8 蒼昊の騎士
繁華街の外れ、塀にもたれかかって夕方、いつもと同じくまどろんでいるとなにやらばたばたと騒がしい音が。うっすら目を明けると通りの向こうからものすごい速さで一人の騎士が走ってくる。止めてある原付にもろに激突し、派手に横転させたが気にせずやって来る。銀色の髪を脇で束ねた女性、着ているのは軽装の鎧。まだ若い蒼昊騎士だった。
相手は路肩のレオナルドを認めると、いきなり直角に近い切り替えしをした上で突進してきた。転んで、塀に思いっきり頭をぶつけるがかまわず、人形じみた不自然な動きで跳ね起き、少年の肩を掴んで叫んだ。
「おお、君は猟兵だな! ということはわたしに降りかかったどうしようもない騒動を解決してくれるってことなんだな?」
「それは」レオナルドは片目を閉じたまま応じる、「どういった騒動か伺わないと」
「無論言う! 今言う! すぐ言う、しかしわたしにひとつの疑念、君っていささか若すぎるのではないか? 正規の猟兵なのだろうな?」
「いや、これでも十八歳なんですが」
「そうか。まあその落ち着きよう、どうやら経験は積んでいよう。そうだろ」
「さあ、どうでしょうか」
蒼昊騎士団は天空教会が擁する武装集団だが、今日どんな仕事をしているのかいまいち分からない。教会関係の建物を警護していたり、道の掃除、そこらの店でたむろしているのを見かける程度だ。市民はなんとなく胡散臭い印象を抱いている。それは教会も同じで、賭博場だの煙館をひそかに経営してるって噂もある。
女騎士はマチルダ・ウェストと名乗った。この教区の警邏を担当しているそうだ。
「で、問題っていうのはなんですか」
「赫くらげが五匹いつまで経っても付いて来る!」
「は?」
「赫くらげだ! 有毒、イチゴの臭いがするやつらが、いまもわたしの上を飛び交っているではないか!」
「ちょっと見えないですね」
「猟兵ってのはこういう怪異を片付けるために存在してるのではないのか! 天空神ヒムにかけて! 毒液がまさにわたしに注入されている最中だぞ!」
「刺すんですかその、」
「赫くらげ!」
「赫くらげは」
「五匹中四匹が……アッ、五匹になった! 頭頂部に針を突き刺しているだろ!」
なんかクスリでもやってるんじゃないかな、と半信半疑ながら、レオナルドは雑種刃を抜いた。
「とにかく振るえ、レオナルド! 当たらずとも風圧がこいつらを怯ませる!」
「分かりました」
渾身の力で少年が刃を横一文字に振るえば、マチルダはいきなり笑い出し、
「はははは! さすがだ、忌々しい害獣が……すべて押しつぶされて内臓が飛び散ったぞ。この調子であの月に巻きついている赫くらげの母体もいつか人類は破壊できるだろう、よくやったよくやった。わたしはこのまま北へ向かってどこまでも……」
言いながら騎士は楽しげに去った。レオナルドは人助けをしたものの、なんとなく不気味な気分になった。




