうか、やっぱり野生の動物おるんかいっ!!リアル危機一発!!!!」

聞いた事のない国の名前、それに男が言った『一瞬にして現れた』という事。

既に理解の範囲を越えてしまっている。

行儀が悪いとわかりつつ、正座を崩し、胡座をかく。

「……あの~、華厳って名前の国?村?は日本のどこにあるんでしょうか?いや、もしかしたら海外なんかな?とか思ったんですけど、私日本語以外は全く話せませんし。何より今、私と会話してますよね?日本語に合わせてくれてるんですか?あと、お兄さんの見た目はハッキリ言って、全っっっく!!日本人の外見ではないけど。ハーフとかクォーターとか?綺麗な髪の毛ですね、羨ましいわこの野郎!シャンプーとリンスはどこのメーカーですか?!」

早口でどんどん話し詰めよってくる燐に、若干引き気味な男。

「………村ではない。1つの国だ。あと、お前の言うニホンやシャンプー、リンス、ハーフ?クォーター?というのが何かわからない。それは何だ?お前の国の言葉か?」

「え……?」


男が告げた言葉に、思わず口が開く。

息が、時間が、一瞬止まった。

上手く息が出来ない。

まるで呼吸の仕方を忘れてしまったような。

冷や汗が一筋、首に流れた。

日本を知らない?シャンプーやリンスはともかく、その外見ならば聞き飽きる程に聞いてそうなハーフやクォーターといった言葉もわからない?

「いやいや、日本は知ってるでしょー!!JAPANですよ?ジャパン!!島国で経済が発展している国ですよ!総理大臣の名前も言いましょか?」

「…………悪いが、お前が今話しているほとんどが聞いた事がない」


「ははっ……、お兄さんっ、綺麗な顔して面白い事言うんですね~!なかなかセンスありますよ!!なんや、一本取られた気になりましたわ!!…………せやけど、今、私は笑いやなく、ほんまの事が知りたいんですよねー……。此処は日本のどこですか?日本やないとしたら、海外のどこですか?私、パスポート持ち歩いてないから、領事館に行って説明して帰らんと……っ!!!!」

黙って腕を組み、ただジッと見下ろしている男。

捲し立てるように話しながら、頭の中に1つの可能性が浮かぶ。

「(いやいや、ない!!絶対にないッッ!!!!いくらなんでも、この可能性はないって!!!アニメ漫画ゲーム大好きなオタクですけども?!【異世界】なんて、現実的でないやろ?!?!確かに、ゲームに出てきそうな服装やと思ったのは認めますけど!!……いや、でも既に非現実的な体験しすぎなくらいに体験しとるし、これ以外にしっくりくるものは思い浮かべへん……!ッもう、腹くくるんや、燐ッッ!!)」


俯き考えていた燐は、ゆっくりと顔を上げて男と眼を合わせる。

男は眼を反らす事なく、同じように燐と合わせる。

ドクン、ドクン、ドクン。

心臓の音がうるさいぐらいに響く。

「ふぅ……」

深く深呼吸をして、ゆっくりと燐は口を開いた。

「……日本、アメリカ、カナダ、ロシア、イギリス、中国、韓国、テレビ、パソコン、スマホ、大統領、天皇、電車、車。…今私が言うた言葉の中に、意味が解るものはひとつでもありますか?」

どれか1つぐらい解るやろ?!わからんって言われたら、もう予感が的中してしまう!!

どうか、どうかっ、私の予感がハズレていますように……っ!!

そう願ったが、現実は残酷で。

「…………」

男は静かに首を横に振り、否定した。

「ははっ……そ、っか、……やっぱり、っっ…そう、なんやね……」

乾いた笑い声が静かな部屋に響く。

もう涙すら流れない。

昨日はあんなにも、涙が枯れる程に泣いたのに……。

悲しい気持ちとは裏腹に、思考が段々と冴えてきた。

これからどうしよう……。何もわからない世界で、どうやって生きて行けばいいのか。

そもそも私は生きているのかも、ひどく曖昧な状態だ。


……まぁ、心臓が動いて呼吸が出来ているし、手足に異常は見られないから大丈夫だろうとは思うけど……、多分。

ひとまずこの問題は後回しにして……、と。

次から次へと考える事は山ほどある。

すると、今まで黙っていた男が口を開いた。

「少しは落ち着いたな?次はこちらの質問に答えて貰う。お前は異界の者で間違いないな?」

「…………」

「何故答えない?」

訝しげな表情で燐を見る。

……どう答えればいいのか。

異界ってのは、異世界の事だと思うんやけど。

さっきまでの私の変な質問で、一般人ではない事はバレてるし……誤魔化そうにもどう言えばいい……?!

むむぅ……!

黙り、眉間にシワを寄せて悩む燐に、追い討ちをかける。

「はっきり言っておくが、お前に黙秘する権利はない。お前を助け、此処まで持ち帰ったのは俺だ」

……おいおい、お兄さん!

持ち帰ったって、私は荷物ですか?!

荷物扱いにムスッとし、眉間に皺が寄る。

だけど言い返せないから、黙る。

「だんまりか……まあいい。異界の者だという証拠も確認済みだしな」

「は?」

確認済みって事は、最初からわかってた?

……なんの為に質問したんや。

天然系か?こいつ……。

全く意図が掴めずに段々と不機嫌な顔になる。

そんな燐を横目にさっさと扉まで歩く男。

「おいお前。行くぞ、早く来い」

「え?どこに?」

扉の前で振り返り、燐を呼ぶ。

「(もしかして、牢屋とか入れられるんか?!!)」

さっきまで落ち着きかけていた不安がまた、ざわざわと戻ってくる感覚……。

手をギュッと握り締め、オロオロとする燐に痺れを切らしたのか。

「早くしろ。遅い」

「ちょっ!何すん、うわ?!!」

しかめっ面で、ずかずかとベッドまで戻って来た男が燐の腕を引っ張り、肩に担ぎ上げた。

「何すんねん!!っ、うぐっ、ぐえぇ、ちょ、ちょっと待って!ストップ!!苦しい!!お腹が!圧迫されて苦しい!!!!」

ジタバタと手足を動かし暴れる燐。

「ふん。女らしさの欠片もないな」

「なんやねん?!!喧嘩売ってるんか!!!」

「ギャンギャン騒ぐな。耳障りだ」

「騒ぐような事してるんはあんたや!!アホ!!」

「はぁ……さっきのしおらしさはどこにいったのやら……。女は面倒だな…」

「あんた人の話ちゃんと聞いてる?!」

暴れる燐を無視し、担いだまま男は部屋を後にした。

パタリ。

扉が閉められた部屋の中には誰もいないのに、フワリと風が舞った。

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