7話
丘の上に建っている「塔の国」、そのお城の中にある、とある小路に沿うお城の壁、そのちょうど外側は、岸です。
そちらの方は、ウルプスの街のある方向とは、反対方向でした。
ウルプスの街は、お城の建つ丘その中腹の下の方から麓にかけて、扇のような形に広がっていましたが、お城の丘をすっぽりと覆うような輪っかの形にはなっていませんでした。
ウルプスの街のある方向とは反対の方向にも「小山の裾」は広がっていました。
しかしそちらは、建物や街道はありません。平原もありません。
小さな獣道もありませんでした。人が通った後もなく、「お城が建つなだらかな小山」の上であるこの場所と、よく似た同じようになだらかな丘が、景色の中にいくつもありました。
丘陵地帯でした。
そのあたりは、どこまでも奥の方へ眼を向けても、雪の降り積もった景色が広がっています。
小山としてお城をみれば、中腹のさらにその下には、「丘陵地帯」の「小山の裾」が広がっていました。
その壁沿いの道は、「冬の館」へと続いています。
「冬の館」の敷地の外には、兵士たちの間では「前門」と言われている「詰所」がありました。
山の傾いた地面の下の方、傾きがなくなって平らになっていく端の方は、「山の麓」と呼びます。
お城の建つ小山の麓は、城下街「ウルプス」と呼ばれていました。
その城下のほとんどすべてが木で造られています。そうした家々、「ウルプスの街」は,「小山の裾」から平らな野原に向かって広がっていました。
小路の先を見てみると、その左右に、詰所という建物が二棟あります。
二棟の詰所から、小路の方へと張り出す出窓があり、その片方の詰所の中には、窓際に腰かけている兵士の姿が伺えます。その兵士は、革鎧に上半身を包んでいます。
外から来た者は「冬の館」に入る前に、怪しいものではないか調べられます。兵士から来館理由の質問をされたり、身分証明の確認を受けたり、持ち物の検査をされたりします。検問を受けるのです。
ただ、冬の館は、「廓」というお城の壁の中にある館ですから、ほとんど館の関係者しか、前門、表門を訪れません。
今日、「冬の館」に訪れた者といえば、「冬の女王」様の暮らす塔に食糧を運搬する女性の兵士が一人、訪問状を持って来ただけでした。それも、前門の兵士からすれば、その女性の兵士は、同じ「前門」の警備をする同僚です。
どうしてわざわざ「訪問状」をもってやってきたのかと理由を尋ねてから、楽しく世間話をはじめたほど、二人の兵士は見知った間柄でした。
その後。
春の館から人が来て、たいそう「前門」の兵士は驚きました。
ここは、丘の上にたつ堅牢な城壁に囲われたお城の中だというのに「外套」を着こんだ見知らぬ背の高い中年の男性が必死に走ってこちらにむかってくるのですから、無理もありません。
おなじお城の中にある「春の館」の使用人であり、そのまとめ役でもある「執務長」のロムス、彼が、「冬の館」まで走ってやってきたのです。