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冬の塔  作者: 櫛之汲 
12/13

12話

二台の馬車は、「冬の館」に到着しました。

冬の館の御者に案内され、二人の姫は冬の館のなかへ向かいます。

ロムスはコノメ姫とユミ姫を「前門」で見送りました。




コノメ姫は奥方様の居る応接室へ通されて、出立の挨拶を済ませました。

コノメ姫とユミ姫は、奥方様から冬の女王様、ユイ姫に宛てたお手紙を預かりました。

「寒いから温かくしていってくださいね」

そういって奥方様は二人の姫にマフラーを渡します。

「ユイをよろしくお願いしますね」

やさしく二人に声をかけました。


二人の姫は塔に向かうため、ふたたび「冬の館」の前門へ向かいます。春の館の馬車はロムスを乗せて館へと帰っていったあとでしたから、今度は二人そろって冬の館の馬車に乗りました。御者の他に、護衛の為に冬の館の女性兵士が一人運転席に乗り込みます。

お姫様二人を乗せた馬車はお城の通路をゆっくり進みます。正門からウルプスの街なかを通って塔に行く道のりではなく、城壁伝いにある秘密ひみつの通路から、塔をめざしています。

「秘密の通路」というのは、騎馬きばまたがった兵士たちが非常時にこっそり出撃するための出口であり、今回のように平時にはお忍びででかける者にとって家の裏口のようなものです。

内郭からね橋を通過して、「外郭の区画」へと馬車は出ました。兵士や、使用人、役人の住む区画です。

秘密の通路は、丘の中腹なかはらの地中をくりぬいた洞窟どうくつでした。

洞窟には、既に「冬の館」が手配した兵士によって、松明たいまつの灯りがともっていました。

馬車の中は松明のともしびをうけていましたが、すこし暗いようす。馬車内の明るさも手伝って二人の姫は冬の館までの道とは違って、静かにしていました。

カタカタと時折ときおり砂利じゃりや石を乗り越える音と、窓に松明の灯りが通り過ぎていくたびに続いていく景色をみていました。


丘のある麓の一画に洞窟の出口がありました。そのあたりは雪をかぶった草野原です。

「お姫様方、ここから先は景色をみることはもちろんけっこうなのですが、安全あんぜんのため、あまり窓のほうへ近づかないでくださいますようお願いしますね」

白く輝く平原を一台の馬車が行きます。馬車をく馬は一頭に減っています。馬車の外装の作りはすこし安っぽい風です。


運転席に座った女性兵士が二人にそういいました。

「はーい」とユミ姫が返事を言いました。

「わかりました」とコノメ姫が言います。

「コノメちゃんは、ユイちゃんが冬の女王様のお勤めを終えてからは、春の女王様になるでしょう?」

ユミ姫が隣に座るコノメ姫にそう話しました。

「うん。そうだけど」

コノメ姫は聞かれたことが意外な内容だったのでしょうか、少し不思議そうに感じている声で返事をします。

「わたしもね。今年の冬が始まる時期には冬の女王様になるんだ」

「うん。知っているわ。なかなか退屈そうだけど、頑張りましょう」

退屈たいくつというか、家を出ると、さみしく思うよね」

「まあ。そう、ね。数ヶ月、家に帰れないものね」

コノメ姫は親と弟、ユミ姫は親と姉の顔を思い浮かべました。

「だからね、コノメちゃん!?」

「ん、どうしたの、大きな声で」

「私、コノメちゃんが塔で春の女王様をしている間に遊びに行ってあげたいの。それで、コノメちゃんも私が冬の女王様になっている間はたまにでいいから塔に遊びに来てほしいんだ」

ユイ姫は笑顔でそういいますが、その顔は、どこかほんのすこしだけ不安そうにも見えました。

「……」

ユミ姫は黙ってコノメ姫の返事を待っています。コノメ姫はただただ驚いていました。そうしてから、にっこり笑いました。

「うん、約束するわ!」

コノメ姫はもう一つの魔法の言葉を聞いたような気持ちになりました。


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