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冬の塔  作者: 櫛之汲 
13/13

13話

塔の「開かずの間」のなかで冬の女王のユイと、次の春の女王となるコノメ姫と、冬の女王の妹のユミ姫、それに使用人のマイと、その友人の兵士のミカ、あわせて五人が揃いました。

あれだけ叩いても魔法で焦がしても開かなかった扉はコノメが小声で魔法の言葉を唱えるとあっさりと開いたのでした。扉を魔法で焦がしたミカが「扉を開けることに火の魔法を使ってはいけません」とこの後でマイによってこっぴどく叱られていました。

「ねえ、コノメちゃん、なんていったら塔の扉が開いたの?」

「秘密よ」

コノメ姫は照れて、そっぽを向きます。


「ユミ」

「なあにユイおねえちゃん」

ユミ姫の前に、冬の女王様が一歩近づいて、言いました。

「来てくれて、ありがとう。嬉しいわ」

「私も会えてうれしい」

ユイがユミをやさしくなでました。

「なんだかう涙がうるるっときてしまうね」

とミカがマイに言いました。

「そうですね」とマイが返事をします。

ユミ姫が冬の女王様に一通のお手紙を渡そうと、前に差し出しました。

「なになに、私宛に、お母様から?」


それは、ユイ姫の国外留学が決まったことを知らせるお手紙でした。

しかし、ユイ姫は昨年の夏のころに、国外の学校の試験を受けていたことがあった経験から、その内容にだいたいの察しがついていました。塔からお城へ帰ろうとしなかったのはこのためです。

「いまは、いいわ。あとで読むことにしましょう。ユミすこし背が大きくなった?」

「ふふっ、実はね……」


「開かずの間」にあった塔の魔法に関係した「魔法の道具」の正体は、文字通り道具でした。季節をかたどった模様を凝らした羽ペンなどの文房具をはじめとしたものであったり、「望遠鏡ぼうえんきょう」であったり、おはじきや、お手玉、お人形などです。ほかに部屋にあったのは、本棚に何冊も並ぶ、詳しい年や月日の記載がないのでいつのころかは不明ですが、前の代の女王様たちの残した日記などでした。


厳しい冬は、この後もまだすこしだけ続いていきました。

徐々に暖かくなって、ウルプスの街の商人をはじめ、王様も役人も国も交易にも力を入れましたから、塔の国の食糧のことはなんとか大丈夫そうです。

開かずの間に集った5人は、その後も塔に集まりました。

冬の女王のユイに気に入られたミカが専属で食糧の配達をする係に任命されました。

マイも女王様の手前、口には出しませんでしたが、内心喜んでいました。

ユイとコノメは、「塔の魔法の道具」によってとても仲良くなりました。雪の被らない遠く峰の景色を眺めました。こっそり塔をぬけだして、虫眼鏡で冬に咲く花を観察しました。そのときにはもろもろ、なかでもとくに雪解け水や氷には気をつけてくださいと兵士のミカは注意しますが、止めたりはしません。マイは気づかぬふりをしつつも側で彼女らを見守りました。

ユミも塔に顔を出しました。お手玉で遊びましたし、お人形遊びをコノメとユイとしました。

そうして月日が流れていきます。


遠くの大地に咲く花や、緑の野原が見えています。

ユイ姫とコノメ姫とユミ姫、この三人の姫が塔の屋上から望遠鏡を使い観察してわかったのです。

その春の光景は、日ごとに塔へと近づいてくるのでした。


やがて、塔の国は、美しくも寒さが厳しい冬の季節を経て、春を迎えます。季節の廻りは、自然がもたらすものです。


留学をするユイにとって、春のお姫様とのお別れが近づいていました。

冬の女王であるユイは三年間の祭事のお勤めを終えて、冬の館へと帰ります。


冬の女王は冬の館のお姫様に戻ります。

遊びに行くことはできても、国の規則により、もう塔に泊まることはできません。それでも、ユイ姫は留学先でのお勉強を済ませたら、大好きな妹のユミ姫をはじめとした家族と新しいお友達に、春の女王さまとなったコノメ姫に、会いに行きます。



再び、冬のお姫様となったユイが、奥方様にこの廻る季節の出来事をお話しします。


奥方様はお姫様の話を楽しそうに聞いていました。


奥方様はそうしてユイのお話をきいてからは、娘に、昔、自分が冬の女王であったときのお話をします。

同じように友達と一緒に塔の周りで遊んだこと。たしか、春の間も、行ける日は、毎日のように塔へと出かけて、一緒に絵を書いたことを懐かしむのです。


それを聞いて、冬のお姫様は、春の女王にお今日あった出来事とその絵を描いて、春の女王さまにそちらは、今日はどうですか。またいついつ、そちらへ遊びに行きます。というお手紙を春の女王様宛に書きたいのだと話しました。


近いうちに隣の国へ、二年ほど、お勉強をしに行かなければならない用事もあり、(数ヶ月ごとにお休みの月がひと月あるので帰省する予定でした)その間に友達と家族に宛てた手紙をかきたいそうなのです。


冬の館の奥様は、喜んでお手紙を書くお姫様を優しく見守りました。


ある世代の中で一番若い、とある冬のお姫様が祭事を終えるころ、次の世代のお姫様はまだ居ません。自分の娘や、王子の娘が、あるいはその孫の代のものが、季節の女王となるのでしょう。

お姫様たちは、新しい、季節を廻らせる魔法の道具、塔の魔法を考えました。

望遠鏡と虫眼鏡、文房具、おもちゃ、などの遊び道具です。それをそっと塔の開かずの間に残しておくのです。開かずの間にかけた「呪文を解く魔法」季節を廻らせる魔法をお姫様は娘や姪に教えることを約束しました。

お揃いのペンの風習は、筆を使う大人に近づくころまで、あえて秘密にしておくそうです。


お姫様に戻った彼女たちは、お揃い羽筆というペンを新調しました。

これまで使っていた四つの羽根ペンは塔に置いておくそうです。


王様の褒美は春になり、塔に住む春の女王と、外国の魔法と科学と文化について学ばれている最中であり、修学旅行先で宿泊する予定のある冬のお姫様宛てにおくられました。

王様からのお手紙がご褒美に添えられています。季節を廻らせた二人の姫に塔の国のお城から、がんばる二人へご褒美と感謝のお手紙を送ります。



丁寧な文章で、ユイに宛てた手紙には、だいたい以下のようなことが記されていました。

以下にある内容は、お手紙の文章そのままではありません。簡略かつ略式に記してあります。


冬の館のお姫様ユイへ



冬のお姫様あなたのお母さんであり、私の娘である貴女のお母さんから、今回のお触れを出したあとのお話を聞いています。

春と冬の姫、貴方たちは見事に季節を廻らせてくれました。春のお姫様のお母さんである私の娘からもお願いされたこととおなじことを、偶然でしょうか、冬のお姫様であるあなたのお母さんであり、私の娘からもお願いをされています。それは、あなたと春のお姫様、下の子、妹姫と弟の王子ら子供たちへのご褒美が何かほしいと、二人が手紙のやりとりをすることと一緒に聞かされています。念押しして、お願いをされています。


そこで、手紙を書くための羽筆というペンを春のお姫様とお揃いのものを特注で用意することにしました。

公私ともに、使ってほしいと思います。

春のお姫様の弟のヒナカ王子と、次の春の女王である春のコノメ姫、夏と秋の館のものにも同じく、これとは別のペンを特注して、送りたいと思います。どんなペンが良いか悩んでいます。よかったら、どんなペンがよさそうか、実際に使ってみた感想や意見を聞かせてくれると、とってもとってもわたしは助かります。冬の姫としてのお仕事を終えたら、王の館にあなたとあなたのご家族が顔を見せに来てくれると、私も私の妻であり王妃も、嬉しいです。


塔に食料を届けてくれる兵士に、春のお姫様への返信の手紙を書いたり、他にも春の館でも、夏と秋の館でも、この国でも外国でもどこへでも、冬の館の姫あなたが最近お勉強しているとおり、お手紙の様式を書いて、宛先と宛名とその人の住まいを書いてお手紙を渡しくれたら、私の方で、いろいろとてをうって、最終的には、塔の国の使者が、そこへ荷物やお手紙を頑張って届けてくれます。外国に短期留学しているあなたのもとへと遣わせます、あなたの手紙を春の姫や冬の館に届けてくれます。陰ながら応援しています。


綺麗な字で王様のお手紙がユイに対してこのようにかいてあります。





夏のお姫様が塔へと行きます。

夏と秋のお姫様は、冬のお姫さまとその妹姫のユミ姫次の冬の女王と春の姫コノメ姫やその弟のヒナカ王子とも仲良くなったそうです。春の姫の弟ヒナカ王子は、最近、勉強にもいつそう力を入れ、夏と秋の館の王子ともよく遊ぶようです。


季節は巡ります。季節は、夏になりました。

春のお姫様コノメが、塔の国に帰ってきた冬のお姫様ユイに会うのです。あの時集った五人で合いたいそう気持ちが高まります。コノメ姫の三つ年上のユイ姫は、手紙によると、これからは、塔の国のウルプスの街にある学校にウルプスの街に住む子と席を並べてさまざまなことを学ぶために通うそうです。


春のお姫様はそれがとてもうらやましいといいます。

手紙に書ききれないこと、手紙には書かなかったけど今気になったこと手紙にも書いたこと、ほかにもいろいろ話したいことをふたりはウルプスの街へと続く平原を歩きながら、話します。


塔へと立ち寄って夏の女王ともお話がしたい、遊びたいと二人ははなしました。塔にはもう一足早く秋のお姫様もいるかもしれません。いなければ今回のように奥方様に頼まれたロムスが使いにいくことでしょう。








おしまい


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