7 白い猫
夜中に空腹を覚え、近所のコンビニへ買い物へ出かけた際に、レオナルドは怪人と出会った。そいつは、白くて毛の長い猫の着ぐるみを纏っていて、身長が三メートルくらいあった。やにわに雑種刃を付きたてようとしたが、しかし会釈してきたので、まあ害はないだろうと思って、気にせず歩いて行った。
近所のコンビニ。夜勤の店員は、覇気のない兄ちゃんだった。「いらっしゃいませ」と言われたことは一度もないし、「ありがとうございます」もない。もうあきらめているので別にどうでも良かった。この日もむろん挨拶はない。
雑誌売り場に行くと人が倒れていたので、酔っ払いかと思ったら死体だった。もはや死体のひとつふたつでは動揺しないレオナルドだったが、腐敗がひどかったので、さすがに店員に文句を言うべきだろうとレジへ向かった。
すると、さきほどまでいたいつもの兄ちゃんではなく、三メートルの猫の着ぐるみがそこに立っていたのだった。
「あの、すみません」レオナルドは相手を見上げて、「店内に死体が転がっているのですが」
しかし反応はなかった。
数秒後、糸が切られた傀儡のように着ぐるみはどさりと床に倒れた。
どうやらこれも死体だったようだ。
レオナルドは店を出て、少し離れた別のコンビニへと向かうことにした。
そちらの店の前にパトカーが止まっていて、ボンネットに腰掛けた一人の若い警官が、ドーナツをまずそうに食べている。無精ひげを生やした、冷淡そうな男だった。
レオナルドは少しためらってから、彼に話しかける。
「あの、お食事中すみませんが」
「なんだい」
「向こうにあるコンビニに、死体が転がっています。そのうち一体は白い猫の着ぐるみを着てて、身長が三メートルくらいあります。そこに行く途中、同じ着ぐるみを着て、やはり身長三メートルの人とすれ違いました。もしかすると犯人かも」
警官はじっとレオナルドの目を見たあとで、
「なあ、最近それ流行ってるのかい」
「なんですって?」
「多いんだよそういった悪戯通報が。町じゅうに死体が転がってるとか、家の風呂に見ず知らずの死体が入ってるとか。われわれも暇じゃないんで、もはやそういうのに一々対応していられないんだよ」
「いや、だけど」レオナルドはもう少しだけ食い下がってみることにした。「実際に向こうのコンビニへ行ってみれば分かりますよ。いつも態度の悪い店員がいるのですけど、その人がいつの間にか猫に摩り替わっていたんです」
「ほら、語るに落ちたな。さっきは猫の着ぐるみと言ったのに、今は猫と言ったじゃないか」
「省略したんですよ」
「ほんとうに死体が二つも転がってるような深刻な状況なら、省略するはずがないだろう。冗談はいい加減にしたまえ、少年。おおかた向こうにコンビニがあるっていうのも嘘だろうな」
「それは本当ですよ」
「またボロを出したな。『それは本当』ということは、やはり白い猫の着ぐるみとか、そっちのは嘘だな。つまり君は、その態度の悪い店員にいらついて、ひと騒動起こそうって腹だったんだろ。ところがどっこい、そうは問屋が卸さないぜ」
レオナルドは警官を説得するのを諦めて、買い物を済まそうと入店した。
レジに、白い三メートルほどの猫の着ぐるみが立っていた。微動だにしない。おそらくあれの中身も死体だ。
店を出て警官を呼ぼうと思ったが、やめた。結局なにも買わないで帰って、寝て空腹を紛らわせることにした。




