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冬の塔  作者: 櫛之汲 
5/13

5話

丁度ロムスが冬の館へ向かおうとしている頃、ウルプスの街の先にある塔に防寒具を着たお城の兵士が食糧をもって塔にやってきました。

その兵士は上半身に革鎧を装備しています。下半身は普段着です。雪解ゆきどけで濡れてしまった長い靴下くつしたは脱いでいて、厚い布地のズボンをいて、素足にお城の兵士に支給しきゅうされる革と木でできた移動用の靴を履いていました。かみの毛は両肩りょうかたまで伸びています。その兵士は女性でした。

彼女も朝から雪かきをしていた兵士のひとりでした。城壁の上での雪かきをすませてからは、「見張り塔」の屋上口から、見張り塔の中の自室を経由けいゆし中庭へと出ました。その際には2時間の休息きゅうそくをしました。そのうちに水で濡れた体を温め、着替えを済ませ、本来の持ち場である「冬の館」へと向かいました。


今日は、時期としては春の始まりのころでした。晴れてはいましたが、寒さは厳しい真冬そのものです。

雪の積もる草原に吹く風の音は、寒さで赤くなった耳の鼓膜をたたくかのような勢いです。


塔までの長い雪原の道のりを歩いて来てようやく「冬の女王」の住む塔に近づきます。

兵士は、「冬の館」の周辺の見回りをする警備兵のひとりでした。

冬の館のお姫様でもある、冬の女王様との面識はこれまでにありません。塔へ食糧を届ける係は女性兵士たちの間での当番制で行っていました。


いま、一人彼女は、食糧を積んだ車を馬にかせて、自身は、馬具のくつわへとつながる手綱を引いて馬を先導していました。


雪原の野原は徒歩で進むにはとても広大で、周りを見渡せば遠くの峰まで遮るものはなにもありません。雪に覆われた野原にも枯草が残り、ときたまに雪に交じって、足元に土が見えました。しかし土も雪により凍りついています。凍土と化していました。


塔の周りにも建物はありません。

塔は石でできています。その扉は木製です。

塔の高さは、ウルプスの城下に立った人から見るお城の建つ高台の岸ほどもあるように兵士には見えました。


塔の上の階では「冬の女王」がいます。

下の方の階には「冬の館」の女性の使用人2人が部屋で寝泊まりしています。


「冬の女王」は祭事の規則で塔にいる間は、浴室やお手洗いに向かう時以外は、上階にいなければなりません。塔の中には女王様の他に二人、身の回りの世話をするため女性の使用人が女王様のひとつ下の階に控えていますが、使用人の方から女王様の部屋に入ることはしません。


女王様は使用人に用のあるときには好きな時に上から降りてきます。

しかし、食事を用意するときには、使用人は二人とも浴室と調理場と井戸のある一階にいました。


兵士は、塔の直ぐ側にある係留所けいりゅうじょに馬車をめました。

平原の地面に埋め込まれた係留杭けいりゅうくいへ、馬具ばぐへつないである手綱たづなを繋ぎ留めます。片手で手綱を短く一纏ひとまとめにしながら、もう一方の手で馬をやさしく一撫でします。馬が落ち着いてくれるまで待ってから、車の荷物の中からえさを取り出して馬に与えました。


兵士が塔の扉を開け、中に入ると、「これから外に出て、それから、馬車から荷下ろしした食料の受け取りを手伝ってもらいたい」と、そのように使用人に伝えます。


塔に入ってその左手側には井戸と調理場があります。塔の真下、地下深くにある水をくみ上げて、水を得ているのです。右手側には石造りのらせん階段が上の階へと続いています。

階段の手摺てすりは壁際にあるのみです。


塔に入ると、その天井はとても高く、ウルプスの街の一階建ての建物の高さで十数棟はありそうです。

塔の上部にしか階がないのです。


使用人二人と協力して、荷物を運び終えた兵士が塔の中心から見上げれば、天井までらせん階段が続いていく様子は現実感がなく不思議な光景です。

上部には、3階分の空間があります。

上から数えて二番目の階は、使用人の居室と「女王の間」があります。

塔の上階部分、最も下の階には書庫と、「塔の魔法」に関係する開かずの間の小部屋となっています。

この小部屋には「塔の魔法」に使われるという王家に伝わる「魔法の道具」が置かれているといわれていました。しかし、それが何か、この塔に居る者はまだ誰も知りません。




訪問状を(したためて執務長のロムスが机から顔をあげます。

「春の館」では、この時間は他の使用人たちも昼食を済ませに外出する者も休んでいる者もいて、「執務の間」を出るとよりいっそうもの静かでした。

ヒナカ王子はさきほど「そろそろ支度をしないと」といって身支度をするために「執務の間」から自室へ戻って行かれた後です。

ロムスが使っていた机には、焦り書き損じてしまった訪問状が一枚丸めて置かれていました。

コノメ姫は身支度を終え、館の「書斎しょさい」に籠られているころでしょうか。

ロムスは机の引き出しから取り出した専用の木箱に訪問状を入れて、それを抱えます。

机の上で一つだけ残っているロムスの分の飲み物へ視線が注がれました。もう冷めているので飲まずに行こうと思いましたが、執務長のロムスもまたこの飲み物を用意してくれた使用人と同じように思うのです。口をつけないのは心苦しい、もったいないと思うのです。

既に冷めたくなっていましたが、一気に飲み干しました。それからロムスは、自身の私物入れである戸棚から「外套がいとう」を引っ張り出して羽織はおると、そのまま歩き出して執務の間を出ます。階段を急ぎ足で駆け下り「春の館」を後にしました。






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