断章
〈断章〉
これは、能力を暴走させてからの嘉斎待宵の悪夢のつぎはぎ。
長い三つ編みにセーラー服と丸い眼鏡。みためからして典型的な文学少女は読み上げる。
この本は紙で出来ています。
誰も文字など読みはしないだろう。
この本は紙で出来ています。
書く人間は有機物で出来ています。
会話は音とかで出来ています。
本は紙とインクで出来ています。
インクはもとは液体でした。
インクは紙にのるとかわきます。
鉛筆の場合も、少しあります。
文字として読めるようになります。
ところで、押しつけは嫌いです。
おだまり、私だって人間です。
こいつしねばいいのにとおもうことはたくさんあります。
じぶんじしん、はやくしにたい。
さて、誰に対して言ったのかはともかく、原稿は最近データ媒体です。
フィクションなんてよく有ることです。
ハロー
少女は役目を終えたらしく、はじめからいなかったかのように知らぬ間にそっといなくなった。
古い形のテレビの砂嵐。
雑踏のなかの誰かの会話。
人間がタブレットに食べられた状態で発見された。
なにを言っているのかわからないって?
タブレットに頭のてっぺんから鼻のあたりまでを食べられた死体。
その部分が切断されただけでそこにタブレットを乗っけたように見えるかもしれないけれど、なんとも奇怪なことにタブレットの画面の硝子部分が、人間が口を開けたときの状態になっていたんだよね。
なんだこれ。
それから、食べられた人は死んだらしい時間帯までそのタブレットを使って呟くアプリをしていたんだってさ。
まるでよくわからない。
今度は違う人達の会話。
とある時代錯誤な町の外れで起きた事件。
公衆電話ボックスのなかを埋め尽くすようにいれられていた白い粉は大量の砂糖と、その中には子供の死体がはいっていて、死体の胃袋の中にはお菓子の詰め放題みたいに無理矢理えぐり取られたような眼球がぱんぱんになるまで詰め込まれていたとか、いなかったとか。
ぐろいなぁもう。
またまた誰かの話。
ロッカー内での文字殺し。
掃除用具入れのロッカーの中から、変わった縄跳びが出て来ました。それの面白いとこは、縄の部分が全て針金かなにかでつなぎ合わされた指で出来ているのです。とても使いたいとは思えませんが、今回の話はどうしても手で無くてはならなかったので仕方の無いことです。
指は図工の時間にのこぎりをつかいました。
大人にも子供にも、理不尽なことはよくあることです。
いやだなぁもう。
人間はものをつかむときは親指と人差し指が活躍します。
価値は無いけれど捨てるところの無いかもしれないもの。
1冊の絵本のようなもの。
ざりざり。雪の上を歩くような音。
ぬたぬた。チョコレートクリームがひっついている容器を舌で舐めるような音。
ざりざり、ぬたぬた。
ざりざりは砂場で遊ぶ音にも近いかも。
あいつやこいつとそいつとはどこか相容れないと薄々思っている。たいして仲良くも無いのにまだわすれたころに関わりがあるのは、どうにもこうにも複雑だ。なんて面倒。
待ち合わせをしたはずのそいつはまったく来ない。
そのかわりに、あちこちみわたしてみたら、ベンチの真ん中にすわっている女の子が両脇に沢山の生首を置いて青ざめたまま、助けでも求めるかのようにこちらを見ていて、真っ先にためらいなく視線を逸らすと、きがついたら誰かの手で雪の中に押し込められて、暗くて冷たい水の中にいれられた。
みずは、みずなのに、みずのくせにどうしてか、嘘と狂気と快楽と……そんなものでできていて、夜になると僕の頭の中を冷やして、溺れる夜が始まっていく。
何をどうしても、どこにも逃げることは出来なくて、気がつけば諦めて、よく言えば折り合いをつけて、生きることを辞めてしまいたいけど、出来ないんだから死んだように生きていた。
〈断章おわり〉