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見えるもの

「おはよう、櫻坂」


 朝の教室。

 入学から早くも一週間と経ち、俺は少しだけ早く学校へと来るようにした。

 それはただ、家に居たとしても朝はやることもないからだ。

 そんな考えで家を出た俺だが、俺が起きる時間が早いからか、学校に着いたとしても教室にいるのは俺だけ。だが、そんな普段は俺だけしかいないはずの朝の教室には、珍しくも俺より早く来ていた奴がいたのだ。

 肩ぐらいに伸びた短い髪に、足や手は一切の無駄な脂肪はついていない。スラっと伸びる足は綺麗な脚線を描き、それでいて絹のようなイメージを持たせる。

 毎度のように思うが、俺ってこいつの特徴を足で判断してないか?


「……おはよう、帝島。今日も一段と元気そうでなにより」


「なんで私に会った第一声が元気もやる気も一切ない声なの? もしかして、私に殺されたいの?」


 血の気が多い彼女が型を嵌めるかのように手と足を固定させる。

 その恰好はもう亮人を撃ち抜かんとする空手家のようだ。


「はっはっは、暴力はんたーい」


 いつになく元気が出ない俺は精一杯の元気を振り絞って帝島へと手を上げながら後ずされば、そんな俺にムカついたのか、眉間に青筋を立てた帝島が一歩前へと前進してくる。


「本当に殺されたいみたいね……そろそろ本気で一発殴ってみようか……」


 そのままもう一歩前へと前進してきた帝島は、数歩の間を一瞬で縮めてくるなり俺の鳩尾を狙って掌打を打ってきた。

 キレのある掌打を俺はただ見つめることしか出来ず、それを呆然と受け止める。

 普段ならどうにかして避ける俺だが、何故だか避ける気すら起こらなかった。


「ちょっ、櫻坂っ!」


 避けようとしない俺に驚いた帝島は手を必死に止めようとしたが、時すでに遅し。

 そのキレがあり過ぎる掌打は亮人の鳩尾へとめり込んだ。

 そして、


「うっ!」


 小さな悲鳴だ。

 俺の口からは悲鳴にならない小さな悲鳴が漏れ、それでいて胃の中の物は逆流することがない。

 ただ呼吸が苦しいだけの鳩尾。

 帝島は膝で立つ俺のところへと駆け寄るなり、


「本当にどうしたのよっ!? いつもなら避けてるくせに、なんで今日に限って避けないのよ」


 驚きが半分に心配半分といった表情が俺へと向けられるが、そんな表情は俺に向けたところで意味がなかった。

 ただ、俺は今日という日が嫌いなのだ。

 だから、やる気も元気も全部無くなる。ただそれだけだ。


「今日は放って置いてくれるか? 今日だけだから……今日だけだからさ」


「今日だけって……それって何か意味があるの?」


「いやっ! なんでもない、何でもないから……」


 俺はそれだけ言い残せば、自分の席へと駆け出し机へと突っ伏する。

 これ以上、俺は何もしたくない……何も考えたくない……。

 それだけが俺の頭の中で巡り回っていた。

 あの忌々しい出来事を俺はまだ鮮明に覚えてる。

 苦しくて、泣きたくて、それでいて死にたくなる。

 そんな忌々(いまいま)しくて憎くて悔しくて自分を殺してやりたい気持ちが否が応でも心の奥底から湧いて出てくる。


「今日だけは……ダメなんだよ……」


 悲痛な声を漏らした俺は目を瞑って早くこの日が過ぎればいいと思った。

 今日、桜が少しずつ散り始めた四月十二日……それは櫻坂幸の最悪な一日。

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