表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

玄関の暗闇

作者: 猫まるまり

毎夜、自宅のドアをあけたときの暗闇を見て呆然とする。


帰宅すると私は一人暮らしだから勿論誰もいない。

暗い玄関で3センチのヒールを脱ぎ、スーツのボタンを外しながら冷蔵庫へ向かう。

その時頭の中はその日会社であった嫌な事でいっぱいだ。

冷蔵庫から好きな酒を見繕うと、1人テレビの前に陣取り、乾杯する。

遮光カーテンは休日しか開けないから裸にちかいペラペラのワンピースでも見とがめられる事はない。

アルコールを摂取しながらテレビをザッピングする。

ラインは見ない。人と関わりたくないから。

1人で笑い、1人でご飯を食べ、1人で眠る。

そんな生活が嫌な訳じゃない。

ただ自宅のドアをあけたときの暗闇だけが恐いのだ。

私は1人なのだということを厳然と教えてくるのだ。


ある日、会社の飲み会で同期の田中君と妙に気があって、タクシーまで呼んでくれた。

なんとなくの雰囲気で私の部屋へお通しして、結局その日泊まることになった。

朝方、ベッドの中で田中君が隣の私に聞える音量で言った。

「朝はさぁ、女がさぁ、朝食とか作っていてくれると嬉しいなぁ」

そこにイラっとした。

表情に出ていたのだろう、田中君はベッドを出るとシャツを着始めで背中を向けて訊いてきた。

「あのさぁ、君、僕と付き合う気あるの?」

「私1人が好きなのよね」

すらすら~とついて出た言葉に自分で驚いた。

田中君は全て着終わると、苦笑いを浮かべた。

「オッケー。じゃ会社で」

田中君が去った後、私はシーツを乱雑に洗濯機に入れた。


私は本当に1人が好きかと訊かれればNOだ。

暖かい家庭には憧れる。

今の会社は一流企業なので田中君なんか夫にしたら正解だったのだろう。

専業主婦で子供も産めたかもしれない。

でも嫌だ。

働いていたい。

1人でいようが関係ない。

私は自立した女でありたい。

自分の金で自分を食わせる身でありたい。

それが私の望む姿だったのだと気付いた。


玄関を開けると広がる暗闇は恐いけど、恐れずに入っていく。

それは未来と似ている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 自立心の強い女性でも、はっとするような暗闇は怖いですよね。それが知らない場所ではなく、自分の家の玄関というところがリアルで親近感がわく作品でした。 一人で生きていく強さは、裏を返すとしがらみ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ