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冬の塔  作者: 櫛之汲 
3/13

3話

石でできたお城の壁の上には、大人が二人、三人と並んで通れるくらい十分に幅広い道がありました。

朝早くから雪かきをしていたお城の兵士たちが城壁の上にもたくさんいました。

そのうちのひとりが、壁の上の通路の地続きの先にある半円形の見張り塔台のところまで、お城の壁の上をゆっくりと歩いていきます。ゆっくり歩く理由は、通路が、薄く凍り付いていたことに彼が気づいていたからでした。

路の上が薄く氷づいている様子は、一見、水たまりにも見えるようすです。

どうして、兵士は薄い氷に気づくことができたのでしょうか?


太陽から降りそそぐ光は、ウルプスの街の中に積もった雪も、ウルプスの街の外にある雪も、お城をぐるりと囲っている石の壁に積もっていた雪を少しずつ暖めていき、溶かしていきます。

雪は太陽の光で解けると水になります。

この水を「雪解け水」ともいいます。

兵士たちが朝から頑張って雪かきをしていたことで、石で作られているお城の壁、その上にある通路は、道の隅に少しの雪が残るだけとなりました。雪を屋根からおろしたり、雪を端に寄せ集めたり、こうした雪かきをすると、あたりまえですが、雪の積もっている量が少なくなります。雪がたくさん積もっていなければ、太陽の光によって温まり、雪解け水になり易くなります。

そして寒い冬であるこの季節は、雨がふれば、そのあと道に溜まった水たまりもいずれ凍ってしまうのです。「雪解け水」も雨水と同じです。その正体は水です。水ですから、雪解け水も車が通るような道の傾く脇の方へ、高いところから低いところへと流れていきます。お城の壁の上の端からはみ出していく雪解け水は、冷たい風に吹かれてふたたび凍りついてしまいます。先端がとがった氷の柱が城壁の淵から垂れています。お昼になるころには溶けだします。お城の壁の高さから下に氷柱が落ちれば、危ないですから、お城のあちこちで雪かきをしている兵士たちは、その氷柱も、下の通路の兵士と壁の上の兵士とで大きな声でかけあって、安全を確認してから剣の鞘で叩いて落下させたり、さらに網をつかって氷の柱を取ったりしているようです。兵士が薄い氷に気づくことができた訳は、雪だけでなく、雪解け水や、透明な氷に注意していたからでした。


その兵士は、この冬の季節には、地面に氷が張っていないか気を付けていますが、城壁の上の道は滑り止めのためなのか、ざらざらした石です。その兵士はお城の壁の上を注意して歩きながらも田圃の畦道で転んでしまったときのことをふと思い出しました。

田畑の境には「畦道」という通りがあります。兵士がその畦道と呼ばれる盛り土の通路の上を通った時のことです。その時も今と同じ、雪降る冬の季節でした。兵士はそのとき、仕事場であるウルプスにあるお城から離れていました。それでも急な用事ができたので、急いでウルプスの街に走って向かっていました。すこしでも早く着かないといけないと思った兵士は、大通りから一度外れて、近道をしようと、田圃の畦道をひた走って通ったのです。そのとき、何もないはずのところで足を滑らせて転んでしまったのでした。


半円形の見張り台へたどり着いた兵士は、屈みこんで暫し休憩をとります。

お尻は見張り台の地面が氷のように冷たいので、拳大くらいを地面から放しています。見張り台の上は、お城の壁の上でも、特別です。念入りに雪かきがされていました。雪解け水も他の人によって綺麗に拭き取られていたため、半円型にだけくりぬかれたように、石の組み合わせ模様にみえる、石が積み重なったている乾いた地面がはっきりとのぞいています。


その兵士が気付くと、彼と同僚の他の兵士たちもスコップで雪を除ける手を一旦止めて思い思いに休んでいました。昨日の夜遅くから、お日様がのぼり始める前までに、降り積もったたくさんの雪の塊を人ひとりの力で一度にたくさん運び続けていれば、力強い兵士たちさえも休まずにいれば疲れきってしまいます。

その兵士は、立ち上がって、爽やかな冷たい空気を吸い込みました。家々の屋根を、遠くに見える平原に塔や山々の峰も空の色を、煮炊きの煙があがる朝の城下ウルプスの街の景色を眺めました。とてもきれいでした。




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