10話
塔の上階にある「開かずの間」の前で、兵士のミカがいいました。
「開かないわね」
ミカが「魔法の火」で扉を焦がしてみても燃えず、剣で扉を叩いてみても、扉はびくともしません。
「冬の館」の居間では、ロムスとコノメ姫とヒナカ王子が食卓につき、顔を合わせていました。
館の使用人たちのまとめやくである執務長のロムスは、普段は主と同じ卓に着くことはありませんが、今回は、「春の館」からの伝言のため、特別に座っています。三人はお茶菓子を食べてお茶を飲みながら、「冬の館」からの迎えを待っていました。
「冬の女王を説得してお城に連れて帰り、なおかつ、今回の場合、冬の女王と春の女王が交代するためには、『春になるころに、春の女王となるコノメ姫と、冬の女王様のふたりが、「開かずの間」にある「塔の魔法」に関するあるものを手に入れる必要がある』のだそうです」
とロムスがコノメ姫とヒナカ王子に話します。
「以上です。伝えられたとおりに話しました」とロムスが最後に付け足して言いました。
「ロムス、『今回の場合』というと、私と冬の女王が交代することに限った話という意味なのでしょうか」と、コノメ姫がロムスに尋ねました。
「いえ、その点、私は詳しいことは聞かされておりません。詳しい事は、迎えの者に聴いてほしいとのことです」
「そうですか」
この話は、詰所の兵士から聞いたことでしたが、詰所の兵士はこの話を冬の館の奥方様からの伝言されていました。
ロムスは、詰所の兵士を経て、冬の館の奥方様より、このことを「冬の館の者」に伝えるように言われていました。
ロムスは、冬の館の兵士から季節の廻りを早めることのできるという「塔の魔法」についての話も伝え聞いてきていました。
「塔の魔法」がなんなのか、詰所の兵士に対して奥方様は何一つ明かさなかったそうです。
そのかわりに、塔の魔法につながる部屋へと入るため必要となる、「魔法の言葉」を教えてもらったのでした。
ロムスは、コノメ姫にその言葉を教えました。
「今の言葉を、扉の前に立って、唱えたらよいのですね。わかりました」
「へー、コノメは魔法を使うの? ねえ、僕もついて行ってもいいのかな?」とヒナカ王子がいいました。その疑問にロムスが答えます。
「ヒナカ王子は私とお留守番です」
「そう。わかったよ。帰ってきたら、どうなったか聞かせてね」
「いい子にしていなさいよ」
「うん」
そうこうしているうちに、居間へ、伝令を伝えるために冬の館の使用人がやってきました。
伝令によると、「春の館」から「迎えの馬車」が到着したようです。