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冬の塔  作者: 櫛之汲 
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1話

道端の花。

林や森や木々。あるいは田畑。

春には芽生え、夏には茂り、秋には、葉が色づき、やがて寒い寒い冬がはじまります。


その国の名前は「塔の国」。


短い草の生える野原の真ん中に大きな塔が建っています。


大きな塔のある平原は、夏には緑にあふれていました。

平原の地面に生えていた草も弱弱しくなる季節の秋には、平原だけでなくとも、植物の葉は枯葉色になってしまいます。


もうじき雪が降るのでしょうか。

塔の建つ平原は、とても広い場所です。

大人たちでさえも平原の真ん中にある塔にまで出かけて行くと、へとへとに疲れてしまいます。

その広い平原まわりには、人々の暮らす街があります。

その街では、小さな家も大きな家も学校もお店も軒を連ねています。

そんな街の名前は「ウルプス」といいました。


冬が近くと木が枯れてしまう様子をみて「木枯らしが起きた」とウルプスの街の人がいいます。


「木枯らし」とは、冷たい風に吹かれた樹々が、枯れてしまうことをいいます。木枯らしが吹くと秋に色づいた紅色の葉が、茶色や黄色となり、ついには地面に落ちてしまうのです。地面に落ちた葉は長い時間をかけて土になります。暖かな春になれば枯れてしまった木の枝に、また新しい緑が葉が生えてきます。


木枯らしの吹く冬の季節となりました。

季節は、春、夏、秋、冬。春、夏、秋、冬。春と順番に廻ります。

ですから、冬の次は春の出番です。

遠い昔から、この「塔の国」は、春と夏と秋と冬、この4つの季節をつかさどる女王様たちを平原の塔に交代で住まわせることで、「塔の国」の一年の平和と繁栄を祈る、「祭事」を行います。

この塔の国では、冬の季節に、冬の女王様が塔のなかで生活をしています。


塔の周りは平原です。今は、冬ですから、塔の周りは、さみしい景色が広がります。

塔から遠くの方に、王様や人々の暮らす街がみえます。


東から昇った太陽の光は西に沈み、夜になりました。


高い塔の屋上からは、夜空の上で光る星がよくみえます。近くに光源がないことも手伝っていました。

遠くの街も常夜灯の明かりによって、きらきらと天の河のように綺麗に光っています。


木枯らしの吹いたその日、冬の女王様は、ウルプスにある自分のお家「冬の館」から、自然にお祈りをする大事な祭事のために、この塔へ来ていました。

その日の夜、冬の女王様は、塔の中で自分の部屋で眠れずにいました。

冬の女王様は、1年ぶりに塔に入って、1年ぶりに自分の部屋に入りました。冬の女王様は、塔にこもる祭事をこれまでに2度お勤めしています。今回の冬の季節を塔で過ごせば3度です。塔での祭事を3度務めると、塔の国の決まりによって、今の冬の女王様は、次の女王様に祭事の役を交代します。ですから、今の冬の女王様は、この冬で祭事のお仕事を終えて、冬の女王様になる前の、お姫様としての日常に再び戻ることになります。


塔の中から屋上へと向かいます。

冬の女王様は、満点に光り輝く空の星明りと街の燈を見ていました。



冬の寒さは、日ごとに厳しさを増していきました。

ウルプスの街には塔の国の王様が暮らすお城があります。

お城では、召使や役人や兵士が今日も忙しく働いています。

冬の女王様が塔に籠られてからは雪も何度か降りました。

最後に大雪が降ってから1週間ほど時間が経ちましたが、昨夜から今朝方まで吹雪いていた雪によって今もお城の屋根や城壁まで雪がずっしりと積もっています。数人の兵士が大きな梯子やスコップを抱えている様子がお城のあちこちに伺えました。


城下のウルプスの街は、屋根に雪を残す家もありましたが、それはごく少数です。街の路地の隅には雪かきで積まれた雪がどっさり置かれています。ウルプスの街にあるお家の多くは、木や煉瓦でつくられたものでしたから、丈夫な石や鉄で造られた王城とはちがい、こまめに屋根から雪を落とす必要があったのです。そうしないと、水をたくさん含んだ重たい雪によって、屋根が傷んでしまいますし、それによって家が壊れてしまうこともあるからです。

家々の庇からは氷柱もたれています。

大屋敷ともいえましょうか、石造りの大きな商人の店先のことです。そこでは商店の見習いさんたちが大通りの雪をスコップで汗水流して道路の隅へとかき分けていきます。大通りの十字路のすべてをかき分けるような勢いです。掬われた雪が雪なげをしているような速さで道の隅へ次々放られていきます。

朝早くのウルプスの街のあちこちで煮炊きの煙が立ち昇ります。












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