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冬の塔  作者: 櫛之汲 
4/13

4話

王様が住むお城の周りは「くるわ」という丈夫な城壁に覆われていました。

塔の国にあるウルプスという街のなかに、そのお城はあります。

兵士たちが今もお城の道や屋根や廓の雪かきしています。

お城の廓の中には幾本も通路があります。そうした通路の雪は、すでにほとんど敷地の隅へと寄せ集められています。厩舎の周りや広場の井戸の周りなど随分と雪かきが進んでいます。雪かきが済んだ通りを猫が横断しています。


「内廓」というなかには、王様とその家族が住むための「王の館」という宮殿があります。その外にももうひとつ外廓という廓があります。厩舎や鍛冶場や「兵士の館」があるところです。

宮殿には、王の家族の世話をしたり、王様の仕事を助けたりする人たちがたくさんいます。兵士の人も王様の世話をしますし、仕事の手助けをしますが、腰から剣を提げる兵士とは違って、宮殿で働くその人たちのことを使用人といいます。

そうした使用人のなかでも、王様の用事を伝えるために宮殿の外へと出ていく仕事をする人のことを「塔の国の使者」という名前で呼ぶこともあります。

塔の国の王様は、その宮殿の外にいる人に用事を伝えたいとき、伝えたい人のところへ使者を送るのです。

冬の女王様に関係するお触れを出したとき、宮殿で王様たちの世話をする人の中から、数名の使者たちが王様の言いつけにより城下街のウルプスへと遣わされました。

使者たちのうち一人は、お触れが書かれた書状と、またもうひとつ王様から預かったお手紙を携えて、宮殿からは少し距離のあった、「春の館」へと向かいました。「春の館」王様の親戚にあたる王族の者が住む四廷の館の一つです。ですから、廓のなかにあります。


使者は、春の館の使用人により、春の館のなかにある「応接の間」に招かれました。

「春の館」の内装は木造ですが、柱は石。外壁、屋根も石で造られていました。

部屋の隅にある暖炉では、火の点いた薪がぱちぱちと爆ぜていました。暖炉から近い丸卓の上には、使者のために温かい飲み物が用意されていました。湯気が立っています。

「国王陛下より、こちらのお手紙を春の館の使用人ロムス殿へ渡すよう尊命を受けてお預かりしています」

部屋に入るや否や、すぐに使者は「春の館」の使用人に対して持参していたお触れが書かれた書状と手紙をそれぞれ一通渡しました。お手紙と書状を受け取り、使用人は一礼します。

「それでは、私はこれで、失礼いたします」

そうしたら使者はすぐに応接室から出ようと踵を返しました。

応接室の椅子に座ることもなく、王の住まう宮殿へと速足で帰っていきました。


書状を受けとった使用人が、応接室を後にした使者を玄関まで後についていきお見送りします。

使者を見送った使用人は、執務室にいる執務長の元へ行きました。


使者を見送った後では、春の館の使用人は、見送る前よりも、足の運びが早く、そして小刻みになっています。

日が昇りきってから時間も経っていない頃です。

春の館の室内の様子は、天井部の採光窓から差し込む光も弱く、それに戸も閉まっていました。まだそれほど外も明るくありません。

使用人は手に提灯を持って階段を上がり、執務室へ入りました。

部屋には大きな机が窓際にあるだけ。

机に向かって書き物をしていた執務長へ書状を渡します。

「宮殿からのお手紙を預かりました。使者の方からは、ロムスさんに渡すよう言われています。お受け取り下さい」

王様からの突然の手紙という事実に対して、不思議に思い、執務長は首を傾げます。




王様からのお手紙と、王様が出したお触れ書き状を受け取ったことで春の館の者が一堂に会します。それはお昼になるころでした。

春の館の中にある「執務の間」に集まった者は、このとき三名だけでした。

長女のコノメと次男のヒナカに、春の館の使用人たちのまとめ役である執務長のロムスです。ロムスは当主の留守の間、館に舞い込む執務などのお役目を任されています。

春の館の当主とその奥方と長男は公務のために塔の国を出ていました。

冬の女王と交代するお姫様はコノメです。


彼女は、祭事のために塔で暮らす期間は、塔の国の決まりにより、「春の女王」となります。


王様からみれば、塔で生活をしながら祭事を務める四季の館のお姫様たちは、孫や姪にあたります。

祭事の役目を負う際の役職の名をそれぞれ「『春・夏・秋・冬』の女王」というのです。


「お手紙の内容を今一度整理してお話します。王様は、春の館の者と冬の館の者は協力して冬の女王を説得すること。そうしたら一度城まで連れてくるようにしてほしいとのことです」と、このようにロムスがまだ子供である二人に説明します。とくに、弟のヒナカ王子は手紙に書いてある難しい言葉がときどきわからないので、手紙を読み上げたあとに、口頭で説明しました。ヒナカ姫は黙って話をきいていましたが、手紙の内容をよく理解していた様子です。


ヒナカ王子はそれを執務室の壁際においてある椅子に礼儀正しく腰かけて聴いていました。

姉のコノメ姫は「執務室」の窓際に腕を組んで立ってロムスの話を聞いています。ロムスは二人の間に立って話しています。窓際の机のすぐ側にロムスが立っています。椅子は全部で四つ部屋にありましたが、コノメ姫は座る様子がありません。

ヒナカ王子が姉のコノメ姫にいいます。

「うーん。コノメが直接塔に出向いて冬の女王を説得してきたらどう?」

コノメ姫はそれに黙って頷き、自分の意見を話しました。

「手紙にあるとおり、『冬の館の者と協力』しないといけないから、一度「冬の館」に直接行く方がいいわ。話し合いはそこでしましょう。ロムス、今日中に「冬の館」へ行きたいから、こちらの訪問を向こうに知らせておいてください。早ければ早い方がいいでしょうから。お願いします」

「はい。では、すぐに取り掛かります。訪問状を書いたら私が直接「冬の館」へ届けに行きます」

「そうですか。私は自室に戻り身支度をするとします。ヒナカも出立までには用意をしておいて」

「うん! わかった。……ロムス僕もついて行こうか? その方が話が早いんじゃあない?」

「いいえ。大丈夫です。向こうの都合を伺いに前門へ行くだけですから」

「そう? いつ行けるのかな?」

「今回の訪問は、王様のご命令ということで、今日中に行えるものとは思いますが、いつごろになるかはわかりません」

「そうなんだ。ありがとうね」

「お気遣いありがとうございます」

ロムスはヒナカ王子に一礼をすると、執務机の扉側に壁側においてある椅子を持ってきておきました。そこへ座り、もくもくと手紙を書いていきます。ヒナカ王子は座ったまま、訪問状を書いているロムスを待ちました。埃一つ見当たらない小奇麗な執務室は、物があまり置かれていない部屋でした。一番目立つのは、机とそれ以外には四つの椅子とヒナカ王子の側の反対側の壁際に戸棚が一つあるのみです。この部屋には暖炉はありません。ロムスに頼まれて他の使用人が温かい飲み物を別室から持ってきました。




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